世界結核デー:新薬登場から2年――新薬を使用できた薬剤耐性結核(DR-TB)患者はわずか2%

プレスリリース発表元企業:国境なき医師団(MSF)日本

配信日時: 2016-03-23 15:26:45

2年前、約半世紀ぶりに登場した2つの新しい結核治療薬は条件付きで使用承認されたが、国境なき医師団(MSF)の調査によると、これらの薬を必要とする15万人のうち、これまでに実際に入手できた人は2%に過ぎない。新薬ベダキリン(ジョンソン・エンド・ジョンソンが発売)とデラマニド(大塚製薬が発売)のいずれかを、結核のために開発されたものではないが結核治療でも効果が見られる「流用薬」と組み合わせた治療法が、多剤耐性結核(MDR-TB)患者の健康増進に大いに寄与することはMSFやその他の治療提供者によって明らかになっている。3月24日の世界結核デーを前に、MSFはこれらの新薬の価格を適正化し、結核感染者の多い国での薬事登録を行うなどして、今まで以上に多くの人に届けられる必要があると改めて強く訴える。



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現行の治療法よりはるかに効果の高い新薬

ロシアでMSF医療コーディネーターを勤めるヨーゼフ・タシュー医師は「もしかしたら命を落としていたかもしれない超多剤耐性結核(XDR-TB)の患者が退院していく姿を見られるというのが、新薬が持つ可能性なのです。苛立たしいのは、新しい結核薬がようやく半世紀ぶりに登場し、最も重篤な患者の救命も期待できるようになったのに、この希望を全ての患者に提供できるわけではないことです。MSFはロシア国内で唯一デラマニドを投与できる治療提供者ですが、対象患者はこれまでに7人。当該薬の効果が期待できる患者の多くに利用機会が確保されるよう、各企業・各国の働きが不可欠です」と話す。

ロシア連邦チェチェン共和国およびアルメニアのMSFプロジェクトでは、ベダキリンを追加した治療法の患者のそれぞれ75%および80%に、半年経過時点で結核の兆候が見られなかった。この培養陰性率は、MDR-TB患者の半数にしか効果のない現行の治療法よりもはるかに多い数の人が治療に成功する可能性を示唆している。

まだ遠い新薬の普及

2つの新薬は世界保健機関(WHO)も推奨している。ジョンソン・エンド・ジョンソン社の医薬品部門であるヤンセンファーマ社と大塚製薬は、結核感染者の多い国での薬事登録を優先し実用に備えるとともに、そうした国や開発途上国に対し低価格での提供を行うべきだ。また、各国はこれらの薬を速やかに治療指針に盛り込み、薬事登録が完了するまでは輸入規制を一時的に解除することも求められるだろう。

MSF南アフリカのジェニファー・ヒューズ医師は次のように語る。「南アフリカを含む全世界で、MSFの患者はベダキリンやデラマニドが追加された治療法を受けられる、数少ない人びとの一部です。南アフリカはDR-TB新薬の調達における先駆で、2013年以降、国内全体で1750人以上がベダキリンを投薬されています。デラマニドに関しては、MSFを含むいくつかの団体が、治療の選択肢の限られた若干数のDR-TB患者にコンパッショネート・ユース(※)で提供していますが、薬事登録が済むまでは普及は望めません。進展も見られ、どのDR-TB患者にもよりよい治療法の効果が期待されながら、新薬がそれほどの規模で入手可能となるのは非現実的と言えそうです」

※人道的配慮から、生死に関わる病気の患者に対し、販売承認に先立って未認可薬の使用を認める制度

デラマニドの途上国向け費用は約19万円

MSFは調査報告書『DR-TB Drugs Under the Microscope』第4号(http://www.msf.or.jp/library/pressreport/pdf/dr-tb_drugs_under_the_microscope.pdf)を発表、DR-TB治療法の利用を阻む壁や関連する要素を分析している。報告書では、現在よく用いられるDR-TB治療の費用が、完了までに1800~4600米ドル(約20万~52万円)であることを指摘。これは同報告書の第1号が発行された2011年の4400~9000米ドル(約49万~101万円)からの大幅な低減となる。ただし、新薬や流用薬はここに含まれないため、治療の負担を大幅に軽減し成功率を改善するかもしれない新薬や流用薬が、残念ながら費用を再び押し上げる恐れもある。

大塚製薬が途上国向けに設定した、デラマニドによる一通りの治療費用は患者1人あたり1700米ドル(約19万円)。最貧国の一部の患者はジョンソン・エンド・ジョンソン社の立ち上げた寄付プログラムを通じ、ベダキリンの入手を期待できるが、プログラム対象外の中所得国は1回の治療に3000米ドル(約34万円)もの支出を迫られる可能背がある。

MSF必須医薬品キャンペーン結核アドバイザーのグラニア・ブリグデン医師は「結核は治る病気ですが、いまなお世界で多くの人命を奪っている感染症です。患者の負担が軽減され、より多くの人が回復でき、適正な価格で入手可能な治療が切実に求められます。それが実現しなければ、このまま多くの人の命が奪われ続けます」と説明する。

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