20年にわたる「VERAプロジェクト」の研究成果を発表 国立天文台ら

2020年11月29日 07:56

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VERAを含む観測により作成された、天の川銀河と太陽系との位置関係を示した図 (c) 国立天文台

VERAを含む観測により作成された、天の川銀河と太陽系との位置関係を示した図 (c) 国立天文台[写真拡大]

 国立天文台水沢VLBI観測所らの研究チームは、天の川銀河の3次元立体地図を作成する「VERAプロジェクト」による観測成果をまとめた10本の論文を、日本天文学会欧文研究報告で発表した。

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■直径2300キロメートル相当の「仮想」望遠鏡

 国立天文台や鹿児島大学が主導したVERAプロジェクトでは、岩手県奥州市、鹿児島県薩摩川内市、東京都小笠原村、沖縄県石垣市の4カ所に、直径20メートルの電波望遠鏡を設置。遠方の4基の電波望遠鏡により直径2,300キロメートルの「仮想」望遠鏡を実現し、超長基線電波干渉計(VLBI、Very Long Baseline Interferometer)を構成、観測を実施してきた。

 これにより高い解像度の観測が可能になり、天の川銀河の3次元立体構造や、星の形成や進化、銀河の中心にある超大質量ブラックホールや超高速ジェットの研究が実現する。

 VERAプロジェクトの目的は、「位置天文観測」と呼ばれる天体までの距離や運動を精密に計測することだ。同プロジェクトにより集められた20年にも及ぶデータを精確かつ迅速に処理するために、専用のソフトウェア「VEDA(ベーダ)」が開発された。これにより解析の自動化が実現したという。

■ダークマターの存在を肯定する証拠も

 今回発表された論文の中で、VERAプロジェクトで観測した99個の天体がまとめられている。内21個の天体は今回の論文で初めて公開されるという。

 また、天の川銀河の中心かららせんを描くように「腕」が複数伸びている様子も論文内で取り上げられており、それによるとほかの銀河と同様に外側の天体はほぼ一定の速度での移動を保つ。これは天の川銀河の外側にダークマター(暗黒物質)が存在することを肯定する証拠だという。

 従来の基本尺度の改訂を促す研究結果も報告されている。VERAプロジェクトにより、太陽系から銀河の中心までの距離は25,800光年前後と判明した。この数値は、1985年に国際天文学連合が定めた推奨値の約27,700光年よりも小さい。

■近隣諸国と協力し高精度な天体位置観測を可能に

 VERAプロジェクトは今後、人工衛星と協力して位置天文観測を実施し、高精度な観測を実現する予定だ。中国や韓国などに設置された電波望遠鏡とも協力することで「東アジアVLBI観測網」を構築し、より高精度な天体位置観測を目指すとしている。(記事:角野未智・記事一覧を見る

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