明治大学農学部 小山内崇准教授らリンゴ酸生産酵素がコハク酸生産の鍵酵素の一つであることを示唆

プレスリリース発表元企業:学校法人明治大学広報課

配信日時: 2019-07-23 19:45:00

○明治大学大学院農学研究科環境バイオテクノロジー研究室の片山 徳賢(博士前期課程1年)、竹屋壮浩(2018年度修了生)、小山内 崇(准教授)らの研究グループは、世界中で広く研究されているラン藻であるシネコシスティスのフマラーゼという酵素がクエン酸回路の代謝産物に阻害を受けており、その阻害をアミノ酸の置換によって緩和できることを明らかにした。
○シネコシスティスのフマラーゼの働きは、これまで報告されているフマラーゼと同様にクエン酸回路の代謝産物であるコハク酸やクエン酸によって阻害されることが分かった。
○シネコシスティスのフマラーゼの314番目におけるアミノ酸の置換はクエン酸とコハク酸からの阻害を緩和し、酵素の代謝回転数を変化させた。

【背景】
近年、低炭素社会に向けて、利用するエネルギーの非化石燃料化の導入拡大や再生可能エネルギーの積極的な導入が求められており、石油に頼らないバイオプラスチックやバイオ燃料に注目が集まっています。これらの生物由来の有用物質の安定生産に向け、糖を炭素源として利用する生産性の高い大腸菌や酵母などを利用した物質生産に関する研究が世界中で進められています。しかしながら、糖を原料とした発酵を行うこれらの生物では耕作農地や水資源、食糧との競合が懸念されています。そうした状況のなかで、私たちの研究グループは、光合成によって取り込んだ二酸化炭素を有用物質の原料として利用できるラン藻という細菌に注目しています。
ラン藻は、培養に糖の添加が必要ないだけでなく、食糧や土地との競合も少ないというメリットを持ちます。
ラン藻の中でも比較的取り扱い易く、モデルラン藻として世界中で広く研究されているのが、シネコシスティス(Synechocystis sp. PCC 6803)です。シネコシスティスは、全遺伝子情報が明らかになっているラン藻で、近年では、遺伝子改変を行ったシネコシスティスの有用物質生産に関する研究が盛んに行われています。しかしながら、物質生産に至るまでの代謝に関する基礎的な知見は、大腸菌などと比べて乏しく、さらなる物質生産向上に向けて代謝メカニズムの解明が求められています。
クエン酸回路は、酸素呼吸を行う生物全般が持つ代謝経路で、エネルギーを効率よく生産します。クエン酸回路の中でも工業的な応用をされている酵素が、フマラーゼ (FumC)です。FumCはフマル酸とリンゴ酸を基質としており、これらの可逆反応を受け持つ酵素です。FumCの基質であり、生成物でもあるリンゴ酸という代謝産物は、様々な有用物質の前駆物質であり、私たちの生活の中でも使われる日用化学製品の原料でもあります。
そこで、私たちは、シネコシスティスのFumC(SyFumC)の性質を調べ、他の生物のFumCの性質と比較しました。

【要旨】
植物と同じ光合成を行うラン藻という細菌は、光合成の過程で取り込んだ二酸化炭素から様々な有用物質を生産することができます。その中でも、シネコシスティス注1)というラン藻は、遺伝子改変が簡単で凍結保存が可能であるなどの簡便さから、基礎・応用の両分野において世界中で盛んに研究されています。特に、遺伝子の分子生物学的な研究や物質生産に関する研究は精力的に行われています。しかし、それらと比べると代謝のしくみに関する基礎研究は、発展途上の分野です。特に、ラン藻は、糖の分解に関する知見が少なく酵素の性質があまり明らかになっていません。
クエン酸回路という代謝経路は、生育に必要なエネルギーを効率良く生み出す酸素呼吸の主要な経路です。クエン酸回路は、複数の反応とそれを担う酵素群で成り立っています。中でもフマラーゼは、クエン酸回路の中でフマル酸とリンゴ酸の変換を受け持つ酵素であり、工業的にリンゴ酸を生産することに応用されている酵素でもあります。リンゴ酸は私たちの生活の中でも食品添加物などに使われる重要な化学物質です。今回、私たちはこれまで報告されていないシネコシスティスのフマラーゼFumC(SyFumC)を精製し、生化学的性質を調べました。
その結果、SyFumCは、他の細菌よりも活性が低いことが分かりました。また、SyFumCは、従来のFumCと同様に、リンゴ酸を基質とするよりもフマル酸を基質とした場合に酵素活性が高いことが分かりました。次に、SyFumCの活性を変化させる因子を探索したところ、SyFumCは、亜鉛イオン(Zn2+)などの金属イオンや、同じクエン酸回路の代謝物であるクエン酸とコハク酸によって強く阻害されることが分かりました。過去の我々の研究から、シネコシスティスは発酵時にコハク酸を作ることが知られていますが、この結果は、フマラーゼがコハク酸生産をする際に律速酵素となりうることを示唆しています。
また、他の細菌やラン藻のFumCの構成アミノ酸の比較を行ったところ、314番目のアラニンが特徴的であるということが分かりました。そこで、このアラニンの置換が酵素活性にどのような変化をもたらすかを調べるために、このアラニンからグルタミン酸に置換したSyFumC(SyFumC_A314E)を作製したところ、クエン酸やコハク酸による阻害が緩和されました。また、酵素の活性の指標の一つである代謝回転数が低下することが分かりました。
このように、本研究では、クエン酸回路のフマラーゼという酵素が同じクエン酸回路の代謝物によって阻害を受けていることがわかり、さらに1つのアミノ酸の置換によってその阻害を緩和できることを発見しました。
この研究は、明治大学大学院農学研究科 片山 徳賢(博士前期課程1年)、小山内崇(准教授)らのグループによって行われました。この研究は、JST戦略的創造研究推進事業先端的低炭素化技術開発ALCA(代表小山内崇)およびJSPS科研費新学術領域研究「新光合成」(領域代表基礎生物学研究所皆川純教授、計画班代表大阪大学清水浩教授)の援助により行われました。
本研究成果は、2019年7月23日発行の「Scientific Reports」に掲載されました。
詳細については明治大学公式ホームページをご参照ください。
URL:https://www.meiji.ac.jp/koho/press/6t5h7p00001l76wc.html


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