ノキア、AI・クラウド向け売上が前年比2倍超 光通信半導体の増産を加速
2026年7月25日 14:33
ノキアが7月23日に発表した2026年第2四半期(Q2)決算では、AIおよびクラウド顧客向けの売上高が前年同期比105%増と、2倍を超えた。世界的なAIインフラ整備が、GPUやデータセンター向けコンピューティング機器だけでなく、ネットワーク伝送機器の実際の売上にも波及していることを示す、これまでで最も明確な財務上の証拠となった。一方、高性能光トランシーバーの基盤となるリン化インジウム(InP)の供給能力が業界の制約となっており、ノキアは米国での生産能力拡大を急いでいる。なお、ユーロからドルへの換算は2026年7月23日時点の1ユーロ=1.14ドル、円換算は1ドル=164円としており、いずれも概算である。
■AI・クラウド受注が過去最高も「需要ではなく供給が制約」
ノキアの2026年第2四半期における比較可能売上高は48億1,500万ユーロ(約54億9,000万ドル、約9,004億円)となり、報告ベースで前年同期比8%増、為替変動の影響を除いたベースで9%増となった。比較可能希薄化後1株当たり利益(EPS)は0.07ユーロ(約0.08ドル)で、アナリストのコンセンサス予想を1株当たり0.01ユーロ上回った。一方、売上高はコンセンサス予想の48億3,000万ユーロに約1,000万ユーロ届かなかった。未達幅は小さいものの、主要な成長指標が幅広く堅調だった一方で、株式アナリストにとっては評価の分かれる決算となった。
同四半期のAIおよびクラウド顧客向け受注額は、ノキアの決算発表によると28億ユーロ(約31億9,000万ドル、約5,232億円)に達し、過去最高を記録した。ジャスティン・ホタードCEOは、この受注の約半分が今後12か月以内に売上高へ転換するとの見通しを示し、ハイパースケーラーやクラウド事業者からの需要は引き続き堅調だと述べた。制約となっているのは顧客の支出ではなく、生産能力である。
ホタード氏は「需要は引き続き堅調だが、供給が業界の主な制約であり続けている。このため、顧客はより長期の注文を行うようになっている」と述べた。
この供給制約の物理的な要因となっているのが、高性能コヒーレント光トランシーバーの基盤となるIII-V族化合物半導体、リン化インジウム(InP)である。世界各地の数百の半導体工場で大量生産できるシリコンとは異なり、InPチップの製造には専用設備、高度なプロセス技術、専門施設が必要となる。アジア以外で対応できる施設は片手で数えられるほどしかない。通信事業者、AIクラスタ、データセンター間接続の顧客は、いずれも限られたInPファウンドリの生産能力を奪い合っている。ノキアが勝ち抜こうとしているのは、この供給能力を巡る競争である。
■光ネットワーク急成長の背景にあるAIクラスタの帯域幅問題
光ネットワークとIPネットワークを含むノキアのネットワークインフラストラクチャ部門の売上高は、前年同期比12%増の20億3,700万ユーロ(約23億2,000万ドル、約3,805億円)となった。このうち光ネットワーク事業は20%増、IPネットワーク事業は16%増だった。ノキアは現在、IPおよび光ネットワーク事業の通期成長率について、為替変動の影響を除いたベースで18~20%を見込んでいる。
成長を支えているのは、AIシステムのアーキテクチャ上の要請である。大規模言語モデルや生成AIでは、時に10万基以上のGPUで構成される巨大クラスタが必要となり、モデルの学習や推論のため、すべてのノード間で継続的な広帯域通信を行わなければならない。GPUが同じ施設内に設置されている場合でも、相互接続には光ファイバーネットワークが使われる。
電力供給や排熱の制約に対応するため、GPUクラスタを複数のデータセンターに分散させるケースも増えている。その場合、ノキアの光ネットワーク戦略に関する分析によると、毎秒800ギガビット以上で稼働する長距離または都市圏のデータセンター間接続(DCI)が必要となる。ノキアのコヒーレント光システムは、InPフォトニック集積回路(PIC)とシリコンフォトニクス対応DSPを基盤とし、このDCI市場向けに設計されている。
ノキアのネットワークインフラストラクチャ部門プレジデントであるデイビッド・ヒード氏は、2026年3月にロサンゼルスで開催されたOFCカンファレンスで、この格差について説明した。過去20年間でコンピューティング能力が6万倍に向上した一方、ネットワーク性能の向上は約30倍にとどまったという。AIはこの格差の解消を迫っており、その動きは急速で、ノキアによれば業界の開発サイクルは4年から18か月へ短縮している。
ノキアが2025年2月にインフィネラを買収したことは、InPの社内製造能力を獲得するための戦略的な一手だった。具体的には、カリフォルニア州サニーベールにあるフォトニック集積回路ファウンドリを取得した。このファウンドリがあることで、InPウェハーが不足する状況でも、外部の部品供給業者に依存する光通信機器の競合他社に対し、ノキアは供給面で優位に立てると主張している。
■米国3拠点での半導体投資とAI-RANプラットフォームの展開
今回のQ2決算発表に含まれる戦略上最も重要な発表は、売上高の数字ではなく、ノキアがInP半導体のサプライチェーンに対する管理を強めつつあることだ。
ノキアは、米国の光通信機器製造能力に対する3つの並行投資を明らかにした。インフィネラから継承した技術を基盤とするカリフォルニア州サンノゼの新たなInP製造施設では、すでにテストウェハーを処理しており、計画どおり2026年第4四半期に量産を開始する見込みである。
またノキアはQ2中、ペンシルベニア州の施設における先端光部品の試験・パッケージング能力を10倍に拡大し、2026年第3四半期から増強を始めると発表した。さらに7月23日には、アリゾナ州チャンドラーにあるNXPの半導体製造キャンパスを取得する最終契約を締結したと発表した。規制当局の承認が条件となる。ノキアは2027年初めに施設の一部を賃借し、買収全体が完了する見込みの2029年第1四半期までに、敷地全体を光部品向けInP生産へ転換する計画だ。
ノキアはチャンドラーの施設を取得する理由について、決算発表の中で「安全で拡張可能な米国内の供給体制が、米国の幅広いテクノロジーエコシステムとAIスーパーサイクルの構築にとって、ますます重要になっている」時期に、米国内のInP半導体製造能力を追加できるためだと説明した。この表現は、コストや性能だけでなく、サプライチェーンの安全保障が設備投資判断を左右していることを示している。
必要となる投資額も大きい。ノキアは主として光通信機器の生産能力拡大に充てるため、通期の設備投資額の前提を8億~9億ユーロ(約9億1,200万~10億3,000万ドル、約1,496億~1,689億円)へ改定した。
一方、モバイルインフラストラクチャ部門の売上高は前年同期比6%増の26億8,000万ユーロ(約30億6,000万ドル、約5,018億円)となり、比較可能営業利益は3億1,000万ユーロで横ばいだった。同部門でより重要な動きは、決算発表の前週にあった。ノキアは7月15日、同社が業界初と位置付ける商用AI無線アクセスネットワーク(AI-RAN)プラットフォームを発表した。
このプラットフォームは、ノキアのanyRANソフトウェアと、CUDA対応GPU上で動作するNVIDIAのAerial AI-RANプラットフォームを組み合わせたものだ。アーキテクチャ上の重要な点は、AIを実行する場所にある。
従来の5G基地局では、ノキアのReefSharkシステム・オン・チップなどの専用ASICを使い、高速フーリエ変換、チャネル推定、前方誤り訂正の符号化を含むLayer 1の物理層処理を行う。ASICは電力効率が高い一方、機能が固定されているため、アルゴリズムはハードウェアに組み込まれており、ハードウェアを交換しなければ更新できない。
ノキアのGPUベースAI-RANは、このASIC層をNVIDIAのGPUコンピューティングで置き換えるか、補完する。これにより、物理無線層でAIアルゴリズムを動的に実行し、固定機能の半導体では難しいビームフォーミングパターンの適応、干渉管理、無線リソースのスケジューリングが可能になる。
ノキアは、この手法によって周波数利用効率を20%以上向上できることを実証したとしている。ロードマップでは、2027年までに50%、2028年までに100%超の向上を目標としている。100%超を達成すれば、免許を受けた周波数帯の収容能力が実質的に2倍になる。
ただし、100%という数値は現在達成済みの性能ではなく、2028年に向けたロードマップ上の目標であり、現在も開発中のAIアルゴリズムに依存する。これに対し競合のエリクソンは、物理層をGPUに移行させず、既存のASICハードウェア上でAI最適化ソフトウェアを動かす異なるアーキテクチャを採用している。エリクソンはすでに15件を超える商用導入を稼働させており、周波数利用効率を約10%、下り通信速度を最大15%改善している。
ノキアが2028年までの目標として掲げる100%超と、エリクソンが現在実現している約10%との間には大きな差がある。一方で、ノキアの商用導入が現時点でゼロであるのに対し、エリクソンには15件を超える導入実績があるという差も存在する。
ノキアは通信事業者向けに、既存のAirScale基地局ハードウェアに装着するGPUプラグインカード、独立型AI-RANノード、クラウドネイティブな通信事業者向けのGPU搭載市販サーバーという3つの導入方法を用意する。商用提供が予定されている2027年から、ハードウェア更新ではなくソフトウェアのサブスクリプションモデルによる売上が発生する見込みだ。具体的な導入時期を公表している通信事業者はT-Mobile USのみで、2026年末までにフィールド試験を行い、2027年に商用導入を始めるとしている。
■構造改革費用と今後の見通し
報告ベース(GAAP)では、ノキアのQ2営業損益は5,000万ユーロ(約5,700万ドル、約93億円)の赤字となった。報告営業利益率はマイナス1.0%で、前年同期のプラス3.3%から4.3ポイント低下した。主因は、構造改革プログラムの加速である。
ノキアは現在、2026年の構造改革関連費用を合計8億ユーロ(約9億1,200万ドル、約1,496億円)と見込んでいる。費用は並行して進める3つのプログラムから生じる。まず、8億~12億ユーロの総削減効果を目標とする当初の2023~2026年コスト削減プログラムは、目標範囲の上限に向けて進んでおり、2026年には残り2億5,000万ユーロの費用を計上する。
次に、ノキアが完全子会社化した中国の合弁会社の統合では、当初2~3年を見込んでいた期間を2年へ短縮し、2026年末までに3億5,000万ユーロの費用を前倒しで計上する。さらに、主として欧州で実施する新たな簡素化プログラムにより、2026年には2億ユーロの追加費用が発生する見込みである。
構造改革の影響を除いた比較可能(Non-GAAP)ベースでは、売上総利益率が前年同期比0.7ポイント上昇して46.0%となり、営業利益率も0.7ポイント改善して9.0%となった。Q2のフリーキャッシュフローは7億3,200万ユーロ(約8億3,400万ドル、約1,368億円)のマイナスだった。規模は大きいが、構造改革に伴う現金支出と顧客からの入金時期が一因となっている。
またノキアはQ2、固定無線アクセス(FWA)向け顧客宅内機器(CPE)事業と、エンタープライズ・キャンパス・エッジ事業を非継続事業に分類した。FWA CPE事業についてはInseegoへの売却で合意しており、エンタープライズ・キャンパス・エッジ事業の売却も同様に実現する可能性が高いと判断している。
この分類変更により、通期の比較可能営業利益見通しは従来の20億~25億ユーロから21億~26億ユーロ(約23億9,000万~29億6,000万ドル、約3,920億~4,854億円)へ変更された。ただしノキアは、これは事業の改善による上方修正ではなく、会計上の技術的な変更だと明示している。両事業を引き続きセグメント業績に含めていた場合、Q2の売上高は6,600万ユーロ多く、比較可能営業利益は1,300万ユーロ少なくなっていた。
言い換えれば、撤退対象の事業は全体の利益率を押し下げていた。中核となる継続事業の収益性は、見通しの表面的な引き上げから受ける印象よりもわずかに高い。したがって、21億~26億ユーロという見通しは、業績の上方修正ではなく、同一条件で比較するための改定として捉える必要がある。
ノキアは2026年第3四半期(Q3)の売上高について、Q2から3~7%増加すると見込む一方、比較可能営業利益は前四半期とほぼ同水準になると予想している。Q3の営業利益が横ばいとなるのは、ソフトウェア売上を認識する時期の影響によるものだ。ソフトウェアの比重が高い案件は、契約の成立と売上計上が四半期ごとに偏りやすい。営業利益はQ4に大きく増加する見込みである。
ノキアはまた、1株当たり0.04ユーロ(約0.05ドル)の配当を発表した。基準日は2026年7月28日、支払日は同年8月6日である。これは2025年度について、取締役会が承認した1株当たり最大0.14ユーロ(約0.16ドル)の配当のうち、予定されている4回の四半期配当の3回目に当たる。取締役会の残る承認枠は1株当たり0.06ユーロ(約0.07ドル)である。
次回の決算発表は2026年10月22日に予定されており、Q3および1~9月期の業績を公表する。
通信事業者、企業の購入担当者、AIインフラ投資を追う投資家にとって、ノキアのQ2決算は一企業の業績を超える意味を持つ。ノキアは世界最大級のRANベンダーであると同時に、通信事業者向けの光・IPネットワーク機器を世界規模で供給する大手企業の一つであり、その受注状況はネットワーク投資の行方を示す先行指標となる。
AIおよびクラウド顧客向け売上高が105%増加し、光ネットワーク事業も20%成長したことは、ハイパースケールデータセンターやAI推論処理が生み出す帯域需要が、発表や計画だけでなく、実際の機器売上に転換していることを示している。通信事業者には、長距離光回線と都市圏IPネットワークの双方で、より多くの容量を、より短期間で整備することが求められている。
現在の制約は供給、特にInPウェハーの生産能力にある。そのため、ノキアが米国内で半導体製造能力の構築を急いでいることは、今回の発表で最も重要な戦略的行動といえる。ノキアを供給業者として検討する通信事業者は、供給制約が現実に存在する一方、同社が生産能力を積極的に拡大している点に留意すべきだ。
複数年契約を検討するハイパースケーラーの調達部門に対しては、サンノゼとペンシルベニア州での増強が2026年後半から大規模生産につながり、アリゾナ州チャンドラーの施設が2027年以降、InPの生産能力をさらに追加するという見通しが示された。ノキアの競争力をCiena、エリクソン、Huaweiと比較する投資家は、光通信需要がピークを迎える中で、InPの垂直統合による優位性が持続的な利益率につながるかを注視する必要がある。
■注目ポイントQ&A
●ノキアの2026年第2四半期決算は市場予想を上回りましたか?
部分的に上回りました。比較可能希薄化後EPSは0.07ユーロ(約0.08ドル)となり、アナリストのコンセンサス予想を1株当たり0.01ユーロ上回りました。一方、売上高は48億1,500万ユーロ(約54億9,000万ドル)で、約48億3,000万ユーロというコンセンサス予想を約1,000万ユーロ下回りました。AI・クラウド顧客向け売上高の105%増、光ネットワーク事業の20%増、利益率の0.7ポイント改善など、基礎的な事業指標は総じて堅調でした。未達幅が小さいため、多くのアナリストは不足額よりも成長軌道を重視するとみられます。
●リン化インジウム(InP)サプライチェーンとは何ですか?なぜ重要視されているのですか?
リン化インジウムは、長距離およびデータセンター向け光ネットワークで使われる高性能レーザー、光検出器、コヒーレントトランシーバーを実現するIII-V族化合物半導体です。シリコンに比べ、InPの製造には特殊な設備と専門知識が必要で、対応能力は少数の施設に集中しています。2025~2026年にAIデータセンターの建設が急増したことで、InPベースの光部品需要が世界の供給能力を上回り、ノキアのCEOが言及した供給制約が生じています。ノキアは2025年2月のインフィネラ買収で、カリフォルニア州サニーベールのInPフォトニック集積回路ファウンドリを取得しました。サンノゼ、ペンシルベニア州、アリゾナ州チャンドラーの米国3拠点への投資は、AIインフラ支出が続く中、InP製造能力の管理を持続的な競争優位につなげることを狙ったものです。
●ノキアのAI-RANプラットフォームとエリクソンのアプローチの違いは何ですか?
ノキアのプラットフォームは、無線の物理処理層であるLayer 1でNVIDIAのGPUを使用し、AIアルゴリズムによってビームフォーミング、チャネル推定、リソース割り当てをリアルタイムに最適化します。ノキアのAI-RANに関する競合分析によると、エリクソンのAI-in-RANは、物理層のASICハードウェアを置き換えず、より上位のネットワーク管理層でAIによるソフトウェア最適化を行います。エリクソンはすでに15件を超える商用導入を稼働させ、現在約10%の周波数利用効率改善を実現しています。一方、ノキアは2026年後半に試験導入を始め、2027年の商用提供、2028年までに100%超の周波数利用効率向上を目指しています。ノキアの方式は将来的に大幅な改善をもたらす可能性がありますが、基地局当たりでより多くのGPUコンピューティング能力を必要とし、現在も開発中のAIアルゴリズムに依存します。
●ネットワーク事業者や企業の購入担当者は、ノキアの供給制約に関する説明をどう受け止めるべきですか?
ノキアのCEOは、光ネットワークでは需要ではなく供給が「業界の主な制約」であり、生産能力を確保するため、ハイパースケーラーがより長期の先行注文を行っていると述べています。2027年や2028年に光ネットワークの拡張・更新を計画する事業者や企業にとっては、大容量コヒーレント光通信機器の納期が長期化していることを意味します。400Gや800Gの光伝送システムを必要な時点で調達できると想定すると、遅延に直面する可能性があります。ノキアはサンノゼとペンシルベニア州での生産能力拡大を2027~2028年の需要に対応させ、アリゾナ州チャンドラーの施設でさらに能力を増強する計画です。そのため、通常の調達サイクルより早い段階で供給業者との協議を始め、生産能力の確保について検討する必要があります。
元記事: Nokia AI and Cloud Revenue More Than Doubles as Optical Supply Race Begins