Apple WWDC 2026:SiriをGeminiで全面刷新、homeOSプレビューも公開——クックCEO最後の基調講演

2026年6月10日 23:07

Appleは現地時間6月8日(月)、カリフォルニア州クパティーノのApple Parkで年次開発者向け会議「WWDC 2026」を開幕した。基調講演では、GoogleのGeminiをベースとした完全再設計版Siriと、スマートホーム向け新OS「homeOS」の開発者プレビューを発表。iOS 27など6つのOSの開発者ベータも同日配信された。

本講演はティム・クック(Tim Cook)CEOの最後の基調登壇となり(後任はジョン・ターナス(John Ternus)ハードウェアエンジニアリング担当責任者、9月1日付で就任予定)、AI機能の「約束と実態のギャップ」を自ら認めた上での発表となった。

■ クックCEO最後の基調講演——AIの「未達」を認める場として

WWDC 2026の基調講演は、Apple第37回となる開発者向け年次カンファレンスの幕開けとして現地時間6月8日(月)に行われた。ティム・クック氏は4月に、9月1日をもってCEO職をハードウェアエンジニアリング担当責任者のJohn Ternus氏に引き継ぐと発表しており、今回が最後の基調登壇となった。

クック氏は開幕にあたり、AI機能を巡る「過去2年間の約束と実現の乖離」と正面から向き合う形で講演を構成した。背景には、2024年のWWDCで公約した「文脈認識型の高度なSiri」が約2年にわたって出荷できなかった経緯がある。

直近では、その未達をめぐる集団訴訟が和解に至った。iPhone 16シリーズなどで「まだ存在しない機能を広告した」とする訴訟で、Appleは2億5000万ドル(約385億円、1ドル=154円換算)の和解金支払いに合意。2026年5月5日に予備承認を得ており、最終承認審理は6月17日に予定されている。Appleは不正行為を否定しており、「本業に集中するために解決した」とコメントしている。

■ SiriをGeminiで全面再構築——独自モデルはパラメータ数1.2兆規模

今回の最大発表は、Siriの完全刷新だ。AppleとGoogleが2026年1月に公表した複数年ライセンス契約(Bloomberg のMark Gurman記者が年間約10億ドル規模と報じている)に基づき、Google Geminiをベースとしたカスタムモデルが搭載される。
新しいSiriはiPhone・iPad・Macでスタンドアロンアプリとして提供されるほか、Dynamic Island内に「Search or Ask」プロンプトと発光カーソルで表示される。対応機能は以下の通りだ。

・複数ステップのコマンド実行
・iCloud経由でデバイス間に同期する会話履歴
・画像・ドキュメントの直接添付
・メール作成やカメラアプリを使った食品ラベルの栄養素読み取り
・サードパーティ製AIアプリ(ClaudeやChatGPTなど)へのクエリ引き渡し

さらにiOS 27・iPadOS 27・macOS 27では、Writing ToolsやImage PlaygroundなどApple Intelligence機能のデフォルトAIプロバイダーとして、サードパーティサービスを指定できるようになる。長年閉じたエコシステムを維持してきたAppleとしては、踏み込んだ開放といえる。

■ 3段階ルーティングの技術設計——どこで処理されるかを自動判別

新Siriの技術基盤は、クエリの複雑さに応じてデータの処理先を3段階で振り分けるアーキテクチャだ。

第1段:オンデバイス処理
タイマー設定・音楽再生・スマートホームデバイスの操作など単純なリクエストは、Appleの小規模ニューラルモデルがデバイス上で完結処理する。データは端末外に出ない。

第2段:Private Cloud Compute
中程度の複雑さのリクエストは、カスタムApple Siliconを搭載した封鎖型サーバーノード上で動くAppleのPrivate Cloud Compute(PCC)へ転送される。ステートレス・エフェメラル(処理後にデータを保持しない揮発的)な設計のため、Apple社員であってもユーザーデータへのアクセスはできないとされている。

第3段:Google Cloud(Nvidiaチップ上)
最も高度な推論処理は、Google Cloudに転送され、Nvidia製Blackwell B200 GPU上で実行される。The Informationの2026年6月3日付報道によれば、1兆パラメータ規模のモデルをPCC内で動かした場合、Siriに求められるスケールでは実用上の速度が出なかったとされており、重い処理のGoogle Cloudへの外部転送はその結果だという。

各段の転送時にAppleはプライバシープロキシとして機能し、Apple IDとの紐付けを切り、クエリを匿名化・トークン化した上でGoogleインフラに到達させる設計となっている。Googleはこれらのクエリを将来のモデル訓練に使用することを契約上禁じられているとされる。

カスタムGeminiモデルはMixture-of-Experts(MoE)アーキテクチャを採用しており、クエリごとに全1.2兆パラメータのうち必要なサブセットのみを起動する。これにより、フロンティアモデル並みの知識容量を持ちながら、はるかに小規模なモデルに近い推論コストを実現できるとされる。Appleが社内開発していたクラウド処理用モデル(1500億パラメータ規模)の約8倍の規模を持つが、Apple専用に開発されたものであり、ユーザーインターフェースにGoogleのブランドは一切表示されない。

■ プライバシー設計の「保証すること」と「保証しないこと」

AppleとGoogleは2026年1月の共同声明で、Apple IntelligenceはAppleデバイスとPCC上で引き続き動作し、「Appleの業界をリードするプライバシー基準を維持する」と表明している。クック氏もFY2026第1四半期決算説明会で「プライバシーのルールは変えない」と明言している。

一方、セキュリティ研究者や反トラスト専門家からは懸念の声も上がっている。セキュリティ企業Ciphero CEOのNakash氏は、PCCは「最も弱いリンクと同程度の安全性しかない」と主張し、Googleがモデル改善やデバッグ目的で何らかの形でデータに触れる経路があるなら「プライバシー保証は根本的に崩れる」と指摘している。Appleは1月の発表と同時に、クエリデータを分離するための暗号化プロトコルを解説した技術白書を公開し、PCCの一部を独立した研究者の検証に開放している。

また、Gemini契約は現在進行中の米司法省(DOJ)によるGoogle反トラスト控訴審との交差点でも問題視されている。2024年に連邦裁判所はGoogleが検索市場での独占的地位を違法に維持してきたと認定しており、その判決における是正命令はGoogleがGeminiアプリの独占配布契約を締結することを明示的に禁じている。バンダービルト大学のRebecca Haw Allensworth反トラスト法教授は、Gemini-Siri契約が「実質的に同じ構造的懸念を引き起こす第2の独占パイプラインを生み出している」と主張している。なお、本稿執筆時点でGemini-Siri契約に対する法執行措置は申し立てられていない。

■ homeOSの開発者プレビュー——ハードウェアに先行してSDKを公開

スマートホーム・IoT開発者向けには、新OS「homeOS」の開発者プレビューが発表された。これはAppleが今後投入予定のスマートホームハードウェアラインナップ向けに専用設計した新しいOSだ。

噂されているHub端末「HomePad」——HomePodスピーカーと7インチディスプレイ、A18チップを組み合わせた構成とされる——はまだ発売されていない。Appleはあえてソフトウェアプラットフォームをハードウェアより先にリリースすることで、HomePadの秋の発売(更新版HomePod miniおよびリフレッシュされたApple TV 4Kとの同時展開が見込まれている)に向けて、開発者がアプリを準備・更新する時間を確保した形だ。

HomepadはiPhoneなしでFaceTimeを使えると説明されており、Appleがホームハードウェアのエコシステム内での位置付けを変える重要な変化といえる。また、Face IDを搭載した新HomeKitセキュリティカメラも予定されているとされ、より広範なコネクテッドホーム戦略の一環と見られている。

今回の開発者向けリリースには、拡張されたHomeKitおよびMatter(スマートホーム相互運用規格)APIも含まれている。昨年のHomeKitアーキテクチャ移行でサードパーティ製品との連携が複数破損した問題への対応が特に重視されており、Matter対応アクセサリを開発する開発者向けに直接関連するドキュメントも提供されている。tvOS 27もスマートホーム連携アップデートを受け、HomePadと連携した家庭内ハブとして機能するよう更新されている。

■ iOS 27ほか6OS——iPhone 11はサポート終了、9月に正式公開予定

基調講演直後、Appleは6つのOSの開発者ベータを配信開始した:iOS 27、iPadOS 27、macOS 27、watchOS 27、tvOS 27、visionOS 27。パブリックベータは7月を予定、正式版はiPhone 18ラインナップとともに9月リリース予定とされる。

macOS 27は、昨年のLiquid Glassビジュアル刷新を踏まえた「小幅なリデザイン」が加えられるとBloombergのMark Gurman記者は報じており、Macユーザーから批判を受けたシャドウと透明度の問題に対処するという。iOS 27ではiPhone 11シリーズがサポート対象外となり、該当機種の利用者はiOS 26のまま留まることになる。visionOS 27は新機能は少ないものの、エコシステム全体に展開されるSiriおよびApple Intelligenceのアップデートを受け取る予定だ。

新Siriは、iOS 27が9月に正式公開される際に制限付きベータ(gated beta)として提供開始される見通しで、一部機能は初日から全ユーザーに展開されるのではなく、段階的なロールアウトになると見られている。

■注目ポイントQ&A

● Apple WWDC 2026では何が発表されたか?

Appleは、Google Geminiのカスタムモデル(総パラメータ数1.2兆規模)を基盤とする完全刷新版Siri、スマートホームハードウェア向け新OS「homeOS」の開発者プレビュー、そしてiOS 27・iPadOS 27・macOS 27・watchOS 27・tvOS 27・visionOS 27の6つのOS開発者ベータを発表した。また本講演は、9月1日にCEO職をJohn Ternus氏に引き継ぐティム・クック氏にとって最後の基調登壇となった。

● Gemini搭載の新Siriはどのような仕組みか?

新Siriは3段階のルーティング方式を採用する。単純なタスクはデバイス上でApple独自モデルが処理する。中程度の複雑さのリクエストはAppleのPrivate Cloud Computeサーバーへ転送される。最も高負荷な推論処理はGoogle CloudのNvidia Blackwell B200 GPU上で実行される。いずれの段階でも、Appleがプライバシープロキシとして機能し、クエリは匿名化・トークン化された上でGoogle側に到達する設計となっており、個々のユーザーへの紐付けはできないとされている。

● homeOSとは何か?

homeOSは、WWDC 2026でAppleがプレビューした、スマートホームハブ端末「HomePad」向けの専用新OS。HomePadはHomePodスピーカーと7インチディスプレイ、A18チップを組み合わせた端末とされているが、ハードウェアはまだ発売されていない。AppleはアプリをHomePad発売前に開発・更新できるよう、ソフトウェア開発者プレビューを先行公開した形で、HomePadの発売は2026年秋が見込まれている。

● 新しいSiriはいつiPhoneで使えるようになるか?

Gemini搭載の新Siriは、2026年9月のiPhone 18ラインナップと同時のiOS 27正式公開時に、制限付きベータ(gated beta)として提供開始される見通し。一部機能は公開初日ではなく、段階的にロールアウトされると見られている。現在は開発者向けベータが、Apple Developer Programを通じて配信されている。

元記事: Apple WWDC 2026: Siri Rebuilt on Gemini, homeOS Previewed in Cook Farewell Keynote

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