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NASA、月の南極向け地震計「LEMS」を完成 原子力なしで極寒の夜を越す初の機器に

2026年3月31日、メリーランド州グリーンベルトのゴダード宇宙飛行センターで、熱真空チャンバー試験に向けて月面環境監視ステーション(LEMS)を点検する機械エンジニアのブリー・ルートヴィヒ氏。LEMSは、月の南極地域における地震環境を長期間にわたって継続的に観測するために設計された、小型で自律稼働可能な地震計システムである。(写真:Denny Henry/NASA.gov)[写真拡大]
NASAは2026年8月11日、月の南極で稼働するよう設計された地震計「LEMS(月面環境監視ステーション)」のハードウェア開発と試験を完了した。LEMSは、アポロ計画の地震計が依存していたプルトニウムを用いる熱源を使わず、約2週間続く月の極夜を受動的な熱設計によって乗り切れるよう設計された初の月面機器である。今後、アルテミス計画の有人月面ミッションで宇宙飛行士が設置する予定だが、具体的な搭載ミッションはまだ決まっていない。将来の月面基地における耐震性の評価や、長期間稼働する月面観測機器への応用が期待される。
■LEMSとは何か、何を測定するのか
NASAは2026年8月11日、月面環境監視ステーション(LEMS)のハードウェア開発と試験を完了した。これによりLEMSは、月の南極で稼働するよう設計された初の地震計となり、アポロ計画のすべての地震計が依存していたプルトニウムを用いる熱源なしで、約2週間の極夜を受動的に乗り切れるよう設計された初の月面機器となった。NASAが「wrenches down(工具を置く、すなわち製造作業の完了)」と表現した今回の節目は、月震観測における49年間の空白を埋めるとともに、将来の月面基地用機器の標準になるとNASAが位置づける熱設計の有効性を実証するものである。
LEMSは、メリーランド州グリーンベルトにあるNASAゴダード宇宙飛行センターで製造された、スーツケースほどの大きさの自律型地震観測ステーションである。月の重力下での重量はわずか11ポンド(5キログラム)とされる。NASAのハードウェア完成発表によると、アリゾナ大学月惑星研究所がSilicon Audio Inc.と共同で設計・製造した2つの高感度地震計、広帯域センサーと短周期センサーを搭載している。2つのセンサーは異なる周波数帯域に調整されている。広帯域センサーは、地球の潮汐力によって引き起こされ、深さ700〜1,100キロメートルからエネルギーが伝わる深発月震を捉える。一方、短周期センサーは、月が徐々に冷えて収縮することで発生する、比較的まれだが構造物への影響が大きい浅発月震を捉える。
アルテミス計画の宇宙飛行士が月の南極付近にLEMSを設置する際には、2つのセンサープローブのうち、一方を溝に、もう一方をレゴリスに掘削した穴に埋める。約10センチメートルの月の土壌で覆うだけでも、極端な表面温度の変動からセンサーを断熱し、散乱によって生じる地震ノイズを低減できる。地上に残る機器スイートプラットフォームは、電力、データ保存、通信、温度制御を担う。機器の科学目標によると、独自のアンテナアレイを使い、毎秒15サンプルの連続地震データを月に1回、NASAのディープスペースネットワークの地上局へ送信する。要求があれば、毎秒100サンプルで記録した完全なデータも利用できる。
■なぜアポロ計画の地震計は南極を観測しなかったのか
アポロ月面実験パッケージ(ALSEP)は1969年から1977年まで稼働し、アポロ12号、14号、15号、16号の着陸地点に地震計ネットワークを展開した。これらの機器は1万3,000件を超える地震イベントを記録し、月の内部構造に関する理解を根本的に変えた。月には分化した地殻とマントル、部分的に溶融した下部マントルがあり、現在も地震活動が続いていることが明らかになったのである。このネットワークは、有名な「鐘のように鳴り響く月」という観測結果も生み出した。アポロ12号の月着陸船を意図的に月面へ衝突させたところ、月は55分以上にわたって振動し続けた。これは地球上の同等の現象よりはるかに長い。乾燥して冷たい月の内部は、水分を多く含む地球の岩石に比べ、地震エネルギーをはるかにゆっくりと吸収するためである。
しかし、アポロの着陸地点はすべて赤道付近の月の表側に集中していた。月の南極高地で稼働した地震計はこれまで一つもない。南極高地は巨大な南極エイトケン盆地の上に位置する地質学的に異なる地域で、地殻はより厚く古いとされ、地震環境はまったく分かっていない。この観測地域の空白は無視できるものではない。南極の観測地点には、アポロの表側ネットワークでは捉えられなかった方向から地震波が到達する。また、高地地域では、アポロの観測記録にほとんど含まれていない種類の月震が発生する。
地質学的な関心だけでなく、工学面でも観測を急ぐ理由がある。Planetary Science Journalに掲載され、宇宙工学分野でも取り上げられた研究は、南極地域に活動中の衝上断層が存在し、そこで発生する浅発月震が月面インフラを損傷する可能性があると指摘した。同研究は「恒久的な前哨基地を準備し、設置場所を決める際には、活動中の衝上断層による強い地震イベントの可能性を考慮すべきである」と結論づけている。月の特殊な内部構造により、極域の地震エネルギーが完全に散逸するまでには、地球では数分のところ、30分から数時間かかる。「タワー、居住施設、その他のインフラにとって、月震は課題となる。特に、月のレゴリスは地球の地盤よりはるかに不安定だからだ」と、エンジニアのVishnu Sanigepalliは、南極の月震リスクを扱った記事で指摘した。「つまり、インフラを長期的に安定させるため、地震活動に耐えられる地形に建設できるよう、設置場所をより厳格に選定しなければならない」。
LEMSは、月の南極におけるこうした疑問に答えられる初の地震観測データを収集することになる。
■プルトニウムなしでマイナス240度の夜をどう生き延びるのか
アポロ計画のALSEP機器は、約14日間続く月の夜を通じて機能を維持するため、放射性同位体熱電発電機に依存していた。これはプルトニウム238を使って電力と廃熱を生み出す装置である。月の夜には、日陰となる場所の表面温度がマイナス240度まで低下する。この方式には、核物質を搭載するロケットの打ち上げ許可、厳格な安全手順、大幅な重量増加、搭載できる機器の制限というコストが伴った。アポロ11号の地震計は原子力ではなく太陽光発電を使用していたため、月の昼の間しか稼働できず、夜が始まる前に停止していた。
LEMSは、この依存を完全に取り除いている。Ethan Burbridge(Vertex Aerospace)とJuan Rodriguez-Ruiz(NASAゴダード)がInternational Conference on Environmental Systemsで発表した2025年の論文によると、LEMSの熱設計は、連携して機能する4つの受動的な仕組みを採用している。
統合多層断熱材(IMLI):従来の多層断熱材で使われるプラスチックメッシュではなく、熱伝導率の低い独自の三脚型スペーサーで、両面にアルミニウムを蒸着したカプトンフィルム18層を分離している。このスペーサーにより、層間の熱伝導による損失はメッシュ生地を使った場合の1,000分の1になる。外層には、着陸船の離陸時に巻き上げられる超高速のレゴリス粒子から機器を守る防護層も設けられている。実効放射率は0.0028未満である。
極低温用同軸ケーブル:アンテナ信号線には、標準的な銅製同軸ケーブルではなく、極低温機器用として調達した白銅製同軸ケーブルを使用する。これにより、アンテナの配線を通じて外部へ逃げる熱を57%削減する。アンテナ配線は二次的な熱損失経路であり、一般的な宇宙機器の設計では見過ごされることも多い。
受動型熱スイッチ:熱膨張率の差を利用して2枚のアルミニウム板を接続、分離する装置である。温度が0度を超える昼間には、2枚の板が接触し、ラジエーターを通じて温度差1度当たり約5ワットの熱を外部へ逃がして過熱を防ぐ。0度を下回る夜間には、2枚の板が物理的に離れる。熱コンダクタンスは温度差1度当たり5ワットから0.002ワットへと約3桁低下し、機器が生み出す廃熱を断熱された筐体内部に閉じ込める。
断熱マウント:機器の筐体は、高強度で熱伝導率の低いポリマーであるULTEM 1000製のスタンドオフに載せられている。これにより、暖かい電子機器とマイナス200度の外部環境を結ぶ熱伝導経路には、金属ではなくプラスチックが介在する。
その結果、4つの経路を合わせた夜間の熱損失は、354時間にわたる月の夜の間、1.528ワットに抑えられる。消費するバッテリー容量は541ワット時で、割り当てられた640ワット時に対して15%の余裕がある。LEMSチームは、初期プロトタイプから飛行用設計に至るまでに熱漏れを61%削減し、バッテリーが尽きるまでの予測時間を月の夜と同程度の長さから17.7日へ延ばした。14.75日間続く夜を越えても、一定の余裕が残る計算である。LEMSは24朔望月、地球時間で約2年間稼働するよう設計されている。
メリーランド大学でLEMSの副主任研究員を務めるNicholas Schmerrは、設計思想を次のように説明している。「内部の電子機器から熱が逃げる経路を減らす、またはなくす方法を構築した。例えば、LEMSの下部に設けたスキッドによって地面から断熱し、外側を複数のサーマルブランケットで覆うことで極端な外気温の影響を抑え、夜間に電力を大量に消費するヒーターを稼働させる必要を減らす計画だ」。
■月面基地のテンプレートとして
LEMSの熱設計が持つ工学的な意義は、この機器だけにとどまらない。NASAの月面基地構想は、月の南極付近に恒久的かつ継続的な有人拠点を設けることを前提としている。この地域では、約2週間続く月の夜は単なる暗闇ではなく、長期間稼働する科学観測ステーションが自力で乗り切らなければならない運用上の条件となる。放射性同位体熱電発電機を使うには、核物質を搭載するロケットの打ち上げ許可、専用の取り扱い施設、複雑な規制上の手続きが必要であり、あらゆる種類の機器が採用できるわけではない。実証済みの受動型熱設計は、こうした障壁を取り除く可能性がある。
NASAの発表も、LEMSを将来の先例として明確に位置づけている。「これらの技術革新は重量と電力の要件を減らし、将来のアルテミス着陸地点やNASA主導の月面基地で継続的に稼働できる、より軽量でエネルギー効率の高い機器への道を開く」。LEMSの主任研究員であるMehdi Bennaは、当初からの狙いを次のように説明している。「LEMSを構想したとき、私たちは次のミッションだけでなく、次世代の月面探査を考えていた。私たちが目指したのは、月のための科学観測ブイを作ることだった。地球の海に浮かぶブイのように、LEMSは製造しやすく、さまざまな科学目的に対応でき、何年にもわたって自律的に稼働できるよう設計されている」。
モジュール式の設計は、この構想に対応している。電力供給、温度制御、データ処理、通信を担う機器スイートプラットフォームには、地震計以外のペイロードも搭載できる。将来、磁力計、大気センサー、揮発性物質検出器などを搭載する場合も、熱制御サブシステムを設計し直すことなく、同じプラットフォームを利用できる可能性がある。南極への設置は、この方式が実際の運用環境で機能することを示す最初の実証となる。
■複数機関の協力によるエンジニアリング成果
LEMSは、5つの組織による共同開発の成果である。メリーランド大学ボルチモア郡校とメリーランド大学カレッジパーク校が科学面の開発を主導し、NASAゴダードが技術面での実装を担当した。アリゾナ大学月惑星研究所は、Silicon Audio Inc.と共同で2つの地震計プローブを提供した。ケンタッキー州のモアヘッド州立大学は通信システムを提供し、LEMSの設置後には地球から機器を運用する。セントルイス・ワシントン大学は、データ処理と科学者へのデータ提供を担当する。
NASA科学ミッション局の探査担当副次長補であるJoel Kearnsは、この節目の意義を次のように説明した。「LEMS科学機器の完成は、月面科学の新たな時代に向けた大きな一歩である。革新的な科学実験が月の秘密を発見、測定、解明し、宇宙飛行士が新たな探査領域を切り開く。その舞台裏では、NASAとパートナーの数多くのチームが月面機器の可能性を押し広げ、将来の探査を可能にし、より安全にするための道具を作っている」。
「wrenches down」の宣言に先立つ5カ月間、LEMSチームは機器に対して一連の厳しい環境試験と運用試験を実施した。打ち上げ時の振動に耐え、月面までの輸送を乗り切り、月の極端な温度と放射線環境で正常に機能できることを確認した。宇宙服を着用した研究者は、NASAジョンソン宇宙センターのActive Response Gravity Offload Systemを使い、LEMSの模型を設置するシミュレーションを実施した。重力を軽減した環境で、実際に近い条件の下、宇宙飛行士による取り扱い手順を練習した。
■今後の展開
LEMSは、NASAが南極への設置ミッションを最終決定するまで、ゴダード宇宙飛行センターのクリーンルームに保管される。NASAの現在のアルテミス計画では、2027年後半を目標とするアルテミスIIIは、SpaceXのStarshipおよびBlue OriginのBlue Moon着陸船とのランデブー、ドッキング手順を検証する有人の地球低軌道試験であり、月面着陸ではない。最初の有人月面着陸は、2028年初頭を目標とするアルテミスIVとされている。月面で宇宙飛行士による設置を必要とするLEMSは、南極地域に最初に到達する有人月面ミッションに割り当てられる予定である。
LEMSは、現在開発中の別の2つのアルテミス用観測機器、Lunar Effects on Agricultural Flora(LEAF)実験とLunar Dielectric Analyzerとともに、宇宙飛行士が船外活動中に設置する機器となる。LEMSは、この3つの中で最初にハードウェア開発を完了した。
LEMSが最終的に月面へ運ばれ、宇宙飛行士が2つの地震計プローブを南極のレゴリスに埋めれば、アポロの観測ネットワークが調査できなかった地質地域で稼働する初の地震計となる。人類が居住を目指す世界の鼓動に、初めて耳を澄ませることになる。
■注目ポイントQ&A
●LEMSは原子力なしで2週間の月の夜をどのように乗り切るのですか?
LEMSは、4つの仕組みを組み合わせた受動型熱設計を採用しています。熱伝導率の低い独自のスペーサーを備えた18層の統合多層断熱材(IMLI)、極低温機器用の同軸アンテナケーブル、温度に応じてラジエーターとの接続を物理的に切り替える熱膨張差式の熱スイッチ、機器を月面から熱的に隔離するULTEM製スタンドオフです。極低温用ケーブルは、標準的な銅製ケーブルと比べ、アンテナ配線からの熱損失を57%削減します。これらを組み合わせることで、354時間の月の夜における熱損失を1.528ワットに抑え、541ワット時の消費量を640ワット時のバッテリー容量内に収め、15%の余裕を確保します。アポロ時代の機器はプルトニウム238を使う放射性同位体熱源によって動作温度を維持していました。LEMSは、放射性熱源を使わずに同様の目的を達成するよう設計された初の月面機器です。
●月震の4つのタイプとは何ですか?また、LEMSはどれを観測しますか?
アポロ計画の地震観測ネットワークは、月震を4つの種類に分類しました。地球の潮汐力によって引き起こされ、繰り返し活動する「震源群」で発生する、地下700〜1,100キロメートルの深発月震、月が冷えて収縮することで発生する、まれながらマグニチュード3以上になる可能性がある浅発月震、表面の岩石が昼夜の温度変化によって伸縮することで起きる熱月震、隕石の衝突です。LEMSの広帯域センサーは深発月震と長周期信号を観測し、短周期センサーは浅発月震、熱月震、衝突による振動を捉えます。浅発月震は南極のインフラにとって主要な工学上の懸念ですが、南極高地でその頻度や規模を直接測定した地震計はこれまでありません。
●なぜ南極の地震観測の空白が月面基地の計画にとって重要なのですか?
Planetary Science Journalに掲載された研究は、NASAが月面基地を計画しているとされる月の南極付近に活動中の衝上断層があり、そこから生じる浅発月震が月面インフラを損傷する可能性があると指摘しています。月では地震エネルギーがゆっくりと散逸します。乾燥して冷たい月の内部には、地球のように振動を減衰させる水分を含んだ岩石がないため、地球では数分で収まる振動が、月では30分から数時間続く可能性があります。居住施設、着陸場、長期間使用する機器の設置場所を選ぶには、南極高地で強い地震イベントがどの程度の頻度で発生するかを把握する必要があります。しかし、現在はそのための観測データがありません。LEMSは初めてそのデータを収集します。
●LEMSは実際にいつ月へ設置されるのですか?
LEMSはハードウェア開発を完了し、アルテミス計画の有人月面ミッションへの割り当てを待っています。NASAの現在の計画では、2027年後半を目標とするアルテミスIIIは地球低軌道でのドッキング試験であり、月面着陸ではありません。最初の有人月面着陸は、2028年初頭を目標とするアルテミスIVとされています。LEMSは宇宙飛行士による設置を必要とするため、南極地域に最初に到達する有人月面ミッションへ搭載される予定です。それまでは、メリーランド州グリーンベルトにあるNASAゴダード宇宙飛行センターのクリーンルームに保管されます。
元記事: NASA Completes Lunar Seismometer: First to Survive South-Pole Night Without Nuclear Heat
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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