天文学研究に新型コロナが与えた影響は? 論文数増加も新規参入は減少 東大ら
2022年12月2日 17:58
COVID-19とは新型コロナウイルス感染症を指す用語だが、世界的な感染拡大が始まって2年以上が経過した現在も、完全に鎮静化したとまでは言えない状況にある。そんな状況の中、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)などの国際研究チームは、天文学研究にCOVID-19が与えた影響を調査した結果を公表した。
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この国際研究は、Kavli IPMUとカリフォルニア大学バークレー校宇宙物理学センターらの研究者により行われた。
研究チームは、1950年以降の天文学の出版物記録を120万件以上ダウンロードし、それらの著者を性別、国別に分類。COVID-19流行前後での論文数の違いなどについて比較を実施した。
その結果、意外にもCOVID-19流行前と比較して、流行後のほうが年間当たりの論文数は増加していたという。COVID-19流行によって、勤務形態の柔軟性向上や、通勤・出張時間の短縮、バーチャル技術の向上などがもたらされた。これらの諸要因が、科学研究を行う上で有利に働いた可能性があるこという。
一方で、COVID-19流行後に天文学の分野に新たに参入してきた研究者の数は、減少傾向にある。既存の研究者個人の研究について、生産性が向上した結果、上記傾向がもたらされたことも示された。
また女性研究者にフォーカスすると、研究対象25カ国中14カ国で、女性による論文の割合が減少し、新規参入する女性研究者の数も減少していたという。また研究者個人の生産性については、COVID-19流行後はどの国でも、女性研究者は男性研究者よりも生産性を高めることが出来ていなかった、という結果が得られた。
今回の調査結果は、天文学研究にフォーカスしたものだ。だが天文学に限らず、自由な発想で様々な仮説や推論を展開していく必要がある研究分野において、COVID-19は、研究者個人が自分の考えを自由な環境下で深堀していくことに有利に働くような労働環境をもたらしてきた可能性は、あるかもしれない。
また研究者個人の発想について、Web会議などを通じて自由に討論しあい、ブラッシュアップできる機会も増えたのではなかろうか。なお、今回の研究成果は、11月28日付けのNature Astronomyに掲載されている。(記事:cedar3・記事一覧を見る)