見えない敵・新型コロナウイルスとの”静かな戦争” (1) 局地で進む医療崩壊

2020年4月16日 15:07

 感染拡大が続く新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の、治療に当たる医療機関でのクラスター発生が止まらない。

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 東京都台東区の永寿総合病院による4月9日付の現状報告によると、これまでに入院患者94名、職員69名、合計163名の感染が確認され、20名の死亡が明記されている。この永寿総合病院は合計26の診療科目と病床数400床を備える急性期総合病院であり、名実ともに台東区の中核病院であった。

 特に感染防止対策においては、3名の医師に看護師、薬剤師、検査技師から構成される感染制御チームが、活発に活動する実績を重ねていた。

 ここで教訓とすべきなのは、意欲的に地域医療の充実を目指していた病院に於いてすら、大規模な院内感染が発生してしまう、COVID-19の怖さだろう。

 日本環境感染学会の指針によると、COVID-19への感染が疑われる患者に接する医療スタッフには、アイシールド付きのサージカルマスク、ガウン、手袋を着用した上で、当該患者の動線を他の患者と切り離し、体温計や血圧計などの機材と患者が使用したトイレの便座や水道のハンドルを消毒することになっている。

 時折程度の頻度で、事前に連絡があった上にCOVID-19への感染が懸念される患者を診察する状況であれば、上記ガイドラインは適切に履行される筈だ。

 ところが患者の置かれている状況は様々で、予期しない時に突然医師の前に現れることも少なくない。全国の医療機関から報告されている事例の中には、転倒して外傷を負い救急搬送された患者がCOVID-19に感染していたり、心筋梗塞で救急搬送された患者の治療をしていたところ、数日経過後に実は既にCOVOD-19に感染していたという例が確認されたりしている。

 緊急性を争う多くの患者の中に新型コロナウイルスの感染者が紛れ込んでいたら、医療機関にとっては対処の方法がないお手上げ状態だ。

 心筋梗塞の治療をしていた医師が感染しても、暫く症状は出てこない。体調の不良を自覚しても、責任感の強い医師ほど無理をしてしまうのは容易に想像できる。今までも十分とは言えない診療体制に置かれていながら、”根性”で乗り切って来た医師にとっては当然の行為だった。

 COVID-19はそんな医師の気力を逆手にとって、同僚の医師、看護師等々の医療スタッフや事務職員、そして医師に全幅の信頼を置かざるを得ない患者に感染する。異常を察知した時には、既に大きなクラスターが形成されていたケースが続発している。

 永寿総合病院で感染した職員の職種は公表されていないが、69名全員が14日間の隔離生活を始めると、単純計算だが69×14=966人分の欠勤が発生する。さらにその濃厚接触者も含めれば、その数は何倍にもなるだろう。外来患者の診療を休止したり、制限して乗り切るしか方法はないだろうが、今まで存在していた医療サービスを受けられない地域住民にとっては、局地的な医療崩壊である。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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