サガラメエキスおよびマンダリンオレンジ果皮エキスを配合した化粧品によるフィラグリン遺伝子の発現促進効果の確認

プレスリリース発表元企業:ピジョン株式会社

配信日時: 2020-04-15 11:00:00

ピジョン株式会社(本社:東京、社長:北澤 憲政)は、赤ちゃんの肌研究を進め、「天然保湿因子(Natural Moisturizing Factor; 略称NMF)」の素となる「フィラグリン」遺伝子の発現を促進する保湿成分として「サガラメエキスおよびマンダリンオレンジ果皮エキス」の効果を確認しました。
今回の研究成果は、『「診療と新薬」57 巻 3 月号239 - 246(奥付発行日 2020 年 3 月 28 日)(2020 年 4 月上旬~中旬発行予定)』にて掲載しています。




1.背景
 厚生労働省の調査によると、日本におけるアトピー性皮膚炎の患者数は増加傾向にあり、アトピー性皮膚炎の有症率は4カ月児で12.8%、1歳6カ月児で9.8%、3歳児で13.2%と報告されています(1)。また、新生児・乳児期にアトピー性皮膚炎や食物アレルギーがある場合、幼児期に気管支ぜんそく、思春期にアレルギー性鼻炎と、成長にともなってアレルギー疾患が連鎖的に生じる確率が高くなる現象「アレルギーマーチ」(2)が近年注目されています。

 乳児の皮膚のバリア機能は脆弱であるため、乳児湿疹等の皮膚トラブルが生じている部分からアレルギーの原因物質であるアレルゲンが侵入すると経皮感作※が生じ、アレルギー症状を呈するリスクが高まることが示唆されています。そのため、アレルゲンが侵入しないように皮膚を健康に保つことが大切で、乳幼児期のスキンケアがますます重要となります。そこで、赤ちゃんの肌に安心・安全な原料で、保湿効果の高いスキンケアが求められています。

※経皮感作とは、角層のバリアを通過して表皮、真皮に侵入した物質が異物、アレルゲンとして認識されて、それを体内から排除するべく一連のアレルギー反応が起こる準備態勢に入った状態になることです(3)。

2.天然保湿因子の素となる「フィラグリン」
 フィラグリンとは、肌の角層細胞内にある「天然保湿因子(NMF)」の素となり、肌の保湿のキーとなる重要なタンパク質です。フィラグリンは肌の内側でつくられ、角層細胞の頑丈な骨格を保ち、保湿成分として働くことで、自然のバリア機能の役割を果たしています。
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 フィラグリンについてはここ十数年で盛んに研究が進められています。2006年世界で初めてヨーロッパにてアトピー性皮膚炎の患者にフィラグリン遺伝子の変異があることが発見され、アトピー性皮膚炎の重要な因子であることが報告(4)されました。国内でも、日本人特有のフィラグリン遺伝子変異があることが証明されています(5)。また、アトピー性皮膚炎の患者においては、皮膚内のフィラグリンが不足しているということも研究結果からわかっています(6)。

3.フィラグリンの産生を促進する成分の探索
 ピジョンでは、赤ちゃん、特に新生児期の肌トラブルを未然に防ぐためには、保湿はもちろんですが、このフィラグリンの産生促進が重要だと考え、研究を重ねる中で着目したのが、サガラメエキス(海藻由来)とマンダリンオレンジ果皮エキス(オレンジ由来)という2種類の保湿成分です。
 
 サガラメエキスはコンブ科の海藻「相良布(サガラメ)」から抽出。保湿効果があり、肌を乾燥から守り、それによって肌のバリア機能も向上させます。また、肌の細胞間脂質の一つであるセラミドやフィラグリンの産生を促進する働きがあります。マンダリンオレンジ果皮エキスは、ミカン科の果実であるマンダリンオレンジの果皮から抽出され、角層のキメとツヤを保つ効果があり、肌に透明感を与える美容成分として注目されています。それ以外にもフィラグリン分解酵素の産生促進作用があり、「天然保湿因子(NMF)」を増やします。
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4.研究の概要
 本研究では、フィラグリン遺伝子の発現促進効果について、サガラメエキスとマンダリンオレンジ果皮エキスの原料の単体および混合物、および、サガラメエキスとマンダリンオレンジ果皮エキスの混合物を配合した化粧品と両エキス無配合の化粧品、既存化粧品との比較検証を行いました。

研究1. サガラメエキスおよびマンダリンオレンジ果皮エキスのフィラグリン遺伝子発現について
 皮膚状態を再現したヒト皮膚3次元モデルを用いて、各エキスの単体および混合物のフィラグリン遺伝子の発現量を測定しました。図1にコントロール(比較対象:溶媒のみ)を基準としたフィラグリン遺伝子の発現比を示しました。サガラメエキス単独では、すべての濃度において、フィラグリン遺伝子の発現がコントロールと比較して有意に増加しました。マンダリンオレンジ果皮エキス単独ではコントロールと比較して有意な差は認められませんでしたが、エキス混合物については、マンダリンオレンジ果皮エキスの影響なくサガラメエキス単独の試験結果同様にコントロールと比較してフィラグリン遺伝子の発現が有意に増加しました。
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研究2. サガラメエキスおよびマンダリンオレンジ果皮エキスを配合した化粧品のフィラグリン遺伝子発現について
 皮膚状態を再現したヒト皮膚3次元モデルを用いて、サガラメエキスおよびマンダリンオレンジ果皮エキスを配合した製品、両エキス無配合の製品および既存市販品のフィラグリン遺伝子の発現量を測定しました。図2にコントロール(比較対象:溶媒のみ)を基準としたフィラグリン遺伝子の発現比を示しました。
 
 サガラメエキスおよびマンダリンオレンジ果皮エキスを配合したローション、クリームいずれの製品においてもコントロールと比較して有意にフィラグリン遺伝子の発現が増加しました。一方、サガラメエキスおよびマンダリンオレンジ果皮エキスを配合していないローションとクリームではコントロールと比較して有意な差は認められませんでした。同成分のローションとクリームでも両エキスの配合の有無でフィラグリン遺伝子の発現には差異が認められました。また、一般的に保湿力が高いとされている既存市販品のローションとクリームにおいてもコントロールと比較して有意な差は認められませんでした。
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5.考察と今後の展望
 本研究では、サガラメエキスおよびエキス混合物に、フィラグリン遺伝子の発現促進効果が認められました。マンダリンオレンジ果皮エキスにはフィラグリン分解酵素の産生促進作用が知られていますが、フィラグリン遺伝子の発現には負の影響を与えませんでした。マンダリンオレンジ果皮エキスはフィラグリンの分解を促進することで「天然保湿因子(NMF)」産生には影響を与えると期待されるため、今後更なる研究が必要だと考えられます。

 また、サガラメエキスおよびマンダリンオレンジ果皮エキスの混合物を配合した製品においてもフィラグリン遺伝子の発現促進効果が認められ、エキスを配合していない製品においてはフィラグリン遺伝子の発現には影響を与えませんでした。この結果から、フィラグリン遺伝子の発現促進効果はエキス配合によるもので、エキス混合物は製品に配合しても効果が発揮すると考えられます。また、これらの原料の安全性についても皮膚一次刺激性・感作性試験などにより確認されており、乳幼児などバリア機能の未熟な方への使用も問題ないと考えられます。

 以上の結果から、サガラメエキスおよびマンダリンオレンジ果皮エキスは乳幼児などのバリア機能の未熟な方への保湿効果やバリア機能の維持について期待できる保湿成分だと考え、今後製品開発に応用していきたいと思います。
 今回の研究ではタンパク質レベルでのフィラグリンの増加を確認しておらず、今後はタンパク質レベルでのフィラグリンの増加についても検討する予定です。今後これらの結果がさらに明らかになることでサガラメエキスおよびマンダリンオレンジ果皮エキスの機能についてより多くの知見が得られることが期待されます。


[引用元]
1) 厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課:アレルギー疾患の現状等,2016.
2) 馬場 実.:アレルギーマーチ事始め.アレルギー・免疫 11(6):736-743,2004.
3) 水野克己,下条直樹,馬場直子,:子どものアレルギー×母乳育児×スキンケア.南山堂:156p,2016.
4) Palmer CN,Irvine AD,Terron-Kwiatkowski A,et al.:Common loss-of-function variants of the epidermal barrier protein filaggrin are a major predisposing factor for atopic dermatitis.Nat Genet,38(4) :441-446,2006.
5) Nemoto-Hasebe I,Akiyama M,Nomura T,et al.:FLG mutation p.Lys4021X in the C-terminal imperfect filaggrin repeat in Japanese patients with atopic eczema.Br J Dermatol,161(6):1387-1390,2009.
6) Suga H,Sugaya M,Miyagaki T,et al.:Skin Barrier Dysfunction and Low Antimicrobial Peptide Expression in Cutaneous T-cell Lymphoma.Clin Cancer Res,20(16):4339-4348,2014.

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