バイリンガル環境での赤ちゃんの文法発達に関する記事公開

プレスリリース発表元企業:ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所

配信日時: 2021-07-09 10:00:00

「バイリンガル環境で子どもを育てると、子どもの言語発達が遅れる原因になりますか?」
0~6歳までを主な対象とした早期英語教育、早期バイリンガル教育に関しては様々な意見が交わされています。そこで、ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(※以下、IBS)<東京都新宿区 所長:大井静雄>では、保護者の皆様や教育関係者の皆様から寄せられる疑問に対し、先行研究を基にお答えする記事を定期的に公開しています。今回は子どもの文法発達についてお答えします。


■ バイリンガル児の言語習得はゆっくり発達する場合がある
二つの言語に触れる環境が言語発達遅滞の原因になることはありません(Baker & Wright, 2021, p. 96)。ただし、それぞれの言語に触れる量などから影響を受けて、モノリンガル環境で育つ子どもよりもゆっくりとしたペースで発達しているように見える時期を経験する子どももいます。今回はバイリンガル児の文法習得がどのように発達するのか、先行研究から見ていきます。

■ 二語文を話すようになる時期はモノリンガル児との差はない
子どもは、生後18カ月から24カ月前後にかけて、単語を組み合わせて二語文(例:”Daddy wash”)を話すようになります(中村, 2007)。そして、平均発話長(MLU:Mean Length of Utterance)(※1 )は徐々に増えていきます。これまで複数の研究結果から子どもたちが、両言語とも、もしくは少なくとも片方の言語では、モノリンガル児の標準範囲内の月齢で二語以上の語彙を組み合わせて話していたことが明らかになっています。
(Marchman et al., 2004,Conboy & Thal, 2006,Nicoladis, 1994)

(※1) 一つの発話における形態素(意味をもつ最小の語の単位)の数の平均。例えば、catsに含まれる形態素の数は2つ(「ネコ」を表す“cat”+複数形を表す“s”)である。

英語・フランス語のバイリンガル児、音声言語(フランス語)と手話言語(ケベック手話)のバイリンガル児を調べた研究では、音声と手という形が異なる二言語にふれている子どもでさえ、二語文を話し始める時期がモノリンガルと同様であることが示されました(Petitto et al., 2001)。
つまり、二つの言語に触れる環境で育っているからといって、必ずしも平均発話長の伸びがモノリンガルより遅れるわけではなく、普通の発達をしているバイリンガル児であれば、モノリンガルと同様のペースで伸びていくのです。

■ バイリンガル児は早期から二言語を区別し、別々に文法習得が進んでいる
バイリンガル児の各言語の文法(語や文の構造)発達ペースがモノリンガル児と同様であることを示した研究はいくつか報告されています。例えば、カナダの研究チーム(Paradis & Genesee, 1996)がフランス語・英語のバイリンガル3人(2歳前後)を対象に、動詞の語形変化、否定形、代名詞の習得について調査した結果、これら文法形式の習得ペースおよびパターンは、各言語のモノリンガル児と同様でした。

このような研究は、日本語・英語のバイリンガル児2人でも行われており、テンス(※2)を表す文法形式の出現時期が調べられました(Mishina-Mori, 2002)。つまり、日本語で過去を表す「〜た」(例:食べた)を含む発話、英語で過去を表す「動詞+ed」(例:cooked)を含む発話がいつ出てくるのか、ということです。結果、日本語では1歳過ぎ(二語文期に入る前の段階)から、英語で2歳過ぎ(二語文期に入ったあとの段階)からであり、各言語のモノリンガル児と同様の時期でした。

(※2) 動作の「時制」(過去/現在/未来)を表す文法形式。

また、同研究で行われた否定文の習得についての調査結果では、日本語では、平均発話長が2.0になる前の段階から、否定を表す「〜ない」(例:食べない)を含む発話が見られるようになりました。英語では、平均発話長が2.0のころになると、まずは “no” を文頭に置いて(例:No Ken go.)否定を表すようになり、最終的には、平均発話長が2.8のころになると助動詞と主動詞の間に置くようになりました(例:I do not eat.)。そして、これらは各言語のモノリンガル児と同様の発達ペースでした。

これらの研究結果からは、バイリンガル児の文法発達ペースがモノリンガル児と同様である、ということだけではなく、二つの言語が早い段階から区別され、別々に発達していく(※3)、ということもわかります。

(※3)Separate Development Hypothesis(分離発達仮説)と呼ばれる(De Houwer,1990)。

■ 文法形式の習得が遅れても言語発達遅滞と捉えるべきではない
習得に比較的時間がかかるとされている文法形式については、バイリンガル児にとってその言語が優勢言語でない場合や社会の少数派言語である場合は、モノリンガル児よりも遅れて習得する可能性がありますが(Paradis et al., 2011)、(Paradis et al., 2011)、そのような”遅れ”は言語発達遅滞と捉えられるべきではありません。
なお数百人を対象にした調査では、インプット量が少ない言語については、モノリンガル児よりも遅れて習得する文法形式があるものの、インプット量が増えればモノリンガル児に追いつくことを示した研究結果(Gathercole, 2007)も報告されています。
次回、バイリンガル特有の言語使用について紹介します。

より詳しい内容はIBS研究所で公開中の下記記事をご覧ください。

■バイリンガル環境で子どもを育てると、子どもの言語発達が遅れる原因になりますか?(文法発達編)
https://bit.ly/3jT8IRb

■ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所
(World Family's Institute Of Bilingual Science)
事業内容:教育に関する研究機関
所 長:大井静雄(脳神経外科医・発達脳科学研究者)
所 在 地:〒160-0023 東京都新宿区西新宿4-15-7
パシフィックマークス新宿パークサイド1階
設 立:2016年10 月
URL:https://bilingualscience.com/


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