Lenovo、最上位ゲーミングノートPC「Legion 9i」に「Core Ultra 9 290HX Plus」搭載モデルが登場
2026年7月22日 18:07
LenovoのフラッグシップゲーミングノートPC「Legion 9i (18IAX10)」に、IntelのArrow Lake HXプラットフォームにおける最上位プロセッサ「Core Ultra 9 290HX Plus」搭載モデルが追加された。本モデルは、2026年末に予定されている次世代アーキテクチャへの移行前にリリースされる、同プラットフォームの最終形となる。しかし、5,000ドルを超えるこの超高級マシンを購入するにあたっては、性能面での進化だけでなく、中国企業であるLenovo製品が抱えるセキュリティ上の法的リスクについても正しく理解しておく必要がある。
■「Core Ultra 9 290HX Plus」の実態:レイテンシ改善に注力したリフレッシュ版
Notebookcheckなどの報道によると、Lenovoの公式製品仕様において「Core Ultra 9 290HX Plus」の搭載が確認された。このプロセッサは、24コア(Pコア8基、Eコア16基)を搭載し、Pコアの最大ブーストクロックは5.5 GHz、Eコアは4.7 GHzに達する。これは、既存の「275HX」(Pコア5.3 GHz、Eコア4.6 GHz)を上回るスペックだが、コア自体のマイクロアーキテクチャは同一である。つまり、290HX Plusは完全な新世代チップではなく、既存のArrow Lake HXシリコンを選別・最適化したリフレッシュ版(クロック向上版)に位置づけられる。
Intelがこのチップで最も大きく変更したのは、ダイ間(D2D)インターコネクトの動作周波数を、従来の275HXや285HXと比較して900 MHz引き上げた点だ。Arrow Lake HXは、すべてのコアが配置された「演算タイル」(TSMCの3nm N3Bプロセスで製造)と、メモリコントローラーが配置された「SoCタイル」(TSMCの6nm N6プロセスで製造)が分かれているマルチタイル(チップレット)設計を採用している。プロセッサがRAMにアクセスするたびに、この物理的なタイル境界をまたぐ必要があり、これが構造的なメモリレイテンシ(遅延)の原因となっていた。
D2Dリンクの高速化は、このレイテンシ問題を直接的に改善する。Intelの公式ベンチマークによると、1080p(High設定)のゲーム32タイトルの平均で285HXより最大8%高速化し、Cinebench 2026のシングルスレッド性能では最大7%向上したとされている。ただし、これらはIntelによる予測値であり、実際の環境で保証される数値ではない。独立したサードパーティのテストでは、実質的なCPU性能向上は275HX比で約7%と測定されている。また、290HX Plusでは、ハードウェアレベルでWi-Fi 7(最大5 Gbps)やThunderbolt 5(最大80 Gbps)への対応が追加されている。
■Legion 9iの筐体設計:モンスター級スペックを支える冷却とメモリ仕様
290HX PlusのTDP(熱設計電力)は、ベースの55Wから最大持続負荷時の160Wまで変動する。CPUが160Wを消費し、さらにGPUのGeForce RTX 5080が最大175Wを消費する状況に対応するため、Legion 9iには専用の400W電源アダプターが付属する。これはデスクトップ代替機としての設計上の要求仕様である。
Lenovoの冷却システム「ColdFront」は、デュアルベイパーチャンバー、複数のヒートパイプ、そして電力を動的に配分する独自のAIチップ「LA3」を搭載している。独立したテストにおいて、3DMark Steel Nomadのストレステスト実行時でも、RTX 5080を175Wで維持しながら98.1%のフレームレート安定性を記録した。この結果は、冷却システムがスペックシート上の数値だけでなく、実際の高負荷タスクに十分耐えうる設計であることを示している。高負荷時の筐体表面温度は、排気口付近で約111°F(約43.9℃)に達するものの、キーボード面はわずかに温かくなる程度に抑えられている。
ディスプレイとメモリの基本仕様は、2025年5月の初代モデル発売時から変更されていない。18インチのIPSパネルは解像度3840×2400(240 Hz)に対応し、競技用ゲーム向けに1920×1200(最大440 Hz)モードもサポートする。メモリは4つのSO-DIMMスロットにより最大192 GBのDDR5 RAMを搭載可能だが、動作速度はDDR5-4000に制限されている。これは、デスクトップ並みのDDR5-6400+などの高速で4枚の大容量SO-DIMMを動作させると、発熱と不安定性のリスクが極めて高くなるためだ。Lenovoは、大規模なAI推論やマルチVM開発環境、プロ向けの3Dレンダリングといった長時間の高負荷ワークロードにおける安定性を最優先し、この速度制限を選択している。
■「Nova Lake」を待つべきか、今買うべきか
Intelの次世代プラットフォーム「Nova Lake」(Core Ultra 400シリーズ)は、2026年末から2027年初頭にかけてノートPC向けに登場する見込みである。そのため、290HX PlusはArrow Lake HXプラットフォームの最終バージョンとなり、Nova Lakeの登場前にこれ以上のアップデートは予定されていない。
現在Legion 9iの新規購入を検討している場合、290HX Plus構成は正しい選択肢となる。今あえて275HX構成を選んでも価格差はほとんどなく、D2Dインターコネクトが遅く、クロック上限も低いチップを同じ筐体で使うことになるからだ。約7%のCPU性能向上は、CPU負荷の高いワークロードにおいて実質的なメリットをもたらし、Thunderbolt 5やWi-Fi 7といった接続性の向上は、後からソフトウェアアップデートで追加できないハードウェアレベルの進化である。
一方で、すでに275HX搭載のLegion 9iを所有している場合、CPUはマザーボードに直付けされているためアップグレードはできない。約7%の性能向上のために、既存のシステムを売却して新モデルを買い直す価値があるかは疑問であり、多くのユーザーにとっては不要とみられる。また、3〜6ヶ月待てる余裕があるなら、Nova Lakeによる大幅なアーキテクチャ刷新を待つ選択肢もあるが、現時点でNova Lakeの具体的なスペックや実際の製品出荷時期は未確定である。
■中国企業としてのLenovo:避けて通れない法的義務
5,000ドルから7,000ドル(約81万5,000円〜114万1,000円、1ドル=163円換算)というフラッグシップ機を購入するにあたり、製造元である企業の法的な背景を理解することは極めて重要である。
Lenovo Group Limited(レノボ・グループ)は香港で法人化されているが、主要な運営本社は北京に置かれている。また、Lenovoの株式の約30%は、中国政府が支援する研究機関である中国科学院が過半数を所有するLegend Holdings Corporation(聯想控股)が保有している。そのため、同社は中国の法律に従う義務があり、これらは西側のプライバシーポリシーや企業構造によって回避することはできない。
特に以下の3つの法律が同社のグローバル事業に適用される:
1. 中国国家情報法(2017年)第7条:中国の管轄下にあるすべての組織および市民に対し、国家情報活動への支持、援助、協力を義務づけている。この規定は中国国内だけでなく、同社のグローバルな事業運営全体に適用される。
2. 中国サイバーセキュリティ法(2017年):データのローカライズ(国内保存)を義務づけ、政府の要請に応じてデータへのアクセスを提供することを求めている。
3. 中国データセキュリティ法(2021年):国家安全保障調査への協力を含め、政府に対するデータアクセス提供義務を規定している。
これらは中国に本拠を置く企業として課される固定された法的条件であり、PCがどこで販売されているか、Lenovoのサーバーが物理的にどこに存在しているか、あるいは同社のプライバシーポリシーに何が記載されているかに関わらず適用される。
■過去のセキュリティ問題とリスク軽減策
上記の法的な懸念は、単なる仮定の話ではない。Lenovoには、過去20年近くにわたるセキュリティ上の問題が記録されている。
2006年、米国務省は中国政府の所有権に伴うセキュリティリスクを理由に、同省のネットワークにおけるLenovo製PCの使用を禁止した。2007年には、英国のMI5がLenovo製品のバックドアを特定したとされ、米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドで構成される「ファイブ・アイズ」のインテリジェンスネットワークにおいて、機密システムでのLenovo製デバイスの使用が禁止された。さらに2008年には、イラクに配備された米海兵隊のLenovo製ノートPCが中国にデータを送信していたことが発覚し、配備から除外された経緯がある。
2015年には、複数のLenovo製ノートPCにプリインストールされていたアドウェア「Superfish」について、米国土安全保障省が削除を推奨した。2019年の米国防総省監察官の報告書では、このソフトウェアはユーザーの認証情報を監視し、中国本土のデータストレージセンターにデータを送信するために設計された「情報収集ツール」であると特徴づけられている。
また、2025年7月には、セキュリティ企業Binarlyが、Lenovoデバイスで使用されているInsyde BIOSファームウェアに6つの脆弱性(CVE-2025-4421〜CVE-2025-4426)を発見したと公表した。このうち4つは「高深刻度」と評価され、OSが起動する前に実行され、OSを再インストールしても残留する「システム管理モード(SMM)」に影響を与えるものだった。BinarlyのAlex Matrosov氏はBleepingComputerに対し、これらの脆弱性は「ステルス性の高いインプラントやセキュアブートのバイパスを実行するための完璧な踏み台になる」と指摘している。この脆弱性はIdeaCentre AIOやYoga AIOなどのデスクトップ製品で確認され、IdeaCentreには修正パッチが提供されたが、Yoga AIO向けは公表時点で未提供だった(Legion 9i自体への影響は報告されていない)。
さらに2026年2月には、Lenovoが組み込みの追跡技術を通じて米国の消費者の行動データを中国に送信しており、これが2025年4月に制定された司法省の「大量データ転送規則(Bulk Data Transfer Rule)」に違反しているとして、米連邦地裁に集団訴訟が提起された。Lenovo側はこの疑惑を否定している。なお、現時点でLegion 9i (18IAX10)に特化した独立した第三者機関によるセキュリティ監査は公表されていない。
機密性の高いプロフェッショナルデータや政府関連の業務、機密資料を扱うユーザーにとって、これらの歴史的背景や法的義務は、性能ベンチマークよりも重要な判断材料となる。デバイスを使用する際のリスクを軽減(ただし完全な排除は不可)するための実用的な対策としては、プリインストールされたOSを消去し、Lenovoのリカバリ領域ではなくMicrosoftの公式メディアからWindowsをクリーンインストールすること、不要なLenovo製ソフトウェアをすべて削除し、必要なドライバーはLenovoのPSREF(製品仕様リファレンス)データベースから直接取得すること、WindowsのタスクスケジューラでLenovoのテレメトリ(データ送信)サービスを無効化すること、そしてBIOSのセキュリティ情報を監視し、パッチがリリースされたら速やかにアップデートを適用することが挙げられる。
■価格と提供状況
Core Ultra 9 290HX Plusを搭載した新しいLegion 9i (18IAX10)は、主要な地域で販売が開始されている。米国での直販価格は、290HX Plus、64 GB RAM、GeForce RTX 5080の構成で4,999ドル(約81万5,000円、1ドル=163円換算)からとなっており、RTX 5090を搭載した最上位構成は6,699ドル(約109万2,000円、1ドル=163円換算)からとなる。なお、米小売大手のB&H Photo Videoでは、RTX 5090 / 64 GB RAM構成が5,799ドル(約94万5,000円、1ドル=163円換算)に値下げされて販売されている。
欧州市場では、RTX 5080構成が国や地域に応じて約5,698ユーロから5,954ユーロ、英国では約4,781ポンドから、香港では32 GB RAM / RTX 5080構成が36,752香港ドルで提供されている。筐体、ディスプレイ、GPUの選択肢は2025年5月の発売時から変更されておらず、現行のArrow Lake HXプラットフォームをベースとしている。LenovoによるNova Lake搭載システムの発表は現時点で行われておらず、登場は早くとも2026年末以降になる見込みである。
■注目ポイントQ&A
●Core Ultra 9 290HX Plusは、従来の275HXと何が違うのですか?
290HX Plusは、Arrow Lake HXマイクロアーキテクチャの動作周波数を引き上げたリフレッシュ版です。主な違いは、Pコアの最大クロックが5.5 GHz(275HXは5.3 GHz)、Eコアが4.7 GHz(同4.6 GHz)に向上した点と、ダイ間(D2D)インターコネクト周波数が900 MHz引き上げられた点です。これにより、Arrow Lakeの弱点だったメモリレイテンシが改善され、実質的なCPU性能が約7%向上しています。また、Wi-Fi 7(5 Gbps)やThunderbolt 5(80 Gbps)などの最新規格にもハードウェアレベルで対応しています。
●次世代のIntel Nova Lakeを待つべきでしょうか?
Nova Lake(Core Ultra 400シリーズ)は2026年末から2027年初頭に登場する見込みです。今すぐ高性能なノートPCが必要な場合、Legion 9i(290HX Plus搭載)はすでに性能が検証された強力な選択肢となります。もし3〜6ヶ月ほど待つ余裕があり、次世代アーキテクチャによる大幅な性能向上を期待したいのであれば、待つ価値はあります。ただし、Nova Lakeの具体的なスペックや実際の発売時期は現時点では未確定です。
●Lenovo Legion 9iは、機密性の高い業務に使用しても安全ですか?
Lenovoは中国に本社を置く企業であり、中国の「国家情報法(2017年)」などに基づき、政府のデータアクセス要請に協力する法的義務を負っています。また、過去にはプリインストールソフト「Superfish」による情報収集問題や、BIOSの脆弱性、データ送信に関する集団訴訟などのセキュリティ上の懸念が報告されています。政府関係や機密情報を扱う業務で使用する場合は、これらの法的リスクや歴史的背景を考慮する必要があります。リスクを軽減するためには、OSのクリーンインストールやLenovo製ソフトウェアの削除、BIOSの迅速なアップデートなどの対策が推奨されます。
●メモリは本当に192 GBまで使用できますか?また、なぜ速度がDDR5-4000に制限されているのですか?
はい、4つのSO-DIMMスロットにより最大192 GBのDDR5メモリを搭載し、AI推論や仮想マシンの構築、3Dレンダリングなどの大容量メモリを必要とするタスクで活用できます。速度がDDR5-4000に制限されているのは、安定性と発熱を考慮した設計上の選択です。4枚の高容量SO-DIMMをデスクトップ並みのDDR5-6400+などの高速で動作させると、電圧の上昇と発熱により、すでに限界に近い筐体内部の安定性が損なわれるリスクがあるため、Lenovoは安定動作を優先してこの仕様を採用しています。
元記事: Lenovo Legion 9i Gets Intel’s Final Arrow Lake CPU: What Buyers Must Know Now