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歩み寄れば減らせる「伝わらないコミュニケーション」

2020-02-10 18:17:33

 ある牛丼チェーン店でのことです。
 中高年男性客がイラついた大きめの声で「もう時間がないから・・・」と言っています。どうもお店の手違いで注文したものがなかなか来なかったようです。後から「キャンセル・・・」と付け足していたので、返金しろという意味だったと思います。

 応対していたのは外国人店員で、日本語の会話は普通にできていますが、男性客の「時間がないから・・・」の言葉で、持ち帰りに変更すると思ったようです。確かに「キャンセル」の言葉ははっきり聞こえず、何となく活舌も良くないので、私が聞いてもわかりづらかったです。

 その後は予想通り、本人は頼んだつもりがない持ち帰り用の品物が用意され、男性客はさらにヒートアップして「何を聞いているんだ!」「キャンセルと言っているだろう!」と怒鳴りだし、別の店員がお詫びと返金対応をして、その場は終わりました。
 初めに応対した外国人店員はしょんぼりしていますが、本人のミスであることは間違いないので、かわいそうですが仕方がありません。

 ただ、私はこの店員さんだけを責める気にはなりません。
 そもそも注文から時間が経っているところで、男性客の方から確認しても良いことです。
 「時間がないから・・・」と言われて、すべての人がそれを返金要求と理解するかといえば、決してそうではありません。
 さらに男性客は、返金処理とは違う様子の動きも見ているので、「そうじゃなくて・・・」と制止することもできました。
 たぶん、男性客はイライラと怒りで、相手に伝わっているかを確かめるような心の余裕はなかったのでしょう。

 最近、特に災害などの緊急時の対応で、「やさしい日本語を使おう」という取り組みがあります。外国人生活者が増えていることと、小さい子供や障害者もその方が理解しやすいからだそうです。
 例えば「高台に避難」ではなく「高いところに逃げて」であったり、「頭部を保護」ではなく「頭を守って」「ヘルメットをかぶって」であったり、より伝わりやすい簡単な表現に言い換える取り組みです。
 また、会話の途中で「わかりますか?」と確認することや、わかっていないと感じたら、別の言葉に言い換えてみること、相手の表情や反応を見ながら話すことなどが推奨されています。

 少し次元は違いますが、企業内でも同じようなコミュニケーションギャップの話は日常的にあります。「なぜ理解できない」と悩んだり、「話が通じない」と怒ったり、世代の違いや価値観の違いに原因を求めたり、コミュニケーション自体を放棄しているような場合もあります。
 この時に考えるべき方法は、「やさしい日本語」で言われている取り組みと、多くの共通点があります。特に「相手の表情や反応を見ながら」「理解の様子を確認しながら」「わかりやすい言葉、表現で」といったことは、コミュニケーションをする上で大事なことです。

 実はこれらのことは、ほぼすべての人が理解、認識しています。しかし、わかっていても実行できなくなることが数多くあります。
 その理由は怒り、反感、あきらめ、他責など、「相手が悪い」と決めつけて、相手だけを責める気持ちです。
 これは「上司から部下」「先輩から後輩」「サービスされる側からする側」「お客から店員」など、上下関係が見えやすい時ほど起こりやすくなります。

 これは、相手を責める感情を抑えて、「どうすれば相手に伝わるか」「どういえばわかりやすいか」を理性的に考えることで解決ができます。相互理解ができて初めて、コミュニケーションが成り立ったといえます。
 「伝わらないコミュニケーション」は、相手の事情を考えて歩み寄れば、もっと減らすことができるはずです。

※この記事は「会社と社員を円満につなげる人事の話」からの転載となります。元記事はこちら

執筆:小笠原 隆夫(おがさわら・たかお) ユニティ・サポート代表

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