自粛生活は“薬がない”未来の疑似体験!?薬剤耐性菌で新型コロナと同じ状況に

プレスリリース発表元企業:国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院、AMR臨床リファレンスセンター(厚生労働省委託事業)

配信日時: 2020-06-26 14:00:00

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて自粛が要請されていた都道府県境を越える移動の制限が解除されましたが、マスク着用や三密を避けるなどの感染予防対策が欠かせない状況であることは変わりません。
そこで、AMR臨床リファレンスセンターでは、全国の男女548名に「今後、新型コロナウイルスの治療に関して希望していることはなんですか?」というアンケート調査を行いました。結果は「薬ができる」との回答がトップで約8割が答えており、多くの人が治療に有効な「薬」を希望していることがわかりました。

現在のところ、新型コロナウイルス感染症の特効薬といえる薬はなく、私たちは今まさに「必要な薬がない」世界を体験しています。
一方で、細菌による感染症治療の切り札となる「抗菌薬」が効かない薬剤耐性(AMR)の問題が世界中で深刻化しています。このまま対策を行わないと、2050年にはAMRによる死亡者数はがんよりも多くなるといわれ早急に対策を行うことが必要とされています。
抗菌薬が効かない薬剤耐性菌は、現在世界各地で拡大が進行しており、さらに広がりが大きくなれば、今回の新型コロナウイルスと同様な「薬がない」という状況が世界中で起こると予想されています。薬剤耐性菌の問題は、新型コロナウイルスと同じように、あるいはそれ以上に人々を不安にさせ、死亡者が増え、世界経済を低迷させる可能性があるのです。
恐ろしい「薬がない未来」を招かないためには一人ひとりが、今すぐAMR対策を始める必要があります。コロナで体験している薬が効かない世界の恐ろしさとAMR対策として私たちができることについてお伝えします。

【サマリー】
1.「薬がない」怖さをコロナ禍で実感
2.薬がないということは、100年前の対策しかできない
3.薬剤耐性菌が拡大するとさまざまな医療が止まってしまう
4.世界中に薬剤耐性菌は拡散し、経済ダメージは計り知れない

画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/216959/LL_img_216959_1.jpg
今後、新型コロナウイルスの 治療に関して希望していることはなんですか?

■「薬がない」怖さをコロナ禍で実感
今回の調査では、新型コロナウイルスの拡大で、効く薬が「まだ」ないことによる不安や恐怖が大きいことが感じ取れます。効く薬がないという点は、薬剤耐性菌と新型コロナウイルスは非常に似ています。
薬剤耐性とは、細菌に対して抗菌薬が効かないこと、つまり薬剤耐性菌が増えていくと、抗菌薬が「もう効かない」状況となりうるのです。
抗菌薬は複数の種類がありますが、切り札のひとつであるカルバペネム系抗菌薬に耐性を持つ菌も現れています。現在よく使われている抗菌薬がすべて効かない耐性菌すら報告されているのです。
また新しい抗菌薬を開発すればいいのでは?と考えるかもしれません。しかし、製薬会社は新薬の開発に前向きでありません。その理由は、1つの抗菌薬を開発するのに10年以上の期間が必要で、薬によっては1兆円以上もの費用がかかるわりには、研究にかかった費用が回収できないからです。実際に抗菌薬を開発したベンチャー企業が倒産したという例もあります。新薬の期待は薄く、今すでにある抗菌薬が効かなくなったら、「もう効かない」状況となってしまいます。


■薬がないということは、100年前の対策しかできない
ワクチンや特効薬がなく急速に広がる感染症の場合、対策は発症者の隔離や接触者の行動制限、そして社会の活動を抑えることが中心となります。100年前に世界中で流行したスペイン風邪のときもそうでした。100年たった今でも、新型コロナウイルスの感染拡大対策として都市や町ごと封鎖する「ロックダウン」など昔からの方法が主となっています。
文明がいくら発達しても、ワクチンや薬がなければ昔からの対策しかできないことになります。皮肉なことに、交通手段の発達によってウイルスや細菌は急速に広がっていきますが、対策の基本は、100年前とたいして変わらないのです。


■薬剤耐性菌に感染するとさまざまな医療に影響する
新型コロナウイルスによる死亡は、主に肺炎によるものです。薬剤耐性菌は肺炎、菌血症など、さまざまな病気の原因となります。それだけでなく、薬剤耐性菌の影響は医療の様々な場面にあらわれます。
たとえば、手術を行う場合、手術に関連する感染症を防ぐために抗菌薬を使用します。しかし、世の中が薬剤耐性菌ばかりだったら、抗菌薬が効かず感染症を防ぐことができないため手術を行いにくくなることでしょう。たとえば心臓病など命にかかわる、大きな病気の手術が行えないとなると、薬剤耐性菌そのものが原因ではなくても大きな影響がでてしまいます。


■世界中に薬剤耐性菌は拡散し、経済ダメージは計り知れない
新型コロナウイルスは飛沫による感染、薬剤耐性菌は接触感染とされ、世界中のどこにでも感染は拡大していきます。薬剤耐性菌の広がる速度は新型コロナウイルスよりも遅いとはいえ、じわりじわりと世界中で広がっています。我が国でも、薬剤耐性菌による死亡者は、わかっているだけで年間8,000人を超えています。これは、新型コロナウイルスによる死亡者をはるかに超えています(2020年6月現在)。薬剤耐性菌の感染拡大が続けば、新型コロナウイルスと同様に世界中の経済がダメージを受けると報告されています。目に見えないウイルスや細菌、その感染拡大を防ぐためにはなんといっても手洗いが重要です。さらに、薬剤耐性菌は抗菌薬の正しい知識と使い方が重要な対策となっています。


〇忍びよるAMRの問題 国連が「2050年にはAMRで年1000万人が死亡する事態」と警告
・AMRとは?
AMR(Antimicrobial Resistance)とは薬剤耐性のことです。細菌などの微生物が増えるのを抑えたり壊したりする薬が抗菌薬(抗生物質)ですが、微生物はさまざまな手段を使って薬から逃げ延びようとします。その結果、薬が微生物に対して効かなくなることを「薬剤耐性」といいます。誤った抗菌薬の使用に伴って、抗菌薬が効きにくい薬剤耐性を生じることがあり、それらの菌が体内で増殖し、人や動物、環境を通じて世間に広がります。抗菌薬は効果が高い薬ですが、正しく適切に使用することが大切なのです。

・AMRは世界が抱える大きな問題
国連は、このままでは2050年までにはAMRによって年に1000万人が死亡する事態となり、がんによる死亡者数を超え、08~09年の金融危機に匹敵する破壊的ダメージを受けるおそれがあると警告しました。※
AMRが拡大した原因の1つとして、抗菌薬の不適切な使用があげられます。本来は治療可能な病気なはずなのに、薬が効かないために人が亡くなっていくのは、本当に辛いことです。そうならないために、一人ひとりのAMR対策が必要とされています。
また、ワンヘルス(人の健康だけでなく動物や環境にも目を配って取り組もうという考え方)に基づき、畜産、水産、農業などでの抗菌薬の使用も見直されています。

https://news.un.org/en/story/2019/04/1037471
No Time to Wait: Securing the future from drug-resistant infections
Report to the Secretary-General of the United Nations April 2019

・AMR対策で私達にできること
私達にできることは、抗菌薬の正しい使用と病気の感染を予防することです。風邪やインフルエンザなどウイルス性の疾患には、抗菌薬は効きません。医療機関にかかって薬を出されないと不安になるかもしれませんが、医師が薬はいらないと判断したら、それに従うことがAMR対策になります。そして、抗菌薬を処方されたら、医師の指示に従い飲み切ることが重要です。
抗菌薬の正しい使用とともに、細菌性の病気に感染しないこと、感染させないことが抗菌薬の使用を減らし、AMR対策になります。


【AMR対策】
(1)感染しない
外から帰ったとき、食事前にしっかり手洗いをするなど、感染しないための予防をしましょう。
また、必要なワクチンを適切な時期にしっかりと打ちましょう。
(2)感染させない
子どもが感染症にかかったら治るまで保育園、幼稚園、学校などを休ませましょう。
大人がかかった場合にも、無理して出勤すると感染を広げるきっかけになるので注意しましょう。
(3)医療機関にかかり、医師の指示に従う
抗菌薬が必要かな?と思っても、自己判断で薬を服用せず、医療機関にかかり、医師の指示に従いましょう。


具 芳明(ぐ よしあき)
AMR臨床リファレンスセンター 情報・教育支援室長

総合内科専門医、感染症専門医。
佐久総合病院、静岡県立静岡がんセンター、東北大学などを経て2017年より国立国際医療研究センター病院にて現職。
薬剤耐性(AMR)対策を推進するための教育啓発活動や医療現場の支援に従事している。


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