英仏で公共放送の受信料金が廃止方向に向かう中、注目集めるNHKの姿勢!?

2022年5月22日 07:55

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 NHKの受信料問題については、2017年12月の最高裁判決で示された、受信料の支払い義務、受信契約の成立時期、受信料支払い義務の始期、受信料債権消滅時効の起算日などに関する一連の判断で、おおよその決着はついている。

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 放送法64条1項の「協会(NHK)の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」は、受信契約を締結しなければならない。契約の締結はNHKが提訴した裁判の「意思表示を命じる判決確定の日」で、受信機設置日に遡って支払い義務が生じる、ということだ。

 NHKの問題意識は、最高裁の判決という強力な援軍があるにも拘らず、未だに受信料の徴収率が8割を超える程度に止まっていることだ。最高裁判決を根拠に徴収率を向上させることが求められるNHKにとって、受信料未払い者への戸別訪問など、徴収するためのコストはバカにならない。そこでNHKは近年「テレビ設置届出の義務化」を経営改革に向けた制度改正に含めるように運動を続けている。

 ところが皮肉なことに、情報通信技術の進化によって個人が選択できる情報の窓口は大幅に拡大した。NHKどころか、テレビ自体の存在感が低下を続けていることを象徴しているのが、大手ディスカウントストアのドン・キホーテが21年12月に販売を始めた「ネット動画専用スマートTV」だ。テレビチューナーが搭載されていないため、放送法が規定する受信設備には該当しないから、NHKの広報局も「受信契約不要」を認めている。

 そんな時期に海外の公共放送受信料に関わる大きな動きが報じられている。

 22年1月、イギリスのドリス文化相はツイッターで、BBC(イギリス放送協会)の放送受信料金を見直す考えを示した。ドリス文化相のメッセージは、4月28日に英政府が公表した放送政策に関する白書に、「BBC受信料の一律徴収廃止」として具体化した。

 BBCは日本のNHKに相当する公共放送を担い、開局して100年の歴史を刻んでいる。開局当時から視聴世帯に一定金額の「テレビ・ライセンス料」(NHKの放送受信料に相当)を徴収して業務を遂行してきた。現在の受信料金は年154.50ポンド(5月18日1ポンド158.26円で換算すると2万4511円)になる。

 BBCは、約10年毎に更新される「王立憲章(ロイヤル・チャーター)」で存立が認められている。現行の王立憲章は2017年から2027年12月まで有効だが、既に英政府とBBCは受信料制度を中間見直しすることで合意済みだ。折り返しの2022年に方向性を打ち出して、「一律」徴収廃止の内容を詰める作業が始まった。

 仏紙フィガロは、11日の仏閣僚評議会で、公共放送の受信料を2022年から廃止する方針が決められたと報じている。4月の大統領選で再選したマクロン大統領が、国民に約束した選挙公約だった。

 フランスでは今まで、公共放送の受信料が住民税とともに徴収され、年間30億ユーロ(約4000憶円)の受信料は「フランス・テレビジョン」を始めとする合計3社の公共放送に配分されていた。ところが、2023年から住民税の撤廃が決定していたため、受信料を単独で徴収することの是非が論議されていた。

 受信料が廃止された後も3社は公共放送としての立場は変わらず、国家の予算で運営される。フランス国民は年1万9000円程の受信料から解放されることになった。

 NHKが誕生した時にモデルになったというのが英BBCだ。そのBBCには100年の歴史に転換の機運が生まれ、隣国のフランスでは公共放送の受信料の廃止が決った。

 イギリスやフランスが公共放送の受信料を廃止する方向に進んでいる時代に、受信料徴収方針を変えずにより効率化しようとしているNHKの考え方は、非常に示唆に富んだものになることだろう。この機会に、看板番組の「クローズアップ現代プラス」辺りで周知するような意気込みがあれば、受信料問題に関するNHKへの風圧にも変化が生じるのではないかと思う。

 反面、イギリスとフランスで起きた公共放送の受信料に関する大きな変化を、マスコミ全般の報道が、非常に控えめだということに感じる違和感は拭えない。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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