日米会談やG7等で台湾海峡危機が議論、習近平の野望とは?(元統合幕僚長の岩崎氏)(1)

2021年6月24日 09:27

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記事提供元:フィスコ


*09:27JST 日米会談やG7等で台湾海峡危機が議論、習近平の野望とは?(元統合幕僚長の岩崎氏)(1)
2021年3月の日米外務・防衛相会談(所謂「2+2」)に続き、翌月の4月には菅総理大臣とバイデン大統領との日米首脳会談が行われた。両会談とも中国に対する日米両国の認識が一致し、台湾海峡危機が議論され、52年ぶりに日米共同声明で「台湾」の二文字が明記された。また、6月に英国で行われたG7においても、参加国に若干の認識にズレがあったものの、中国のウイグル等での人権問題、香港問題、台湾海峡の緊張等が議論され、こちらも共同声明に初めて「台湾」が記載された。この様に、最近の中国の「力による一方的現状変更」、「一帯一路」経済圏構想、そして台湾に対する各種ハラスメント等々が各国から問題視され、議論され始めている。今回は今後の中国情勢、特に習近平主席の今後の狙いと、台湾に対しどのようなアプローチをするのかにつて述べてみたい。

「危機管理」の基本は、最悪の事態を想定し、備えることである。この「危機管理」は個人にとっても、組織にとっても、あるいは国家にとっても非常に大切な能力・機能である。起こりうる全ての事態を考え、事前に計画を立て、対策・処置を行うとともに、計画に沿った訓練を行い、対応能力を上げておくことが極めて重要である。しかし、持てる資源(人、物、金等)には限りがあり、必要な全てのものを事前に揃える事や準備する事は困難である。殆どの場合には、制限された中での対応にならざるを得ない。そこで、「どこを、何を優先すべきか」、つまり「優先度」が重要となる。この「優先度」を決める場合、相手方の目的(意図)能力・特性等を見極めることがカギとなる。そして、相手方の取り得る行動案を考え、「採用可能性が最も高い案は何か」、「次に高い案は何か」、また「必ずしも採用される可能性が高くない案でも、我が方の被害が甚大となる案とは何か」等々を考慮しながら、計画を立案し、準備しておくことが危機管理の基本である。

さて、習近平の台湾に対しての可能行動案であるが、習近平は、これまで事ある毎に「香港、ウイグル、台湾は、中国の核心的利益」と発言してきている。この「核心的利益」と言われる地域とは、「本来、我が国(中国)が直接統治している(すべき)地域であるものの、必ずしも現在の中国政府の影響力(法律等)が及ばない、又は及び難い地域等」と解すことが出来る。習近平は2012年11月15日、胡錦涛総書記から引き継ぎ、中華人民共和国(中国)最高指導者及び中国共産党中央委員会総書記・中国共産党中央軍事委員会主席に就任し、翌年3月14日、中国国家主席・国家中央軍事委員会主席となり、現在に至っている。その習近平の最終的な目標は何だろうか、そして最終ゴールはどこにあるのだろうかということを思うに、私は、これまでの習近平の言動をからして、彼の最終ゴールは、毛沢東に追いつくこと、そして超えることではないかと考えている。その為には何が必要であろうか。私は、「中国の核心的利益である地域を中国政府の完全な統治下に置くこと」であると考えている。極めて尊大な野望である。習近平は、中国政府の指導者となり、第二期目の終盤にさしかかっているが、これまでに、(1)2017年に共産党規約へ習近平思想を明記し、国民に対して習近平を崇拝することを奨励し始め、(2)2018年に国家主席等の在任期間制限(二期十年)を撤廃し、(3)力(軍・警察)によって新疆ウイグル地区を完璧な支配下に置き、香港で新法を制定して中央政府の統治下に置いた。特に(3)は「中国の核心的利益」で、これを手中に入れたことは大きな手柄であり、習近平の三期目(2022年~)への布石となったと考えられる。昨年の全人代では、次期(2022年以降)総書記・主席候補者に係る議論が一切行われなかった。これは、即ち2022年以降も習近平が総書記・国家及び共産党主席等に居座ることを意味する。習近平の第三期目であり、毛沢東よりも長期政権として居座ることがほぼ確定したのである。

香港は、第1次アヘン戦争及び第2次アヘン戦争を経て、1898年の「香港専条」により、英国が99年間租借していた地域であった。この香港が租借期限である1997年7月1日、予定通り中国に返還された。この返還の際、以降50年(~2047年)にわたって香港では、これまでどおり資本主義を続けることが約束されていた。所謂「一國二制度」である。この約束によれば、中国が香港を完全な社会主義制度に取り戻すことが出来るのは2047年とされていた。ところが習近平は2019年以降、香港に対する締め付けを強化し、この二年間で香港に適用される新しい法律を制定、香港をほぼ統治することに成功したのである。この様な事から、誰も習近平の第三期目(2022-2027年)に反対する事が出来なかったのではなかろうか。いくら在任期間制限が無くなったと雖も、自動的にポストに居座ることが出来る訳ではない。中には口には出さずとも「次は私が・・・」と考えている人もいただろう。任期延長の為には、少なくても中国共産党や政府の主要幹部が容認し、多くの中国国民が納得できる「手柄」が必要である。

第三期目就任を確実にした習近平の次の狙いは、四期目への移行であろう。ただ、その為には「何らかの手柄」が必要である。それは、中国共産党及び中国国民の長年の悲願である「台湾統一」ではないか。私は、習近平の野望は「毛沢東を越える事」と申し上げた。あの毛沢東でさえ、台湾統一が出来なかった。大東亜戦争終了後、中国では中国国民党と中国共産党が反目して内戦状態に入った。最終的には中国共産党によって1949年に中華人民共和国が樹立され、国民党側であった蒋介石軍は1949年12月に台湾へ逃れることになった。海軍力に勝る蒋介石軍は当初、台湾本島及び上海近くの舟山諸島から広東省の海南島に至る島々を支配下に置いていたが、その後、大陸側の中華人民共和国軍が勢いを増し、1950年には舟山諸島と海南島を制圧、1955年には大陳島を激戦の末に奪取し、徐々に勢力を拡大していった。その結果、蒋介石軍(国民党)は、台湾本島・澎湖諸島・金門島・馬祖列島の台湾周辺のみ占有する状況になった。そして、毛沢東(中共軍)は1958年、金門・馬祖列島を奪取すべく、この地の殆ど全てが砲弾で埋まるくらいの激烈な砲撃を加えた。しかし、蒋介石軍の執拗な抵抗を受け、最終的には台湾侵攻を諦めざるを得なくなった。毛沢東は、金門島・馬祖列島の奪取に失敗したのである。以降、中国は、たった1.9km沖に存在する金門島及び馬祖列島を支配出来ていないでいる。もし、「台湾統一」が出来れば、習近平は、完全に毛沢東を超える事が出来るのである。

「日米会談やG7等で台湾海峡危機が議論、習近平の野望とは?(元統合幕僚長の岩崎氏)(2)」へ続く。


岩崎茂(いわさき・しげる)
1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。

写真:AP/アフロ《RS》

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