シリア:北東部で新型コロナウイルス初の死者――対策に懸念 MSFはイラク経由の入国を要請

プレスリリース発表元企業:国境なき医師団

配信日時: 2020-04-22 18:59:14

シリア北東部で4月21日、新型コロナウイルス感染症による初の死者が出たことを受け、国境なき医師団(MSF)は同地域での流行に備えた体制に懸念を強めている。疲弊した医療体制、検査に要する時間、国境の閉鎖などにより、同地域では適切な対応はほぼ不可能となっている。MSFは、援助拡大のためにイラクのクルド人自治区とシリア北東部当局に対し、迅速に援助物資とスタッフが入国・通行できる許可を出すよう強く要請している。



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移動制限を超えた人道援助提供が急務

シリア北東部の医療当局によると、同地域で新型コロナウイルス感染患者1名が確認された後、検査結果の通知には2週間を要し、結果が届いたときには患者は亡くなっていたという。現在、北東部からの検査要請は首都ダマスカスにある中央検査室が対応しており、迅速に検査結果を得ることは難しい。シリアでMSFの緊急医療コーディネーターを務めるクリスタル・バン・ルーウェンは、「市中感染抑制の最も重要な時期にも関わらず、感染初期に症例を検出するのはほぼ不可能」と話す。

シリア北東部に適切な援助を届けるためには、イラク北西部から物資やスタッフを送ることが効果的だが、現状ではクルド人自治区当局からの入国許可とシリア北東部への通行許可が得られておらず、MSFの活動は限定的となっている。MSFの緊急対応責任者ウィル・ターナーは、「援助物資と医療スタッフの準備は整っています。MSFはクルド人自治区内の感染予防対策と移動制限を尊重しますが、人道援助団体の通行許可は必要です」と求めている。

感染拡大で医療崩壊まねく

シリア北東部では9年に及ぶ紛争によって、現地の医療体制は崩壊、物資と医療スタッフ不足も伴って多くの医療機関が閉鎖に追い込まれた。慢性疾患や免疫力の低下した患者の感染リスクはさらに深刻化し、機能している医療機関も既存の医療ニーズへの対応に追われる中、新型コロナウイルスの感染が拡大した場合、医療崩壊が起きる可能性が非常に高い。

MSFは、現地医療当局や他団体と連携し、ハサカ県の国立病院と国内避難民が身を寄せるアルホール・キャンプを中心に、新型コロナウイルス感染拡大に備えている。バン・ルーウェンは、現地では検査、接触者追跡調査、病院の患者受け入れ体制、医療スタッフ用保護具(PPE)などの物資のすべてが不足しており、医療当局や人道援助団体、国際的な資金提供による援助の大幅増が不可欠と指摘する。

特に、過密で医療や清潔な水が限られているキャンプの状況は深刻だ。2019年1月にMSFが活動を開始したアルホール・キャンプには現在約6万5000人が暮らしており、住民の94%は女性か子どもだが、キャンプからの外出許可が出た人はいない。

シリアおよびイラクにおけるMSFの活動概要

シリア北東部
MSFは現地医療当局が主導する新型コロナウイルス感染症人道援助タスクフォースに参加。感染拡大に備えてアル・ハサカ国立病院でスタッフの研修および設備拡充の援


助を行っている。それには、48床の隔離病棟の設置、監視措置、症例発見と管理、患者の流れとトリアージ・プロセスの導入、感染予防・制御策(IPC)と過剰使用防止を含むPPEの使用法に関する研修を含む。同時に患者受け入れ用施設を対象に、施設改修などのロジスティック・サポートも担っている。

ラッカ国立病院、ラッカ外来診療所、コバ二産科病院への定期的な活動と支援を続けているが、スタッフの入国許可と物資搬入が滞っているため、対応は大幅に遅れている。

アルホール・キャンプでは、入院栄養治療センター(ITFC)と、診療所に来られない人を対象にしたテント内外傷ケア、給排水衛生支援を継続。また、新型コロナウイルスの感染および重症化リスクの高い人びとをマッピング(現在地把握)し、健康啓発の情報や衛生用品キットを提供している。キャンプでさらに症例管理体制の整備が必要な場合に備え、ITFCに移送する準備も進めている。

ハサカ県内には断水地域もあることから、同県内でも感染リスクが高い地域に給水車で水を運んでいる。

シリア北西部
新型コロナウイルスの感染拡大以降、イドリブ県で支援している病院や診療所のトリアージ体制と患者の流れを見直し、感染患者が来た場合に速やかに検出できるよう体制を構築している。それにより、救急車が患者を検査と経過観察ができる施設に搬送するまで、観察下に置くことができる。また、衛生委員会を設置した後、スタッフを追加して強化している。

国内避難民キャンプでは、患者と医療スタッフを保護するために移動診療のトリアージシステムを調整。救援物資配布中にソーシャルディスタンス(社会的距離)を保てる対策を実施した。

イラク
政府の新型コロナウイルス感染症への医療対応を支援。4月1日、バグダッドの保健省管轄病院イブン・アル・ハティーブの支援を開始。同院に対し、患者のトリアージと感染保護と制御に関する技術研修を行っている。

モスルでは、アルサラム病院複合施設内に50室の病棟を患者隔離用として整備。同複合施設内のアル・シファー病院の術後ケア・センターに、中等度と重度症例管理用の隔離室を40室、病床を30設置する予定。同病院はMSFが2019年に再建し、現在はニネワ県の新型コロナウイルス対応拠点病院として使用されている。

ニネワ県、ディヤーラ県、キルクーク県、バグダッドにあるMSFの既存のプロジェクトは、医療当局が確立したプロトコルに従って、トリアージ、IPCの支援、複数の保健省管轄病院への搬送などの体制を強化している。MSFは引き続き状況を監視し、保健省と支援の可能性について協議していく。以上

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