Claude、ファージDNAから未知の酵素系「ART」を発見 CRISPRに似た反復構造、機能は未解明

2026年9月26日 23:50

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記事提供元:Tech Times

(Shubham Dhage/Unsplash)

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Anthropicは、AIモデル「Claude」を使った大規模なゲノム探索で、バクテリオファージから「array-associated reverse transcriptases(ART)」と名付けた未特徴付けの酵素系を見いだしたと発表した。ARTにはCRISPRを連想させる反復DNA配列が隣接し、その配列から複数の短いRNAが生じることも確認されたが、系の生物学的機能や遺伝子編集能力は分かっていない。

探索にはClaude Mythos 5を使った949のエージェントセッションが参加し、21.5時間で大規模な配列データを分析した。一方、同じ探索を10回繰り返してもARTの反復配列は再発見されず、AIエージェントによる探索の再現性という課題も浮かび上がった。

■Claudeが見いだした未知の酵素系

Anthropicは2026年9月23日、ClaudeがCRISPRを思わせるDNA反復配列を伴う未知の酵素系を発見したと発表した。ARTは主にバクテリオファージで見つかり、逆転写酵素(RT)、隣接する機能不明のパートナー遺伝子、等間隔に並ぶ長いDNA反復配列の3要素からなる。

ARTの基盤となる逆転写酵素そのものは、巨大なゲノムを持つ「ジャンボファージ」の研究で既に報告されていた。Anthropicによると、Claudeが新たに注目したのは、その逆転写酵素に隣接する非コードDNAの反復アレイと、機能不明の付随タンパク質を含む一連の構造だった。

Anthropicの研究者は候補を人間の手で検討し、ARTの反復アレイが複数の短いRNAとして発現することを実験で確認した。同社は、このような構成がCRISPRを含む一部のプログラム可能な生物学的システムを連想させるとしているが、ARTの逆転写酵素が何を標的とし、どのような反応を担うのかはまだ示されていない。

CRISPRゲノム編集の先駆者の一人で、米マサチューセッツ工科大学(MIT)教授兼ブロード研究所研究者のフェン・チャンは、プレプリントを読んだ上で「AIエージェントが生物学的発見に貢献できることを示す刺激的な例だ」と評価した。逆転写酵素に関連するRNA反復アレイについて「非常に興味深く、さらに研究する価値がある」と述べている。

Anthropicのダリオ・アモデイ最高経営責任者(CEO)も同日の投稿で、この系の正確な機能やバイオテクノロジー上の有用性、重要性はまだ明らかではないとした。その上で、新たな遺伝子編集機構につながる可能性があるとの見方を示した。

■CRISPRとの共通点は「反復配列とRNA」

CRISPR-Casは、細菌や古細菌がウイルスなどの外来遺伝物質に対抗するために利用する防御系である。反復配列と、その間に挟まれた「スペーサー」と呼ばれる配列からRNAをつくり、Casタンパク質を対応する標的へ導く仕組みを持つ。

ARTで確認されたのは、逆転写酵素の近くに長い反復DNA配列が存在し、そのアレイから複数の短いRNAが生じるという構造上の共通点である。Anthropicによると、公開されているブドウ球菌ファージSA1のRNA解析データでは、感染15分後にARTアレイ由来のRNAがファージ転写産物の最大約8%を占めていた。

ただ、短いRNAが逆転写酵素やパートナー遺伝子の働きをどのように制御するのかは分かっていない。標的配列を変更できる「プログラム可能性」も未確認であり、ARTをCRISPR型のゲノム編集ツールと位置付ける段階にはない。

逆転写酵素はRNAを鋳型にDNAを合成する酵素である。ハワード・テミンとデビッド・ボルティモアは1970年、RNA腫瘍ウイルスで逆転写酵素を独立に発見し、レナート・ドゥルベッコとともに1975年のノーベル生理学・医学賞を受賞した。現在では細菌などにも多様な逆転写酵素系が存在することが知られている。

■約950のエージェントセッションで大規模探索

Anthropicの技術報告によると、探索は約19億のタンパク質クラスターを対象に実施された。Claude Mythos 5を使った949のエージェントセッションが119のタスクを処理し、21.5時間で合計2億1560万トークンを使用した。

エージェント群は約19万8290の逆転写酵素クラスターを抽出し、その周辺に存在する3564の候補パートナーファミリーを評価した。最終的には17の候補ファミリーを詳しく調べ、19本の人間向け報告書を作成した。

ARTの発見は当初の中心的な探索経路からではなく、1つのエージェントが逆転写酵素周辺の生DNA配列を詳しく読んだことから始まった。エージェントはタンデム反復配列に気付き、反復数や間隔を調べ、既知の逆転写酵素系と比較し、既報の有無を文献で検索した上で人間の研究者に報告した。

Anthropicによれば、人間の関与は研究課題の設定や候補の評価、実験による確認などに置かれ、計算探索の途中ではClaudeのエージェントが自律的に追加調査を組み立てた。実際の実験作業はすべて人間の研究者が行っている。

■10回の再探索ではARTを再発見できず

今回の探索には再現性上の重要な制約もある。Anthropicは最初の発見後、同じ探索キャンペーンをさらに10回実行したが、いずれもARTを特徴付ける反復アレイを再発見できなかった。

技術報告によると、多くの再実行ではARTを含む配列領域そのものには到達していたものの、反復アレイが存在する逆転写酵素上流のDNAまで読み進めなかった。最初の発見は、膨大な探索空間の中で1つのエージェントが特定の脇道を選んだことで生じた形となる。

一方、ARTを含むDNA配列そのものをモデルへ直接与えた評価では、高性能モデルは少なくとも90%の試行で反復アレイを記述できた。ファイルやツールを介して必要な配列を自ら探す条件では成功率が最低32%まで低下しており、情報を解析する能力だけでなく、必要な情報へたどり着く探索経路が結果を左右することが示された。

この結果は、AIエージェントによるゲノム探索が新しい候補を高速に拾い上げる可能性を示す一方、同じ入力から同じ発見へ安定して到達できるとは限らないことも示している。候補をどの段階で実験対象として選ぶかについては、引き続き人間による評価が必要になる。

■Anthropicがライフサイエンス研究を拡大

Anthropicは2026年春にライフサイエンス研究グループを設立し、米サンフランシスコ・ベイエリアに実験施設を設けた。施設はBSL-1とBSL-2の範囲で運用され、人に感染する病原体は扱っていないという。

同社の研究手法では、Claudeが配列データの検索、仮説生成、文献との照合、候補報告書の作成を担い、人間の研究者が研究目標の設定や候補選定、実験による確認を担う。AnthropicはARTの機能を解明する追加実験を進めている。

Anthropicは9月17日、ライフサイエンス研究者向けの「Life Sciences Verification Program」も発表した。生物学研究向けに調整した安全対策の下でClaude Mythosなどを利用できる仕組みで、Mythosへのアクセスは審査を受けた組織などに限定されている。

■ARTの意義を決めるのはこれからの実験

CRISPRにつながる反復配列が大腸菌で最初に報告されたのは1987年だった。2002年にはこの特徴的な反復配列に「CRISPR」という名称が付けられ、2005年にはスペーサー配列の一部がファージなどの外来遺伝物質に由来することが示された。2007年には、CRISPRとCas遺伝子がファージに対する獲得抵抗性を担うことが実験的に実証された。

その後、エマニュエル・シャルパンティエとジェニファー・ダウドナらがCRISPR-Cas9を標的DNAの切断に利用できる仕組みへ発展させ、両氏は「ゲノム編集手法の開発」により2020年のノーベル化学賞を受賞した。

ARTはそれよりはるかに初期の段階にある。反復アレイの存在と短いRNAの発現は示されたものの、逆転写酵素の活性、標的、パートナー遺伝子の役割、アレイ由来RNAの機能はいずれも明らかになっていない。

今後、ARTがどのような生物学的機能を持ち、配列を変更することで標的を制御できるのかを実験で確かめることが、その科学的・技術的な意義を判断する上で中心的な課題になる。現段階で今回の成果が示したのは、新しい遺伝子編集技術の完成ではなく、AIエージェントが大規模な配列探索から人間が実験で検証すべき新たな生物学的候補を拾い上げられる可能性である。

元記事: Claude Finds Hidden Enzyme System in Viral DNA: CRISPR Pioneer Calls It Intriguing

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

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