融和ではなく、「管理された競争関係」:台湾の視点で見るトランプ訪中(1)【中国問題グローバル研究所】
2026年5月25日 10:19
*10:19JST 融和ではなく、「管理された競争関係」:台湾の視点で見るトランプ訪中(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)陳建甫博士の考察を2回に渡ってお届けする。
※この論考は2025年5月12日の<Not Reconciliation, but Managed Rivalry: A Taiwanese Reading of Trump’s Beijing Visit>(※2)の翻訳です。
「管理された競争関係」の首脳会談であって、関係修復にはならない
ドナルド・トランプ大統領の訪中を、かつて米中が関与政策を進めた時代の復活と見るべきではない。これら2つの大国が真に関係を修復したと見誤ってもならない。より重要な問いは、両政府が「管理された競争関係」という新たな段階に向かっているかどうかだ。つまり、戦略的競争を解決するのではなく、一時的に管理し、封じ込め、選択的に取引する関係だ。したがって、今回の会談は外交上の画期的成果というよりも、貿易、技術、エネルギー安全保障、地域秩序、台湾問題をより広範な交渉の枠組みにいかにして組み込めるかの試金石として重要な意味を持つ。
会談は複数の問題が交錯する中で開催される。イラン、貿易、人工知能、核リスク、レアアース、技術規制、台湾、地域安全保障はもはや個別の問題ではない。全体として戦略的な課題を構成しており、ある分野での圧力が別の分野での影響力となり得る。台湾政府が懸念するのは、会談で大きな発表があるかどうかではなく、会談を機に両岸の安定を関税、エネルギー安全保障、技術規制、第一列島線の抑止力に結びつける課題結合(イシュー・リンケージ)のパターンが常態化してしまうかどうかにある。
そのため、対外研究機関の報告書は結論ではなくシグナルと見るべきだ。米国の政策研究機関は、危機管理、同盟の信頼性、抑止力を強調する傾向にある。それに対して中国の政策論評は、安定、相互尊重、中国の「核心的利益」の承認を強調する。どちらの表現も戦略的なものであって、鵜呑みにするべきではない。台湾の視点から見れば、必要なのは双方の相手に対する認知戦を読み解くことだ。
イラン、エネルギー安全保障、中国の影響力逆転
まず注目すべき重要な点は、いまだ解決していない米イラン紛争だ。トランプ氏は、関税を通じて中国に圧力をかける大統領としてのみならず、米国の対外姿勢を複雑にした戦争から外交で打開を試みる指導者として訪中する。イラン問題はこの会談の均衡を一変させた。トランプ氏の対中政策の初期段階では、関税は一方的に圧力をかけるものとして設計されていた。米国政府が関税を課し、中国政府が反応し、トランプ氏が交渉での優位性を主張していた。しかし、中東での不確実性を緩和するために米国が中国の協力を必要とするとなれば、交渉の構図は変わる。
中国はもはや、単に米国の圧力を受ける標的ではない。潜在的な仲介者、妨害者、あるいは必要に応じて安定化要因にもなる。中国政府はそれをよく理解している。イランに対する米国の要求に応じるかのようには見られたくないと考えている。そのような姿勢を取ればグローバルサウスにおける中国のイメージを損なうからだ。だが中国にとっても、湾岸地域の混乱の長期化、エネルギーコストの上昇、国際海運の不安定化は利益にならない。
これが矛盾を生む。イラン危機は、圧倒的な力で交渉しているように見せたいトランプ氏の足かせとなっているが、彼が米中間の対話を維持しておきたい理由ともなっている。中国政府にとって、この紛争は公然と対立しなくても影響力を行使する手段となる。中国はイラン問題で限定的に協力しつつ、関税、輸出規制、あるいは台湾問題で米国政府に自制を求めることができる。これこそが「管理された競争関係」を実践するための論理だ。構造的には競争するが、戦術的に交渉するということだ。
関税、技術、条件付き相互依存
第2に注目するのは関税だ。トランプ氏の通商政策は相変わらず飴と鞭を使い分けている。関税が懲罰を示す一方、農産品の購入、航空機の発注、エネルギー取引、一時休戦は象徴的な救済となる。だが、たとえ関税が緩和されたとしても、それを自由主義的グローバル化の復活と見誤ってはならない。
かつての米中経済関係は、貿易が相互利益、制度的な予測可能性、そして最終的には政治の穏健化をもたらすという信念に基づいていた。その世界はもうない。代わりに台頭しているのが条件付き相互依存の政治経済だ。どちらの側も今なお市場、資本、商品、技術、サプライチェーンの安定を必要としている。しかし、どちらも相互依存を信頼の証とは見ておらず、影響力と見ている。
だからこそ、今回の会談で貿易上の成果があるとすれば、戦略的というより戦術的なものになるだろう。トランプ氏は、中国への輸出を通じて国内向けに自身の交渉力を誇示したいと考えているかもしれない。習氏は、中国経済を安定させ、圧力下での強靭さを示すために、関税や輸出管理で予測可能性を高めたいと考えているかもしれない。どちらの指導者も成果をアピールする可能性がある。しかし、その根底にある構造は依然として競争だ。レアアース、半導体、AI、造船、電気自動車、金融規制は、今後も米中の競争関係において核心的な対立軸であり続ける。
台湾の視点から見れば、経済交渉が純粋に経済的であることは決してない。関税が交渉の手段になれば、投資審査、輸出管理、防衛調達、地域安全保障へのコミットメントも交渉材料になり得る。半導体産業での地位は台湾に戦略的価値をもたらしているが、同時に取引型交渉の論理に翻弄されることにもなる。トランプ氏が交渉を私物化するほど、台湾は今後も制度的なコミットメントが大統領の即興的な対応よりも優先されるのか疑問視せざるを得なくなる。
「融和ではなく、「管理された競争関係」:台湾の視点で見るトランプ訪中(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
米軍機C-17Aが北京空港に着陸(写真:ロイター/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://grici.or.jp/7330《CS》