TikTok米国部門のCSO、9月15日に米下院で証言へ 事業分離後も続くByteDanceのアルゴリズム保有が焦点
2026年7月24日 18:25
TikTok USDS Joint Venture LLCでデータプライバシーとサイバーセキュリティを統括する最高セキュリティ責任者(CSO)、ウィル・ファレル氏が、2026年9月15日に米下院中国特別委員会で証言する予定だ。
2026年1月にByteDanceがTikTokの過半数支配権を米国主導の合弁会社へ移す取引を完了して以来、TikTok幹部が議会で公開質問を受けるのは初めてとなる。本公聴会では、2億人の米国人がTikTokで目にするコンテンツを決めるアルゴリズムの所有権をByteDanceが保持した理由や、それが取引で保証されるはずだったデータセキュリティに何を意味するのかが追及される見通しだ。
■1月の事業再編に残された重要課題
9月15日というファレル氏の証言日程は、ロイターの取材に応じた議会関係者が確認した。TikTok米国部門のCEOであるアダム・プレッサー氏は、同席しない見込みだ。ジョン・ムーリナー委員長の事務所の報道担当者は、公聴会についてコメントを控えた。
公聴会の背景には、歴史的な規模でありながら、情報開示が不十分なままの事業再編がある。ByteDanceは2026年1月22日、2024年に成立した「外国敵対勢力が管理するアプリケーションから米国人を保護する法律」に対応するため、米国側が過半数を所有する新法人「TikTok USDS Joint Venture LLC」を設立する拘束力のある取引を完了した。主要投資家であるオラクル(Oracle)、シルバーレイク(Silver Lake)、アブダビを拠点とするMGXは、それぞれ15%の株式を保有する。残りは米国および世界の投資家が保有し、ByteDanceの持ち分は19.9%となっている。これは、米国法上で外国企業による過半数所有に該当する20%の基準を下回るよう明示的に設計されたものだ。ByteDanceは、7人の取締役のうち1人を指名する権利も保持している。
オラクルは「信頼できるセキュリティパートナー」として、すべての米国ユーザーデータを米国内のクラウドインフラ上でホスティングし、取引に定められた国家安全保障上の条件が順守されているかを監査する責任を負う。合弁会社(JV)の責務には、アルゴリズムの監督、コンテンツモデレーションの健全性、ソフトウェアの安全性保証も含まれる。しかし、この体制が実際にどのように機能し、具体的に誰が何を管理しているのかは、これまで公開の場で説明されていない。
こうした不透明さは、米議会で継続的な批判を招いている。2026年5月、マサチューセッツ州選出のエド・マーキー上院議員(民主党)はTikTok USDSとオラクルに正式な書簡を送り、両社が米国ユーザーのデータをどのように保護し、外国勢力が米国ユーザーに表示される動画へ影響を及ぼすことをどのように防いでいるのか、詳細な説明を求めた。マーキー議員は特に、「TikTokのアルゴリズムが中国の影響を本当に受けないのかを含め、ホワイトハウスはこの合意について事実上ほとんど詳細を示していない」と批判した。
下院中国特別委員会のムーリナー委員長も、コンテンツ推薦アルゴリズムをめぐる未解決の問題とデータセキュリティへの懸念を公に表明している。委員長は2025年、合弁会社の経営陣を招いた公聴会を2026年に開催すると約束していた。9月15日の公聴会は、少なくとも部分的にはその約束を履行するものとなる。
■ByteDanceが保持した設計図:「再学習」の実態
9月の公聴会を前に、公開の場でまだ取り上げられていない最も重要な技術的問題は、ByteDanceがTikTokの推薦アルゴリズムを知的財産として保有し続け、合弁会社に有償でライセンス供与している点だ。合弁会社のセキュリティ条件では、オラクルのクラウドに保存された米国ユーザーデータを使ってアルゴリズムを「再学習、テスト、更新」することになっている。しかし、米国のデータを使ってモデルの重みを再学習することは、基盤となるアーキテクチャを置き換えることと同じではない。
TikTokの推薦システムは、ByteDanceの研究者が「Monolith(モノリス)」と呼ぶリアルタイム深層学習アーキテクチャを基盤としている。この仕組みは、数十億人のユーザーにわたってモデルのパラメータを分単位で同期する。コンテンツの順位付けは複数段階の処理で行われる。まず候補検索層が、利用可能な数十億本の動画を数千本の候補に絞り込み、続いて事前ランキングモデルと詳細ランキングモデルが、各候補について再生時間、保存、共有につながる可能性を評価する。再生時間と動画の視聴完了率はランキングシグナルのおよそ40~50%を占め、保存と共有は「いいね」よりも大きく重み付けされる。
このアーキテクチャを設計し、その知的財産権を保持しているのはByteDanceだ。合弁会社は、ユーザーの好みを数値として表す重みであるモデルのパラメータを、米国のデータだけを使って再学習する。しかし、アーキテクチャ自体、学習手法、モデルの評価基準、将来の更新に用いる枠組みはいずれもByteDanceに由来し、その知的財産権の下に置かれている。
2026年3月に提起された投資家訴訟では、この構造が、コンテンツ推薦アルゴリズムでの協力を含め、米国法人がByteDanceと「運用上の関係」を持たないことを求めるTikTok関連法に違反すると名指しで主張されている。この訴訟は、競合するソーシャルメディア企業の個人投資家を代理してPublic Integrity Projectがコロンビア特別区巡回区連邦控訴裁判所に提起したもので、現在も係争中だ。
アトランティック・カウンシルのデジタル・フォレンジック・リサーチ・ラボで中国担当上級研究員を務めるケントン・ティボー氏は、2026年1月にこの取引を分析した。同氏は、ByteDanceがアルゴリズムを売却せずライセンス供与したため、「日々のコンテンツモデレーションやデータセキュリティの監督が現地化されても、中国政府がシステムの進化の仕方に一定の影響を及ぼす可能性がある」と結論付けた。また、仮にアルゴリズム操作が行われたとしても、特定の種類のコンテンツをあからさまに優遇するのではなく、微妙な形を取る可能性が高いため、実際にその影響を特定するのは難しいと指摘している。
■19.9%所有の企業に中国の法律は適用されるか
公聴会でまだ公開の議論が行われていないもう一つの問題が、ByteDanceの持ち分を支える法的構造だ。北京に本社を置くByteDanceには、2017年に施行された中国の国家情報法が適用される。同法第7条は、すべての組織および国民に対し、国家の情報活動を「支持し、支援し、協力する」ことを求めている。この義務が適用されなくなる企業所有比率の基準は、同法に明記されていない。
米国土安全保障省(DHS)は同法について、中国の企業や団体に「国外および国内で収集したデータを中国政府に引き渡す」よう強制するものだと説明している。一方、その執行の仕組みについては法学者の間でも見解が分かれている。China Law Translateのジェレミー・ダウム氏は、第7条には違反に対する明示的な罰則がなく、積極的なデータ収集を義務付ける意図の規定ではないと論じている。これに対し、The Diplomatや米国の情報機関は、法的手段以外の方法でも履行を強制され得る、実効性のある義務として扱っている。
実務上の焦点は、19.9%の持ち分によって中国政府がByteDanceのアルゴリズムに関する知的財産へ事実上の影響力を行使できるのか、また、オラクルのセキュリティ対策がそうした影響力に対する障壁となるのかという点だ。ファレル氏は9月に委員会へ出席した際、まさにこの問題への回答を求められるとみられる。TikTokは、中国政府が米国ユーザーのデータにアクセスしたことは一度もないと一貫して否定している。そうしたアクセスが確認された事例は、公には記録されていない。
ByteDanceにおける過去のデータアクセス事例も、関連する背景となる。2022年に流出したTikTokの80件を超える社内会議の音声から、2021年9月から2022年1月にかけて、中国を拠点とするByteDanceの従業員が米国TikTokユーザーの非公開データへ繰り返しアクセスしていたことが明らかになった。
これとは別に、社内調査では、2022年12月にByteDanceの従業員4人が米国人ジャーナリストのデータへ不適切にアクセスしていたことが確認された。アクセス対象にはIPアドレスの記録も含まれ、報道機関への情報漏えい元を突き止めようとしたものだった。関与した従業員は解雇された。これらの事例はいずれも、2026年1月の事業再編とオラクルによるセキュリティ枠組みの導入前に起きたものだ。
さらに2025年5月、アイルランドのデータ保護委員会(DPC)は、欧州経済領域(EEA)のユーザーデータを一般データ保護規則(GDPR)に違反して中国へ不法に移転したとして、TikTokに5億3000万ユーロの制裁金を科した。これは2026年7月23日時点の為替レートで約6億500万ドル、1ドル=164円で換算すると約992億円に相当するが、いずれも概算である。TikTokは不服を申し立てたが、アイルランド高等裁判所は2026年6月、DPCの認定と制裁金を支持した。
■公聴会で何が解明できるのか
9月15日の公聴会で、根本にある技術的・法的問題が解決する可能性は低い。これらの問題にはTikTok USDS、オラクル、米国政府の間で交わされた機密のセキュリティ協定が関係しており、ファレル氏が公開の場で説明できる内容には制約がある可能性があるためだ。
一方、公聴会では、事業再編に伴う約束が監査済みなのか、ByteDanceが保持するアルゴリズムの知的財産が独立した検証を受けているのか、取引条件によって、ByteDanceが所有しライセンス供与するシステムを変更できないようになっているのかについて、初めて公式記録に残る形で説明を求めることができる。
議会スタッフがファレル氏とともに誰を証言者席に着かせるのか、あるいは誰が目立って不在となるのかは、ファレル氏の証言内容そのものと同じくらい重要な意味を持つ。現時点では、オラクルの担当者もTikTok米国部門のプレッサーCEOも出席しない見込みだ。セキュリティ監査の詳細を説明できるオラクル幹部が出席すれば、技術アーキテクチャについてファレル氏だけでは答えられない可能性がある問題にも対応できる。
■上院におけるもう一つの追及
下院中国特別委員会の公聴会は、議会で並行して進む2つの追及のうちの1つだ。上院司法委員会のチャック・グラスリー委員長は、TikTokの周受資(ショウ・ジ・チュウ)CEOに加え、Meta、Alphabet、Snapの各CEOを招く公聴会を2026年6月23日に設定した。「これはソーシャルメディアにとって『たばこ産業の転換点』なのか」と題し、子どものオンライン上の安全に焦点を当てるものだった。日程の発表時点で各CEOは出席を確定しておらず、委員会からも出席が確認されたとの発表は公になっていない。
2つの動きは、同じプラットフォームを異なる角度から追及するものだ。下院中国特別委員会が焦点を当てるのは、国家安全保障と外国敵対勢力をめぐる問題である。すなわち、TikTokはその中核的な知的財産を中国法の適用対象となる企業が所有するプラットフォームであり続けているのかという問題だ。
これに対し上院司法委員会は、地政学的な側面とは別に、TikTokを、設計上の選択によって若者に害を及ぼしている可能性がある複数のソーシャルメディア企業の1社として捉えている。
■9月15日以降の展望
9月15日の公聴会は、TikTokだけにとどまらない意味を持つ。形式上は米国側が管理する形へ再編されたテクノロジー企業が、法律で義務付けられた再編について、形式的に要件を満たしただけでなく実質的にも十分だったのかを議会から問われる、最初期の事例の1つになる。
ファレル氏が、オラクルのセキュリティ枠組みによって、ByteDanceによる米国ユーザーデータへのアクセスや、契約上所有するアルゴリズムへの影響が実際に防止されていると示せれば、この合弁会社モデルは、米国が他の外国企業所有のテクノロジープラットフォームに関する同様の国家安全保障上の懸念へ対応する際のひな型となる可能性がある。
反対に、アルゴリズムの独立性、データの分離、ByteDanceの知的財産ライセンス条件などに構造的な不備があることが公聴会で明らかになれば、より完全な事業売却を求める圧力が再燃する可能性がある。
現在TikTokを利用している2億人の米国人にとって、この調査の結論は、1月の取引が掲げた前提を本当に実現したかどうかを左右する。つまり、プラットフォームのデータインフラを、その最も重要なソフトウェアを設計し法的に所有する企業から切り離せるのかという問題だ。その答えは、まだ議会の公式記録には示されていない。
■注目ポイントQ&A
●2026年1月の再編後も、ByteDanceはTikTokのアルゴリズムを管理していますか?
ByteDanceは、2026年1月の事業再編後もTikTokの推薦アルゴリズムを知的財産として所有しています。アルゴリズムはTikTok USDS Joint Venture LLCへライセンス供与され、同社はオラクルのクラウドに保存された米国ユーザーデータだけを使ってモデルのパラメータを再学習します。しかし、基盤となるMonolithアーキテクチャと学習手法はByteDanceが設計し、その知的財産権も保持しています。アトランティック・カウンシルのケントン・ティボー氏らは、日々のデータ管理をオラクルと米国側が過半数を所有する合弁会社が担っていても、アルゴリズムの知的財産をByteDanceが保持することで、中国政府が理論上、システムの進化に影響を及ぼす可能性があると指摘しています。
●事業再編後、中国政府が米国ユーザーのデータにアクセスすることは可能ですか?
中国政府が米国TikTokユーザーのデータにアクセスしたと確認された事例は、公には記録されていません。2026年1月の取引では、米国ユーザーのデータはオラクルの米国内クラウドインフラに保存され、オラクルが「信頼できるセキュリティパートナー」として国家安全保障上の条件の順守状況を監査します。
一方、ByteDanceは北京に本社を置き、すべての中国の組織および国民に国家の情報活動を「支持し、支援し、協力する」よう求める中国の国家情報法の適用を受けます。ByteDanceは19.9%の持ち分とアルゴリズムの知的財産を保持しており、合弁会社との契約関係も残っています。9月15日の公聴会は、こうした法的構造に対処する技術的な障壁が存在するのかを、議員がTikTok幹部に直接問いただせる初めての公開の場となります。
●公聴会では具体的にどのような質問が行われますか?
委員会メンバーの発言と2026年3月に提起された投資家訴訟を踏まえると、公聴会は主に3つの分野に焦点を当てるとみられます。第一に、ByteDanceが知的財産を保持することでTikTokの推薦アルゴリズムにどの程度の影響力を維持しているのか、第二に、米国ユーザーデータが合弁会社の枠組みの内外でどのように流れるのか、第三に、ByteDanceが契約上所有するアルゴリズムのアーキテクチャを変更することを取引条件が防いでいるのかという点です。ムーリナー委員長は、コンテンツ推薦アルゴリズムをめぐる未解決の問題を主要な懸念事項として具体的に挙げています。
●現在のTikTokアプリの利用にセキュリティ上のリスクはありますか?
合弁会社のセキュリティ枠組みの下では、オラクルが米国ユーザーデータの保存を管理し、取引条件では国家安全保障上の監査も求められています。一方、TikTokを米国企業のプラットフォームと異なるものにしている法的構造は変わっていません。TikTokのアルゴリズムを所有し、合弁会社の19.9%を保有するByteDanceには、中国法に基づき、中国の情報活動へ協力する義務があります。
こうした点を懸念する利用者には、TikTokの機能を通じて共有する機微な個人情報を最小限に抑えること、プライバシー設定を確認して位置情報の収集を制限すること、ByteDanceからのアルゴリズムの実質的な独立性について新たな情報が示されるか、9月15日の公聴会の結果を確認することなどの選択肢があります。
元記事: TikTok’s Security Chief Heads to Congress: ByteDance Kept Algorithm After Split