ハッブル宇宙望遠鏡が捉えたアカエイ星雲の前例のない退色 NASA

2020年12月4日 09:13

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アカエイ星雲の退色 (c) NASA, ESA, B. Balick (University of Washington), M. Guerrero (Instituto de Astrofísica de Andalucía), and G. Ramos-Larios (Universidad de Guadalajara)

アカエイ星雲の退色 (c) NASA, ESA, B. Balick (University of Washington), M. Guerrero (Instituto de Astrofísica de Andalucía), and G. Ramos-Larios (Universidad de Guadalajara)[写真拡大]

 ハッブル宇宙望遠鏡が打ち上げられたのは1990年4月24日のことであり、すでに30年以上の歳月が経過し、膨大な観測データが蓄積されている。またハッブル宇宙望遠鏡は打ち上げ直前、鏡面周辺にごくわずかな歪み(設計値に対して2ミクロン)があることが判明し、設計上の分解能の5%しか能力が発揮できないことも明らかにされていた。とはいえ観測の弊害となる大気の影響を受けない宇宙空間において、口径2.4mの大口径望遠鏡の威力は地上の大望遠鏡にも勝る能力を有していたことは、紛れもない事実である。

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 この偉大な望遠鏡が蓄積してきたデータの中から、非常に珍しく貴重な惑星状星雲のごく短期間での退色現象に関する情報が、NASAからもたらされた。NASAのホームページで公表された1996年と2016年にハッブル宇宙望遠鏡によって撮影されたアカエイ星雲と呼ばれる星雲Hen 3-1357の比較画像は、この20年と言う非常に短い期間に惑星状星雲を構成するガスが急激に衰退していた事実を鮮明に表している。

 惑星状星雲とは、恒星がその一生を終える際に赤色巨星化し、そのあと超新星爆発を起こさなかった場合に放出されたガスが中心星によって照らされているものを指す。惑星状星雲のこのようなダイナミックな変化がリアルタイムで目撃できたことは非常に珍しく、幸運なことであると言う。

 また今回アカエイ星雲では、中心星SAO 244567から窒素、水素、酸素が放出されている状況の変化がリアルに捉えられたわけだが、特に酸素の放出量が1996年に比べて2016年には1000分の1に低下していることが判明している。

 このような惑星状星雲のガス状態の変化を鮮明に捉えた事例は、地上のどんな大望遠鏡でも前例がなく、ハッブル宇宙望遠鏡でなければ実現できなかったことである。

 また中心星SAO 244567は、1971年から2002年にかけての観測で温度が急激に上昇したことが確認されている。これはこの星の中心でヘリウムの核融合反応が始まったためであると考えられているが、1996年から2016年にかけて確認されたガスの退色は、中心星の温度が低下し始めていることを物語っている。

 アカエイ星雲が今後どんな変化を起こしていくかは、科学者たちにも予測がつかないと言うが、今まさにSAO 244567の死後のプロセスをリアルタイムで観測できる幸運に、人類は恵まれているのだ。(記事:cedar3・記事一覧を見る

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