IEEEフェロー 海洋ロボット研究の第一人者 『東京大学 浦環名誉教授が提言』

プレスリリース発表元企業:IEEE

配信日時: 2020-08-20 14:00:00

東京大学 浦環名誉教授

IEEE(アイ・トリプル・イー)は、世界の技術専門家の組織であり、人類に恩恵をもたらす技術の進展に貢献しています。

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東京大学 浦環名誉教授

IEEEフェローである浦環(うら・たまき)東京大学名誉教授は、ロボット技術の進化の方向性について「社会に役立つロボット」と、「自律的に稼働するロボット」両面の重要性を訴えています。浦名誉教授は海中ロボット研究の第一人者として知られ、30年以上、数多くの海中ロボットの研究と海中ロボットによる海洋調査プロジェクトに携わってきました。2019年には海中工学・海洋工学に関するコンサルティングを行う株式会社ディープ・リッジ・テクを長崎県五島市に設立し、取締役社長として精力的に活動しています。

浦名誉教授は東京大学大学院で船舶工学を修めた後、助教授として船舶の安全に関する研究を続けていました。ところが当時の東京大学生産技術研究所所長を勤めた後、学術会議の議員だった石原智男氏が、地震研究のために海中調査用のロボットを作ってくれと地震研究者から言われ、「海中ロボット研究には浦がうってつけだ」ということになり、1984年から自律型海中ロボットの研究に携わることになりました。

浦名誉教授は元々ロボットに興味を持っていたため、円滑に研究をシフトできました。大学に入る前から手塚治虫の漫画に強い影響を受けており、特に『鉄腕アトム』の原作にある「ロボットと人との関係とは」、「人とは何なのか」といったテーマを深く考察していたと言います。そこで得たものが「人とロボットは仲良くなれない。別の世界で生きるべきだ」という考えに達したということです。

浦名誉教授は海中ロボットの研究を始める際に、「海の底で役に立つロボットを作る」と決めました。当時の大学でのロボット研究は、役に立つものより、二足歩行のような動きの実現を主題にしたものが多く、それらと一線を画するものでした。ですが、ロボットが役に立つことを見せられるまでに足かけ16年かかったと言います。静岡県沖の手石海丘という海底火山を自律航行式の海中ロボット(AUV)「R-One Robot」で調査し、火口の詳細を撮影しました。AUVとはケーブルなしに自律的に動き回り、撮影や地質調査などの作業を行う海中ロボットです。操作や電源などのケーブルがなく自由に動けて水深数千メートルの深海に潜れる半面、バッテリーやコンピューターなどを内蔵する必要があります。

研究当初は、コンピューターの計算力が足らず、音響通信速度も遅く、モーターや電池も小型化が進んでいなかったため苦労したといいます。まず、簡単で、人にはできない作業を海中ロボットにさせようということになりました。それでも実現に時間がかかった大きな要因の一つが、海中ロボットがオペレーターとの通信なしに自らの位置や速度を把握するために必要な慣性航法装置だったと浦名誉教授は振り返ります。最初に使っていたリングレーザージャイロという角速度センサーは小型化できず、1990年代半ばに光ファイバージャイロが小型化したことで、AUVの実現に至りました。

2000年の成功以降も、2003年に水深4000メートルの熱水鉱床を調査できる「r2D4」を開発。また一方で、ヘリコプターのように1カ所にとどまって調査できる小型AUV「Twin-Burger」、「TUNA-SAND」などを開発してきました。TUNA-SANDは新潟沖のメタンハイドレート調査などで成果を出し、撮影した写真からメタン湧出地にベニズワイガニが密集している様子などを初めて観察できました。

海中ロボットの成功について、浦名誉教授は「ミッション・ディフィニッション」の考え方が重要だと説きます。ロボットは「何でもできても偉くない」ものです。その海中ロボットに何をさせたいかを決め、その目的に必要な要素技術だけを集め、コストや搭載機器を最低限に抑えることが、役に立つロボット作りに不可欠なのです。海中ロボットは船に積んで調査地に運びます。加えて深海で作業するには、ロケットと同じく、さほど大きくない耐圧容器に要素技術を詰め込む必要もあります。これら条件から、余計な性能を追加することはできませんが、その代わり、確実に目的を果たせるようにします。

技術面ではスマートフォンの登場と進化が手助けになったと言います。海中ロボット自体は市場が小さく、蓄電池、通信機、カメラ、センサーといった要素技術に巨額の投資ができません。スマホは億単位の台数が売れるため、要素技術の進化に巨額の投資が可能です。スマホが蓄電池やセンサーの小型化と技術革新をもたらし、海中ロボットもその恩恵を受けました。

浦名誉教授は、今後の海中ロボットに求める技術として、実際に深海からサンプルを持って帰るマニピュレーションを挙げます。現状は画像や温度、深海鉱床のコバルトの厚み、といった各種計測のみですが、実際のサンプルを持ち帰ることで、より多くの研究に貢献できるようになると言います。

もう一つは、自律性の向上です。浦名誉教授は過去に人工知能(AI)技術の一つ、ニューラルネットワークの研究もしており、現在はディープラーニング(深層学習)の登場とコンピューターの計算力向上、学ぶことができる画像データの増大といった条件がそろい、AIにできることが飛躍的に増えています。例えば、海中ロボットが海中生物をカメラで捕らえ、その場で名称を調べます。もしデータベースになければ、新種の可能性が高いため実際に捕まえて持ち帰る、といったことが可能になれば、生物学や海洋研究に大きく役立つことでしょう。

浦名誉教授はディープ・リッジ・テク社長のほか、戦争などで沈没した潜水艦や船舶を探るラ・プロンジェ深海工学会代表理事、海岸を清掃するロボットを研究開発するBC-ROBOP海岸工学会理事を務め、後進の指導にもあたっています。次代に研究者へのメッセージとして、手塚治虫の考え方でもある「ロボットと人が別の世界に住む」世界の実現を促しています。例えば、将来的には、海底火山の熱エネルギーを発電に利用してロボットが定住し、鉱物資源を採集して生活していく世界もありえるかもしれません。


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