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「ダウン症×1,000の仕事を創る」プロジェクトが目指す、人があたりまえに感謝され生きられる世界【連載1回目】

2020-08-09 18:30:00

 本連載では、ダウン症をはじめとした障がいを持つ方々が家族や企業と連携し、彼ら自身がリーダーとなって様々な社会課題解決に取り組みながら「本人と親の自立」を目指すプロジェクト「Well-Beingプロジェクト」についてご紹介させていただきます。

「ダウン症×1,000の仕事を創る」プロジェクトが目指す、人があたりまえに感謝され生きられる世界【連載1回目】

 本記事の原稿は、Well-Beingプロジェクトを進めている株式会社チェリーブロッサムの中尾剛代表取締役に寄稿していただきました。

 企業に対して一定割合以上の障がい者の雇用を義務付ける法定雇用率が2018年に引き上げられ、障がい者雇用についての関心は高まっています。一方で、離職率が高い、採用されても能力を発揮できない、等の課題も問題視されています。
 本連載では、障がいを持つ方のこれからの働き方や自立の在り方についてお伝えします。

 (グーテンブック編集部)

ダウン症の方を取り巻く社会を変える!Well-Beingプロジェクトが目指すこと



Well-Beingプロジェクトは新しく1,000の仕事を創ります



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 はじめまして。Well-Beingプロジェクトを進めている株式会社チェリーブロッサムの中尾と申します。

 Well-Beingプロジェクトでは、ダウン症をはじめとした障がいを持つ方々ができる新しい仕事を1,000個創ることを目指しています。障がいを持つ方が、親&企業&社会&地域と力を合わせて、従来の就職や働き方の概念に捉われない新しい仕事を創り、自身を取り巻く社会を変えていきます。

 最近は企業の障がい者雇用も進みつつありますが、その多くは法定雇用率としてカウントされる条件となっている週30時間以上の労働が求められますし、特技の発揮より勤勉性や繰り返しの作業ができることが重要とされています。
 こういったケースでは、安定した収入や社会的立場が約束される一方で彼らの強みが発揮できない場合もあり、ドロップアウトする方も多く存在します。
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 そこで我々は従来の働き方や企業に就職するという概念に捉われない(短時間やそれが仕事?と思うような事もあって良い)、彼らの力が存分に発揮できる仕事を創り出します。
 そして、ダウン症をはじめとした障がいを持つ方々が毎日社会から必要とされ、イキイキと働ける社会を創っていきます。

 これは弊社1社では到底辿り着けないので、共に挑戦する全国の障がいを持つ方々&親&企業&社会&地域の皆様と力を合わせて挑戦していきます!

このプロジェクトを始めたきっかけ



 私は大学を卒業後、大手ガス会社に就職して9年働き、その後外資系生命保険会社でトップ営業マンのMDRTとして4年間働きました。昨年、株式会社チェリーブロッサムを立ち上げ、代表として当プロジェクトに専念して、現在に至ります。

 「出世街道を突き進む」「個人事業主として収入を大幅にアップさせる」をどちらかと言えば求めていた人生から、「子供たちの世代に誇れる社会を遺す!」人生に180度展開しました。

 このきっかけをくれたのが子供たちです。私には3人の子供がいますが、次女の咲良(さくら)がダウン症児として産まれてきました。当事者として「現在のダウン症児を取り巻く状況を変えたい」、「誰かに社会を変えてもらう他責で願うのではなく、自分の責任で世の中を変える!」、その想いで当プロジェクトをスタートしました。

ダウン症を取り巻く、本人視点と親視点からの2つの課題



 ダウン症児の親としてまだ2年少しと経験は浅いですが、本人や親を取り巻く環境についての主な課題は2つあると考えています。
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人生の選択肢の少なさ、生きている中で社会との関わりや感謝される機会が少ない



 親としてまず感じたのが選択肢の少なさです。

 私自身、子供の成長は、幼少期から習い事をして、塾に行って、部活をして、受験をして大学行き、就職して、結婚して子供を産むというのが当たり前であると思っていました。長女が生まれた時には子供の将来の無限の可能性を毎日夢見る生活でした。

 一方で、ダウン症児として産まれてきてくれた次女咲良の場合には大きく異なります。

 習い事も障がいがあるという事で断られる事が多く、幼稚園入園ですら大問題になります。学校は近くの公立小学校か支援学校へ。そして、バイト経験や部活経験もほぼできないままに18歳以降は社会に出て、近くのB型事業所で働く。
 もちろん1人1人異なりますが、運が良ければ10%未満の確率で、能力やご縁によって最低賃金がもらえるA型事業所や、一般企業の特例子会社で働くのが一般的です。

 また仕事内容も、どちらかと言えば軽作業など単純作業の繰り返しが多く、社会やお客様から直接感謝される機会が少ないため、仕事での達成感を味わいにくい環境です。

 障がいがある方の低賃金問題もよく社会問題とクローズアップしますが、こちらについては思ったほど過度の心配は不要であるとわかって参りました。
 福祉制度が充実していて、幼少期には特別扶養手当・成人してからは障害者年金がもらえます。また選択肢が少ない裏返しのメリットとしては、習い事費用や塾代、私立の学校代、大学の学費が掛からないという側面もあります。
 ※もちろん子育ての面においては、すぐにできない事が多く、同じ事を何度も伝えるので何倍もの負担があり、心折れそうになる事の連続です。

 つまり、「日々の生活に張り合いはないが、福祉制度の元、何とか細々と生きる」事は可能となっています。最初は本人の自己実現を追いかけるも、ある一定の年齢を超えると、親や本人も諦めの気持ちが強くなっていきます。そして、社会との関わりを減らして生活するようになる傾向があると感じます。

 最大の課題は、「経済的にはなんとか生活していけるが、人生の選択肢が少なく、自己実現や社会から必要とされていると感じて生活する事が少ない」事であると私は考えています。

親も日常から「すみません」と周りに謝る事が多い人生になっている



 次に親の視点での課題になります。親となって一番痛感するのが、圧倒的に周囲の方に「(ご迷惑をおかけして)すみません!」という言葉を発する機会が増えた事です。

 これはママさんの集まりで意見交換した際にも、「1日に何回すみませんって言っているんだろう」などと発言すると「それ、わかる~!」と大変盛り上がるテーマです。笑

 これはダウン症児特有かもしれませんが、幼少期に入院が多かったり、急に病院に行かなくてはいけなくなったりなどが理由で、仕事から少し距離を置いて育児に専念されている方が多く存在します。

 つまり、ママ達もこれまでは社会と関わり毎日を過ごしていた日々から、社会との関わりが減り、一方で「すみません」という言葉が圧倒的に増える。

 先天的な障がい児を持った親としては、子供が赤ちゃんの時には毎日繰り返し「きちんと産んであげられなくてごめんね」と自責をしている中で、さらに世の中に対しても「すみません」の連呼。これではタフな方でもさすがに精神的に参ります。

 よって、私は本人達が社会と関わり必要とされ活躍できる環境づくりも大切ですが、同時に「ママ達も社会と関わり感謝される事」が何より大切であると考えます。

 ですので、我々のWell-Beingプロジェクトでは幼少期から「本人&親が力を合わせて、企業や社会と共に、社会から必要とされる新たな仕事づくりに挑戦する!」事が大切であると考えて取り組んでいます。

 本人と親が力を合わせて自立する事が大切です。

Well-Beingプロジェクトの「ダウン症の本人・親の不安を次世代には引き継がないための挑戦」



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「1,000個の仕事創りを目指すから新しい仕事の発想が出てくる」



 上記の理由から我々がまず目指しているところは、「本人&親&企業&社会が力を合わせて、従来の働き方や価値観に捉われない新しい1,000の仕事を創る」事です。

 大切な事は、10個や100個の仕事ではなく、1,000個を目指す!というところです。

 数が少ないと従来の仕事発想の延長線で達成できますが、1,000となると自然と発想が豊かになり新しい働き方が出てくると考えます。

 当プロジェクトの現状は、この1,000の仕事を本人&親&企業でアイデアを出し合っている段階です。
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「うちの子でもこれなら挑戦できるかも?」と思ってもらいたい



 それぞれの立場や視点からもう少しご説明をします。

 本人や親からすると1,000の実例があれば、「うちの子供でもこれなら挑戦できるかも?」という事が見つかります。

 現状でもダウン症の方の中には、書道家の金澤翔子さんをはじめとして芸術やダンスなど多岐の部門で活躍されている方が多くいらっしゃり、希望の星になっています。

 一方で、親の本音としては心のどこかで「うちの子供は金澤翔子さんのようにはなれない…」という想いも出てきて、必ずしも、自分達親子の人生の目標とはなりにくいのも事実です。
 ※本来は親として可能性を信じてあげるべきなのでしょうが、日ごろのゆったりとした成長を目の当たりにすると、頭では理解できても心が動かないという状況になります。

 そのような中だからこそ、1,000の仕事を創れば、「私達もこれならできるかもしれない!それで良いなら挑戦しよう」という気持ちになってもらえるのではないか?と考えています。

「仕事を依頼したいけど、何ができるかわからない」を解決!



 次に企業視点でこのプロジェクトの意義をご説明します。

 ここ直近はSDGsの浸透やコロナによる価値観の変化の影響もあり、多くの企業が障がい者雇用や仕事を発注する事には前向きであり、当プロジェクトにも大変協力いただいています。

 一方で、企業担当者や経営者の方からすると「どのような仕事をお願いして良いかわからない」というのが本音であると痛感します。生活する中で関わる事が少ないのでどうしてもこのような状況になります。
 ※私も次女の誕生までの34年間はまったく知らない人生でした。

 そこで「1,000の仕事の実例」があれば、「この仕事ならお願いする事ができる」と企業側もイメージしてもらいやすく、彼らの社会進出の後押しになると思います。また、社会の方々もこの1,000の仕事があれば、彼らのできる事に目がいくのではと考えています。

「授かった親の皆様に一人で抱えず、社会で育てる流れができています!」と伝えたい



 そして最後にこの活動を通じて伝えたいのが「出生前検診を受診された方やいわゆる障がいがある子を授かった方」です。

 私自身は出生後に子供がダウン症である事がわかりました。NICUの先生から伝えられて、すぐにインターネットで「ダウン症」を検索しました。
 検索で「ダウン症」と入力すると、「寿命・大変・辛い」などの候補が出てくるので、「これは今後の人生が真っ暗だ。なんで…。」と酷く落ち込み、涙がこぼれました。

 そこで、落ち込む前に、当プロジェクトを知ってもらい、「一人で抱えるのではなく、今は社会みんなで力を合わせて育てる時代になり、将来の選択肢も多い。逆に関わったみんなが幸福になっている」事を知ってもらい、少しでも前を向いてもらうお手伝いができたらと考えています。
 ※行政や医療系の皆様と連携を模索している目的の1つはこの辺りにあります。

「親や本人が抱える不安を次の世代に引き継がない!我々で断ち切る!」



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 あるママさんとの意見交換で印象的な言葉があります。
 大変積極的に活動されていて、お子様も20代中盤になり、子育てもひと段落されている方でした。
 「親が抱えている悩みや不安が私が子育てしていた時と変わっていない」という言葉です。
 福祉制度は充実して、SDGsやCSRが叫ばれ企業の雇用率は増えてきていますが、本質的な課題はこの20年間でも全く解決されていないというのが現状です。
 
 親や本人が抱えている不安を「次世代には引き継がない!」事が当プロジェクト最大のゴールであり、子供達からもらった私自身の人生の使命であります。残りの人生をこの使命を果たす為に使って挑戦します!

 もちろん実現には、私一人では何もできませんので、本人&親&企業&地域の方々&全国の応援団など多くの方々の後押しがあって初めて実現できます。
 共感いただける仲間の皆様と共に挑戦し続けていきます。(次回へ続く)

話者紹介



中尾 剛さん



 株式会社チェリーブロッサム代表取締役。
 次女の誕生を契機に障がい者の方や親を取り巻く環境に興味を持ち、事業をスタート。
 「次世代に負の連鎖を引き継がない」「次世代に誇れる世の中を残す」事を目標達成に向けて挑戦中。
 2020年9月より「Well-Beingプロジェクト」を開始。
 本人&親だけでなく、地域の企業や行政・専門家・地域の方・学生など多くの方に関わってもらいながら当プロジェクトを進めて参ります。 元のページを表示 ≫

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