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「適切な期待」であれば失望しない

2018-06-29 08:57:59

 私の知人のある会社の社長が、ちょっとがっかりした様子で話しかけてきました。大きな期待を持って採用した幹部人材が、どうも期待外れだと言います。
 有名企業で主要部門の管理職経験があり、経験してきた分野が自社の事業とも合っていて、すばらしい経歴で絶対に入社してほしい人材だと評価したそうです。

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 採用するための待遇条件は、報酬をはじめとして自社にとっては結構ハードルが高いものでしたが、この人の経験が自社の発展にはぜひ必要だと、すべてを賭けるくらいの気持ちで採用したとのことです。

 しかし実際の仕事ぶりは、人柄としては問題ないものの、自分でやらなければならない実務作業が不得手だったため、まずはそれを覚えることにかかり切りになってしまいました。苦手なことは、特にある程度の年令になってからではなかなか身につきませんし、本来期待していること以前の問題なので、会社としては困ったことです。

 さらに数カ月が経過して、その人のことがいろいろわかってくると、前職での経験は有名企業なりの事業のベースがあった上でのことで、新たな事業を立ち上げる、新たな取り組みをリードするといった経験は、実はあまり持っていませんでした。この会社の現場で直接活かせる知識、経験が思いのほか少なかったのです。
 社長は、落ち込みと怒りの両方の表情で、「期待外れだった」と悔やんでいます。

 この手の話は、特に中小企業が中核人材や幹部人材を社外に求めた場合、意外に耳にすることが多いものです。その人の経歴を見て、自社の大きな変革を期待するからです。
 しかし、外部から来た人材が、即戦力としていきなりバリバリ活躍することは、そうめったにあることではありません。よほどその人が優秀か、新しい会社の水にあったか、以前の経験とぴったり重なるような仕事だったか、おおむねいずれかの場合に限られます。
 これは、多くの人が自分の過去の出会いを冷静に振り返った時、同じようなことがほとんどではないでしょうか。

 つまり、「期待外れだった」の責任は、過度に期待し過ぎた方に問題がある訳で、もしかすると期待を盛り上げてしまう本人の態度や言動はあったかもしれませんが、そもそも入社した途端に何でもできる人などいるはずがないのです。

 私がこの社長にお話ししたのは、「高い期待」と「すべてを賭けるつもり」で人を採用したことが、そもそも間違っているということです。過去の経歴だけに目がくらんだ、明らかな過剰期待だからです。

 これは、例えば超一流のアスリートなどであっても、チームや周りの環境が変わったとたんに力が発揮できなくなるようなことは、決して珍しいことではありません。
 確かにそれは期待外れではありますが、初めから最悪のケースを想定していれば、そこから対処のしようはあります。

 知人の会社の場合も、この人にかける期待が「適切」なものだったとしたら、もちろん入社前にある程度の想定をして、そこにはある程度の振れ幅を含んだ上で、入社してから具体的にその人のできることやできないこと、経験値や力量を見極めて、そこからこの人材をどう活かしていくかを考えます。

 仕事をさせる前から「すごい」「素晴らしい」「優秀」は基本的にありませんし、その期待は適切ではありません。期待が過剰すぎるから失望が大きいのであり、適切な期待であればそんな失望はありません。

 特に企業の採用において、それが中核人材である時ほど、これから入社してくる人に、一方的に過剰な期待をすべきではないことは、肝に銘じておかなければなりません。

※この記事は「会社と社員を円満につなげる人事の話」からの転載となります。元記事はこちら

執筆:小笠原 隆夫(おがさわら・たかお) ユニティ・サポート代表

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