カーボンニュートラル実現に向けて芝浦工業大学がCO2除去に優れた性能を発揮する膜の新合成方法を開発

プレスリリース発表元企業:芝浦工業大学

配信日時: 2022-01-21 10:00:00

さまざまな合成時間と基材に対する単一ガス透過率 (左)150℃、8時間の合成時間で最も高いCO2透過率が得られた。(右)シリカ基材上で作製した膜のCO2透過率は、アルミナ基材上で作製した同程度の厚さの膜よりも高い。

芝浦工業大学(東京都港区/学長 山田純)工学部応用化学科野村幹弘教授ら研究チームは、排出ガスや天然ガス中のCO2濃度の低減を目指し、CO2を効果的に分離する膜の合成方法を新たに開発しました。
CO2をほかのガスと分離・回収する技術において、ピュアシリカCHA膜の性能が分離プロセスの効率を大きく左右します。従来の合成方法とは違い、シリカ多孔体を基材として使用することで、合成時間を70時間から8時間へ短縮し、また、従来基材と比較してCO2に対する透過性が2倍高くなることを発表しました。

※この研究成果は、「Membranes」誌オンライン版に掲載されています。

【ポイント】
●排出ガスや天然ガス中のCO2を効果的に分離する膜合成法を開発
●合成時間を短縮し、膜の透過性能を2倍にすることに成功
●二酸化炭素回収・貯留技術(CCS: Carbon dioxide Capture and Storage)の進展に寄与

画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/294774/LL_img_294774_1.png
さまざまな合成時間と基材に対する単一ガス透過率 (左)150℃、8時間の合成時間で最も高いCO2透過率が得られた。(右)シリカ基材上で作製した膜のCO2透過率は、アルミナ基材上で作製した同程度の厚さの膜よりも高い。

■研究の背景
カーボンニュートラル実現に向けて、排出ガスや天然ガス中に含まれるCO2を除去する方法が世界中で研究され、その有効な手段のひとつが「二酸化炭素回収・貯留技術(CCS: Carbon dioxide Capture and Storage)」です。

CCSでは、CO2と他のガスを分離回収する手段の一つとして、膜分離法が用いられます。膜の選択透過性が、分離プロセスのコストに影響するため、分離膜の改良が求められます。近年、温室効果ガスであり、エネルギー源としてさまざまな産業で利用されているメタン(CH4)とCO2を分離する膜として、ゼオライト膜の一種としてCHA膜が注目されています。CHA膜は、8員環のシリコン(Si)を主成分とする結晶で、直径0.38nmの細孔をもっています。これは、CO2分子(0.33nm)を透過し、CH4分子(0.38nm)やその他の大きな分子を透過させないサイズです。

このCHA膜を合成するには、セラミック多孔質基材上に、CHAの微結晶を塗布し、CHA原料ゲル中で、これら結晶を成長させる二次成長法が最も一般的です。CHAゼオライト中のCO2の拡散は、CHA中にアルミニウムを含有しない状態が最も速いので、ピュアシリカCHA膜開発が求められます。しかし、セラミック多孔質基材として、アルミナが用いられることが多く、合成中に、原料ゲル中に含有されているアルカリ成分により、多孔質基材よりアルミニウムが溶出し、ピュアシリカCHA膜を合成できていませんでした。


■研究概要
今回の研究では、従来の方法で開発したCHA膜よりも、高いCO2分離性能をもつピュアシリカCHA膜を合成する新しい方法を開発しました。
従来用いられてきたアルミナ基材ではなく、多孔質のシリカ基板を使用して結晶を成長させました。シリカ基板を使用することで、前述の問題が解消され、CO2透過率が向上しました。

さまざまな合成条件下での実験を通じて、原料ゲルとシリカ基材の組み合わせを最適化し、CO2/CH4混合ガスに対して最も高いCO2分離性能をもつ膜を得ることができました。また、従来用いられているアルミナ基材上に作製したCHA膜との性能を比較しました。

ゲルの水/シリカ比が4.2のとき、最適なゲルの粘度となり、均質な膜ができることがわかりました。しかし、均質な膜であっても、CO2透過率において最も優れているということではありません。水/シリカ比が4.6のゲルを多孔質シリカ基材に塗布し、150℃で8時間合成することで、多孔質アルミナ基材上で同じ条件で合成した膜の2倍の透過性をもつ膜を合成することができました。

さらに、アルミナ基材上で同じ膜厚の膜を合成するのに必要な条件は、170℃、70時間であり、合成時間も大幅に短縮できました。


■実験結果と今後の展望
この研究は、シリカ基材上で効果的なピュアシリカCHA膜の合成を実現し、重要な情報を提供しました。これまで、CHA膜によるCO2回収の産業化を困難にしていた原因の一つである低透過性をクリアする可能性を秘めています。研究がさらに進むことで、地球温暖化による気象変動を抑えるために、カーボンニュートラルな社会の実現に寄与します。


■論文情報
著者 :芝浦工業大学大学院修士課程 Gabriel Gama da Silva Figueiredo
芝浦工業大学大学院修士課程 高山大史
芝浦工業大学大学院博士(後期)課程 石井克典
芝浦工業大学工学部応用化学科教授 野村幹弘
住友電気工業株式会社 小野木伯薫
住友電気工業株式会社 奥野拓也
住友電気工業株式会社 俵山博匡
住友電気工業株式会社 石川真二
論文名:Development of Pure Silica CHA Membranes for CO2 Separation
掲載誌:Membranes
DOI :10.3390/membranes11120926


■芝浦工業大学とは
工学部/システム理工学部/デザイン工学部/建築学部/大学院理工学研究科
https://www.shibaura-it.ac.jp/

日本屈指の海外学生派遣数を誇るグローバル教育と、多くの学生が参画する産学連携の研究活動が特長の理工系大学です。東京都とさいたま市に3つのキャンパス(芝浦、豊洲、大宮)、4学部1研究科を有し、約9千人の学生と約300人の専任教員が所属。創立100周年を迎える2027年にはアジア工科系大学トップ10を目指し、教育・研究・社会貢献に取り組んでいます。


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