アマゾン、データセンター規制を支持したエンジニアを調査 シアトルの「政治的イデオロギー保護法」が焦点に
2026年6月25日 00:39
アマゾンのソフトウェアエンジニア3人が、シアトル市議会で人工知能(AI)データセンターの規制を支持する証言を行ったことを理由に、同社から調査を受けていることが明らかになった。従業員側は、政治的イデオロギーに基づく差別を禁じるシアトル独自の条例に違反していると主張し、公民権局に苦情を申し立てた。本件は、民間企業の従業員が勤務時間外に地元の民主主義プロセスに参加する権利がどこまで保護されるかを問う、重要な試金石となっている。
■「犯罪者のように扱われた」――勤務時間外の議会証言で社内調査に
ダリウス・イラニ氏は、6月10日にアマゾンの従業員関係(Employee Relations)チームとの予定外のZoom面談を終えた際、まるで犯罪者扱いされたように感じたと語った。イラニ氏は6月22日に発表した声明で、「アマゾンは公には表現の自由を認めながら、裏では私を尋問し、何度も同じ質問を繰り返して非を認めさせようとした」と主張している。
アマゾンが問題視したのは、イラニ氏が勤務時間外に会社の許可を得ずにシアトル市役所でAIデータセンターの規制を支持する証言を行ったことだ。
イラニ氏のほか、パトリック・シュレッサー氏、リーズル・ウィガンド氏の計3人のソフトウェアエンジニアが、6月3日の市議会小委員会での証言を理由に、解雇を含む懲戒処分の可能性に直面している。3人は「気候正義を求めるアマゾン従業員(AECJ)」のメンバーであり、AECJは6月17日、雇用主が政治的イデオロギーに基づいて労働者を差別することを禁じる「シアトル公正雇用慣行条例」に基づき、シアトル市公民権局に苦情を申し立てた。
■シアトル市、データセンター新設を1年間凍結
3人のエンジニアが支持したデータセンターの一時凍結(モラトリアム)案は、6月9日にシアトル市議会で9対0の全会一致で可決された。これにより、20メガボルトアンペア以上の電力を消費する新たなデータセンターの申請が1年間凍結される。ケイティ・ウィルソン市長が署名する見通しだ。
シアトルは、AIインフラへの反発が強まる中、このような凍結措置を導入した全米最大の都市となった。2026年には全米で54以上の地方自治体が同様の凍結措置を導入し、少なくとも12の州で法案が提出されている。
シュレッサー氏は証言の中で、アマゾンが2026年にAIインフラを中心に最大2000億ドル(約32兆4000億円、1ドル=162円換算)の設備投資を予定している一方で、2023年10月以降に約3万人のコーポレート部門従業員を削減した対比を指摘した。
■アマゾン側は「報復ではなくポリシー違反の調査」と主張
議会での可決翌日、3人のエンジニアはそれぞれアマゾンの人事担当者からZoom面談に呼び出され、議会証言に関する調査について告げられた。苦情申し立てによると、従業員らは解雇を含む処分の可能性を伝えられ、威圧感と雇用の不安を感じたという。また、アマゾンが市議会での政治的擁護活動を監視しており、他に発言した従業員を特定しようとしていたとも主張している。
アマゾンの広報担当者マーガレット・キャラハン氏は、証言内容を精査した結果、従業員らが「私的な市民としてではなく、アマゾンの従業員としての立場で発言した可能性がある」ことが判明したため、社外発言に関するポリシー違反の有無を調査していると説明した。また、同社は「報復行為は容認しない」としつつ、調査結果に基づいて対応を決定すると述べた。
一方、アマゾンは解雇を脅したという主張を否定しており、解雇の可能性への言及は従業員側からの直接の質問に答えたものであり、文脈を無視して誇張されていると反論している。
■シアトルの「政治的イデオロギー保護法」とは
今回の苦情申し立ての根拠となっているのは、シアトル市条例第14.04章(公正雇用慣行条例)だ。この条例は、政府の目的や運営に関する思想・信条を指す「政治的イデオロギー」に基づく差別を禁止している。業務に支障をきたさない範囲での政治的活動も保護対象となる。
弁護士のアビー・ローラー氏は、民間企業の従業員に対してこのような保護を提供する自治体は全米でも極めて稀であると指摘する。エンジニア側は、アマゾンの代表者としてではなく、私的な市民およびAECJのメンバーとして証言したと主張している。
シアトル市公民権局が申し立てを妥当と判断した場合、復職や未払い賃金の支払い、損害賠償などの救済措置が命じられる可能性がある。
■連邦法による保護の限界とアマゾンの過去の労使対立
米国の連邦法では、民間企業の従業員に対する政治的発言の保護は限定的だ。連邦の公益通報者保護法は政府職員のみを対象としており、憲法修正第1条(言論の自由)は政府による規制を制限するもので、民間企業には適用されない。そのため、シアトル以外の都市であれば、このような証言を理由とした社内調査に対して法的な対抗手段はほぼ存在しない。
アマゾンとAECJの間には過去にも対立がある。2020年4月、アマゾンは新型コロナウイルスのパンデミック中に倉庫労働者への支援を組織し、会社を公に批判したAECJの共同創設者2人を解雇した。この件は、全米労働関係委員会(NLRB)への申し立てを経て2021年に和解している。また、2024年にはオフィス回帰命令に対するストライキに参加した従業員への報復があったとして、NLRBの弁護士がアマゾンを告発している。
3人のエンジニアに対する社内調査の結果や、公民権局による判断はまだ下されていない。しかし、この結果はシアトルだけでなく、テック業界全体の労働者が自らの業界に関する公聴会に報復を恐れずに参加できるかどうかを左右する、重要な前例となる可能性がある。
■注目ポイントQ&A
●アマゾンは市議会の公聴会で証言した従業員を解雇できますか?
米国のほとんどの都市では、民間企業の雇用は原則として自由解雇(at-will)であり、連邦法も公聴会での政治的発言を保護していません。しかし、シアトルには「政治的イデオロギー」に基づく差別を禁じる独自の公正雇用慣行条例があり、今回のケースがこの条例に違反するかどうかがシアトル市公民権局によって調査されています。
●シアトルの公正雇用慣行条例とはどのようなものですか?
シアトル市条例第14.04章に規定されており、政府やその機関に関する思想・信条に基づく雇用差別を禁止しています。業務に支障をきたさない範囲での政治的活動も保護対象となります。エンジニア側はデータセンター規制への支持表明がこれに該当すると主張する一方、アマゾン側は許可なく会社の代表として発言したかどうかのポリシー違反を調査していると主張しています。
●なぜシアトル以外の地域では同様の保護がないのですか?
米国の連邦公益通報者保護法は主に政府職員を対象としており、憲法修正第1条(言論の自由)も民間企業による従業員の言論規制を制限するものではありません。多くの州や都市にはシアトルのような政治的イデオロギー保護規定がないため、他の地域で同様の証言を行った労働者は、法的な救済手段がないまま社内調査や処分のリスクに直面することになります。
●アマゾンと「気候正義を求めるアマゾン従業員(AECJ)」の間には過去にどのような対立がありましたか?
2020年にアマゾンは、外部コミュニケーションポリシー違反を理由にAECJの共同創設者2人を解雇しました。この件は2021年に全米労働関係委員会(NLRB)を介して和解に至っています。また、2024年にはオフィス回帰命令に対するストライキに参加した従業員への報復があったとして、NLRBの弁護士がアマゾンを告発しています。
元記事: Amazon Investigates Engineers Over Seattle Data Center Testimony: Political Ideology Law at Stake
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