テンセントのAIモデル「HY3」がOpenRouterで首位に、無料キャンペーンで開発者が殺到

2026年7月14日 14:31

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記事提供元:Tech Times

テンセント(Tencent)のAIモデル「HY3」が、APIプロバイダーのOpenRouterにおいて週間利用ランキングの首位を獲得した。既存の開発ツールでベースURLを書き換えるだけで、2950億パラメータのモデルを無料で利用できるキャンペーンが開発者の間で話題となっている。しかし、この熱狂の裏には、モデルの実際の動作仕様や、中国法に基づくデータセキュリティ上のリスクなど、導入前に理解しておくべき重要な事実が存在する。

■OpenRouterで何が起きているのか

公開されたデータによると、テンセントの「HY3」モデルは、2026年7月13日までの1週間でOpenRouter上で6兆1300億トークンを処理し、Xiaomiの「MiMo-V2.5」やDeepSeekの「V4 Flash」を抑えて同プラットフォームの週間利用ランキングで首位に立った。この利用量の急増は、大規模な一括導入によるものではない。既存の開発ツールでURLを1行書き換えるだけで、2950億パラメータのモデルを無料で利用できることに、世界中の個人開発者が気づいたためだ。

HY3は、2026年7月6日にテンセントのHyチームから正式版(GA)としてリリースされた。4月下旬に制限付きライセンスでオープンソース化されていた「Hy3 Preview」の完全なアップグレード版にあたる。この正式版はApache License 2.0の下で提供されており、商用利用、改変、再配布、ファインチューニングがロイヤリティフリーで許可されている。プレビュー版で欧州連合(EU)、英国、韓国の開発者を制限していた地理的な除外条項も撤廃された。

OpenRouterは同日、無料ルート「tencent/hy3:free」を開設した。この無料プロモーション期間は2026年7月21日までの2週間とされている。期間終了後の価格は、入力100万トークンあたり0.14ドル(約23円、1ドル=162円換算)、出力100万トークンあたり0.58ドル(約94円、1ドル=162円換算)に設定されている。この無料枠の存在が、世界中の開発者による大量利用を促し、1週間で6兆1300億トークンという記録につながった。

開発者の反応は、特にブラジルやポルトガル語圏のコミュニティで顕著であり、開発者チャットやSNSでは「中国が有料のCodexを終わらせた(A CHINA MATOU O CODEX PAGO)」といった趣旨の書き込みが相次いだ。この表現はやや誇張されているものの、現在の市場のダイナミクスを捉えている。

■1つのAPI標準であらゆるツールに対応

この急速な普及を支える技術的メカニズムは、HY3特有のものではない。OpenAIの「Chat Completions API」が、言語モデルアクセスの事実上の業界標準インターフェースになったことによる結果である。

OpenRouterは、これと同じAPIフォーマットを「https://openrouter.ai/api/v1」で提供している。カスタムベースURLの入力を受け付けるツール(Codex CLI、Cursor、Cline、KiloCode、および主要なVS Code向けコーディングエージェント拡張機能など)であれば、ベースURLとモデルID文字列の2箇所を変更するだけで、接続先をOpenRouterに切り替えられる。OpenRouterのクイックスタートガイドに記載されている通り、APIキーのプレフィックスをOpenAIの「sk-...」からOpenRouterの「sk-or-...」に変更するだけで、リクエストのペイロード自体は同一のまま動作する。

これは非公式な回避策ではなく、互換レイヤーの想定された挙動である。より高性能なモデルがOpenAI API互換を採用するにつれ、有料のコーディング支援ツールを利用するユーザーの移行コストは、設定ファイルを1回編集するだけという極めて低いものになる。HY3がOpenRouterのチャートで首位に立ったことは、この移行摩擦がいかに低くなっているかを示している。

具体的には、「Codex CLI」の場合は「~/.codex/config.toml」の設定ファイルを更新し、プロバイダーをOpenRouterに、モデルを「tencent/hy3:free」に指定する。Cursor、Cline、KiloCodeも同様の設定インターフェースを備えており、ベースURLとモデル名に同じ値を指定する。OpenRouterのガイドに従い、一度「openrouter.ai/keys」で生成したキーは、サポートされているすべてのツールで共通して利用できる。

■2950億パラメータのモデルを低コストで動かせる理由

「2950億パラメータ」という数字はマーケティング上のアピールにすぎない。推論コストやレイテンシを決定し、2週間の無料プロモーションを経済的に成り立たせている実際の数値は「210億」である。これは、任意のトークン処理時に実際にアクティブになるパラメータ数を示している。

HY3は、192個の専門化されたサブネットワーク(エキスパート)で構成される「Mixture-of-Experts(MoE)」アーキテクチャを採用している。リクエストが送信されると、ゲートネットワークが192個のエキスパートから8個を選択してアクティブにし、残りの184個は休止状態のままとなる。そのため、演算処理は2950億全体ではなく、アクティブな210億パラメータの規模で実行される。これにより、計算コストは210億パラメータのデンス(密)モデルと同等に抑えつつ、巨大なパラメータスペースが持つパターン認識能力を活用できる。

ただし、メモリに関するトレードオフは解消されない。どのトークンに対しても任意のエキスパートが選択される可能性があるため、2950億パラメータすべてを常にGPUメモリ上にロードしておく必要がある。テンセントはHY3を、598GBの「BF16」チェックポイントと、300GBの「FP8」量子化バージョンの2つの形式でリリースしている。セルフホストを行うには、最低でも8枚の「H20」クラスのGPU(米国の輸出規制対象外として中国市場向けに構成されたNVIDIA製チップ)が必要となる。

また、HY3には38億パラメータの「マルチトークン予測(MTP)」レイヤーが別途組み込まれている。これは軽量なドラフトモデルとして機能し、複数の候補トークンを同時に提案する。その後、210億のアクティブなメインモデルが、1回の並列フォワードパスでこれらを検証する。ドラフトの採用率が好条件下で70〜80%を超えると、1ステップあたり複数のトークンが生成され、シーケンシャルなエージェントワークロードにおいて約1.5〜1.8倍のスループット向上が得られる。この実装には「EAGLE」投機的デコーディングアルゴリズムが使用されており、vLLMで「--speculative-config.method mtp」を指定することで有効化できる。この高速化は、低バッチかつシーケンシャルなタスクで最も顕著であり、並列処理の負荷が高い環境では効果が減少する。

さらに、3つの推論モード(直接高速応答の「no_think」、軽めの思考連鎖を行う「low」、深い多段階推論を行う「high」)が用意されており、エージェントのオーケストレーターはコストを最適化できる。テンセントのモデルカードによると、一般的な推奨パラメータは「temperature=0.9」「top_p=1.0」とされている。

■ベンチマーク値は独自の検証が必要

テンセントが報告しているHY3のコーディングベンチマークは、「SWE-Bench Verified」で78.0、「SWE-Bench Pro」で57.9、「SWE-Bench Multilingual」で75.8、「Terminal-Bench 2.1」で71.7となっている。また、STEMおよび推論分野では、「GPQA Diamond」で90.4、「USAMO 2026」で72.0と報告されている。

ただし、これらの数値はすべてテンセントによる自己申告値である。モデルカードに記載されている「270名のエキスパートによるブラインド評価」は、テンセントの研究チームが手配・組織した評価者によって実施されたものであり、第三者機関によるものではない。2026年7月13日時点で、「Artificial Analysis」などの独立組織によるHY3正式版の第三者評価は公開されていない。開発チームは、これらの数値をベンダー発表の初期基準として捉え、実際のワークロードを用いて独自に検証を行うべきである。

考慮すべき独立した比較ポイントが2点ある。第1に、VentureBeatなどが報じたテンセント自身のベンチマーク付録によると、Zhipu AIの「GLM-5.2」が、エージェントコーディング評価においてHY3を上回っている(SWE-Bench VerifiedでGLM-5.2が84.2に対しHY3は78.0、Terminal-Benchで81に対し71.7)。GLM-5.2は約400億のアクティブパラメータを使用しており、HY3の210億よりもメモリおよび計算コストが高い分、性能面で優位に立っている。第2に、難度の高い一般推論ベンチマークでは、クローズドな最先端モデルとの間に依然として大きな差がある。「SWE-Bench Pro」において「Claude Opus 4.8」が69.2を記録しているのに対しHY3は57.9であり、「MathArena Apex」では「GPT-5.5」が約85.4であるのに対しHY3の自己申告値は38.7にとどまる。

2026年7月に公開された独立した開発者によるレビューでは、HY3はブラウジングやツール呼び出し、エージェントワークロードにおいて安定して動作すると評価された一方、クリエイティブな出力やゲーム生成タスクにおいては、GLM-5.2やClaude、Opus 4.8と比較して「基本的で不具合が多い」と指摘されている。一方で、オープンソースモデルとしては「Remotion」を用いた動画生成能力が比較的強みであるとされた。無料評価期間は、ベンダーのベンチマーク表に頼るよりも、実際のワークロードでHY3をテストする確実な機会となる。

なお、HY3は画像を処理できない。テキスト入力・テキスト出力のみに対応しているため、視覚的な入力を必要とするワークロードには別のモデルが必要である。

■本番環境のコードを流す前に知っておくべき中国法

Hugging Faceでウェイトが公開されているからといって、中国法におけるテンセントの法的立場が変わるわけではない。Apache 2.0ライセンスは開発者がモデルウェイトをどう扱えるかを規定するものであり、当局からアクセス要請があった際にテンセントのインフラがどう対応すべきかを規定するものではない。

2017年6月に制定され2018年に改正された中国の「国家情報法」第7条は、すべての組織および市民に対し、「法に基づき国家情報活動を支持し、これに協力し、これと協調しなければならない」と定めている。また、第14条は情報機関に対し、そうした協力を求める権限を与えている。さらに、2017年から施行され、2026年1月1日付の改正でAIシステムへの適用が明文化された「サイバーセキュリティ法」は、テンセントを含むネットワーク運営者に対し、セキュリティ検査を行う当局への「技術的インターフェース、暗号解読、その他の技術的支援」の提供を義務付けている。2021年に施行された「データセキュリティ法」および「個人情報保護法」も、政府によるアクセス規定やデータのローカライズ要件を定めており、これらはテンセントのサービスに適用される。

これらの義務は、テンセントが表明しているプライバシーポリシーやApache 2.0のライセンス条項、あるいは個々のサーバーエンドポイントの物理的な所在地に関わらず適用される。これらは中国法の下で事業を行う上での固定された条件であり、テンセントクラウドの「TokenHub」インフラを経由するAPI呼び出しにも適用される。

さらに、米国国防総省(DoD)は2025年1月に、国防授権法(NDAA)第1260H条に基づき、テンセントを中国軍事関連企業(Chinese military companies)に指定した。この指定企業からの直接調達を禁止する措置は、HY3のリリース1ヶ月前である2026年6月30日に発効している。テンセントはこの指定に対して異議を唱え、「軍事企業ではなく、軍民融合の貢献者でもない」と主張しているが、再考の結果は公表されていない。米国政府関連の契約や連邦資金による研究関係を持つチームにとって、この指定は重要なコンプライアンス上の懸念事項となる。

これらの法的な枠組みを考慮すると、HY3の利用経路には重要な違いが生じる。

OpenRouterやNovita AIを介したAPIアクセスの場合、リクエストはこれらのプラットフォームのインフラを経由し、テンセントのサーバーに直接流れるわけではない。これは、リクエストが上記の法的枠組みの対象となるインフラを通過するテンセントクラウドの「TokenHub API」とは異なるリスクプロファイルを持つ。

一方、Hugging Faceからウェイトを取得し、開発者自身のインフラでセルフホストする場合、APIによるデータ転送の露出は完全に排除される。ただし、その代償として、前述した8枚のGPUと300〜598GBのメモリフットプリントが必要となる。これは個人開発者や小規模チームには極めて高いハードルだが、既存のGPUインフラを持つ企業にとっては現実的な選択肢となる。

無料期間中の評価においては、本番環境のコードや機密リポジトリ、規制対象の情報ではなく、テストデータや合成ワークロードを使用することが推奨される。このアーキテクチャであれば、機密情報をさらすことなく、十分な性能評価が可能である。機密データを扱う本番環境への導入を検討する場合は、事前に法的なレビューを行うことが推奨される。

■7月21日までに無料枠を試すべきか

HY3の評価価値が最も高いのは、高度なコーディング能力よりも、長いコンテキストの保持やツール呼び出しの安定性が重視される、検索やツールを多用するエージェントワークロードである。テンセントによると、異なるエージェントフレームワーク(CodeBuddy、Cline、KiloCode)間でのSWE-Bench Verifiedの精度ばらつきは4パーセントポイント以内に収まっている。この汎用性は、特定のエージェントツールに標準化していないチームにとって実用的な特性である。

KiloCodeは、リリース当日にNovitaの支援による計算リソースを用いてHY3を統合し、高い制限枠で利用できる「本番グレードのAIアシスタンス」として無料提供を開始した。Nous Researchも「Nous Portal」での同時無料アクセスを発表している。こうしたエコシステムによる迅速なサポートは、ツールプロバイダーがこのモデルをプレビュー版ではなく本番利用可能なモデルとみなしていることを示している(ただし、彼らの評価もテンセント発表のベンチマークに基づいている)。

複雑で長期的なリファクタリングを伴うリポジトリ規模のコーディングタスクにおいては、GLM-5.2がすべての公開指標でHY3を上回っている。ただし、それにはより多くのGPUメモリと計算コストが必要となる。このワークロードを検証するチームは、無料期間中に両方のモデルをテストすることが推奨される。一方で、大学院レベルのSTEM問題や数学オリンピックのような高度な推論タスクにおいては、HY3とクローズドな最先端モデルとの差は依然として大きい。

OpenRouterの無料枠には、アカウント内のデポジット残高が10ドル未満の場合は1日あたり50リクエスト、10ドル以上の場合は1日あたり1,000リクエストという制限が設けられている。本格的な評価を行う場合は、少額のデポジットを追加することで、有料利用に移行することなく制限を緩和できる。

キャンペーン終了後の価格(入力100万トークンあたり0.14ドル、出力100万トークンあたり0.58ドル)は、最先端モデルと比較して極めて安価である。一般的なトークン比率で1万行のコードベースを分析した場合、約0.011ドル(約1.8円、1ドル=162円換算)で済む計算になる。テンセントが引用したデータによると、プレビュー版のリリース以降、同モデルのトークン消費量は約20倍に増加しており、プロモーション期間終了後も開発者の関心が持続していることが示唆されている。

無料枠の提供は2026年7月21日に終了する。本番環境のワークロードに適用する前に、OpenRouter上で最新の価格設定を確認してほしい。

■注目ポイントQ&A

●テンセントのHY3は本当に無料ですか?また、無料期間はいつまでですか?

OpenRouterの「tencent/hy3:free」ルートを通じて、2026年7月21日まで無料で利用できます。その後は、入力100万トークンあたり0.14ドル、出力100万トークンあたり0.58ドルの通常料金が適用されます。KiloCodeやNous Portalでも無料アクセスが提供されていますが、それぞれのプラットフォームで条件や終了日を確認してください。なお、OpenRouterの残高が10ドル未満のアカウントは1日50リクエストに制限されますが、少額のデポジットを追加することで1日1,000リクエストまで拡張できます。

●「2950億パラメータ、アクティブ210億」とは、性能やコストにおいて何を意味しますか?

2950億という総パラメータ数は、192個のエキスパートネットワークに保存された総容量を指します。実際の推論時には、ゲートネットワークがトークンごとに8個のエキスパートのみをアクティブにするため、計算自体は約210億パラメータの規模で行われます。そのため、推論コストやレイテンシ、トークン単価は210億パラメータ相当に抑えられます。ただし、メモリ上の制約として、2950億パラメータすべてを常にGPUメモリにロードしておく必要があるため、セルフホストには8枚のH20クラスGPUと300〜598GBのVRAMが必要になります。OpenRouterなどのAPIを利用する場合は、このインフラコストはプロバイダー側が負担します。

●OpenRouter経由でHY3に本番環境のコードを送信しても安全ですか?

利用するAPIのホスト先によってリスクが異なります。OpenRouterやNovitaを経由する場合、リクエストはこれらのプラットフォームのサーバーで処理され、テンセントのインフラに直接流れるわけではありません。一方で、テンセントクラウドの「TokenHub API」を直接利用する場合、中国の国家情報法(第7条による情報活動への協力義務)やサイバーセキュリティ法(2026年1月改正でAIを明文化)、データセキュリティ法などの適用対象となります。これらはテンセントのプライバシーポリシーやApache 2.0ライセンスに関わらず適用される義務です。機密データを完全に保護したい場合は、自社インフラでのセルフホストが推奨されます。無料期間中の評価には、本番コードではなくテストデータを使用することをお勧めします。

●実際のコーディング業務において、HY3はClaudeやGLM-5.2と比べてどうですか?

テンセント自身のベンチマーク付録によると、Zhipu AIの「GLM-5.2」がエージェントコーディング評価においてHY3を上回っています(SWE-Bench VerifiedでGLM-5.2が84.2に対しHY3は78.0)。また、SWE-Bench Proでは「Claude Opus 4.8」が69.2を記録しているのに対し、HY3は57.9です。これらはベンダーの自己申告値であり、第三者機関による独立した評価はまだ公開されていません。開発者によるレビューでは、HY3はブラウジングやツール呼び出しにおいて安定しているものの、クリエイティブな表現やゲーム生成ではClaudeやGLM-5.2に劣ると評価されています。無料期間を利用して、実際の業務で検証することをお勧めします。

元記事: Tencent HY3 Tops OpenRouter Charts: Base URL Swap Runs It Free in Codex CLI

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

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