いちご Research Memo(4):主力の心築事業では不動産価値向上ノウハウが強み

2020年5月28日 15:04

印刷

記事提供元:フィスコ


*15:04JST いちご Research Memo(4):主力の心築事業では不動産価値向上ノウハウが強み
■事業概要

1. アセットマネジメント事業:特徴とトピック
当該事業セグメントは、いちごオフィスリート投資法人(2005年10月上場)、いちごホテルリート投資法人(2015年11月上場)及びいちごグリーンインフラ投資法人(2016年12月上場)などのいちご<2337>がスポンサーを務める上場投資法人に対し、投資対象資産の発掘及び供給による成長支援、運用期間中の運用・管理などを展開している。

いちごオフィスリート投資法人は運用資産残高の増加や保有不動産の価値向上による賃料収入の増加などにより、J-REIT最長の18期連続増配の実績を持つ(2010年4月期−2019年4月期)。安定的かつ収益成長が見込める中規模オフィスに特化したポートフォリオに特徴がある。2019年12月には、世界の上場不動産株式、REITなどで構成され、世界中の機関投資家が指標とするグローバルインデックスファンド「FTSE EPRA / NAREIT Global Real Estate Index Series」に組み入れられた。2020年2月末日の運用資産は85物件、残高2,032億円、2020年2月期の期中運用フィー粗利1,436百万円(前期比10百万円増)となった。いちごホテルリート投資法人は2015年11月に上場し、その後も運用資産残高を増やしている。ビジネス・観光に優位性のある好立地の宿泊主体・特化型ホテルで構成されるホテル特化型J-REITで、グループの資産運用会社に対する報酬体系を、投資主価値向上に連動するJ-REIT初の完全成果報酬へ移行するなど、積極的な運用を行っている。2020年2月末日の運用資産は23ホテル(上場時は9ホテル)、2020年2月期の期中運用フィー粗利381百万円(前期比80百万円減)となった。いちごグリーンインフラ投資法人は2016年12月に東証インフラ市場に新規上場を果たした、グリーンインフラ特化型投資法人である。長期にわたる安定収益を背景に、史上初となる10ヶ年の長期業績予想を行う。2020年2月末日の運用資産は15発電所、残高は114億円、2020年2月期の期中運用フィー粗利82百万円(前期比3百万円減)となった。

同社はスポンサーとして各投資法人の成長サポートを担う。同社が心築を施した物件と各投資法人の保有する物件の入替を行うなど、スポンサー(同社)と各投資法人が連携することで、グループ全体として株主価値を向上させ、安定収益を生み出せるシステムが同社の総合力である。

2020年2月期は、いちごホテルにおける物件売却益の成果報酬やベース運用フィーが堅調に推移したことなどによりセグメント売上高は3,949百万円(前期比14.2%増)、セグメント利益は2,526百万円(同15.1%増)となった。

2. 心築(しんちく)事業:特徴とトピック
心築事業は同社事業の柱であり、不動産価値向上ノウハウは同社のコアコンピタンスである。心築という言葉は同社の造語であり、「心で築く、心を築く」の信条の下、同社の技術とノウハウを活用し、1つ1つの不動産に心を込めた丁寧な価値向上を図り、現存不動産に新しい価値を創造することを言う。

心築事業は、保有不動産の賃貸収益(ストック)と譲渡収益(フロー)の両面がある。賃貸収益(ストック)は自己保有資産242,321百万円(2020年2月末)から生み出され、2020年2月期の粗利ベース収益は11,940百万円(前期比927百万円減)だった。保有資産の特徴は、物件タイプとしては商業施設(29%)、オフィス(26%)、ホテル(23%)、レジデンス(16%)の順に多く、地域別には東京(54%)が多く、福岡(21%)と東京以外首都圏(11%)が続く。また物件規模では、10~50億円未満の中規模物件が46%と多く、いちごオーナーズが対象とする10億円未満の物件も20%と一定割合を占める。一方の譲渡収益(フロー)は2020年2月期も順調に伸び、粗利ベース収益で17,158百万円(前期比2,265百万円増)となった。

心築事業の成功のカギは良質な物件の取得である。2020年2月期累計では58物件、63,048百万円(平均1,087百万円/物件)の資産が取得された。2019年2月期累計が40物件、50,840百万円(平均1,271百万円/物件)だったのと比較すると、総額が増加し、案件規模が小型化した。いちごオーナーズでの取得が28,518百万円と全体の45%に達したことからも、取得物件の小型化の傾向がわかる。取得物件種類で多かったのはレジデンスであり、31,330百万円と全体の50%に達した。また、売却物件種類のなかでもレジデンスは26,477百万円と最大であり、構成比で44%と高かった。売却との差額(取得-売却)では、ホテルの売り越しが5,564百万円と大きく、レジデンスの買い越しが4,853百万円と大きかった。多様な物件ポートフォリオを持つ点が同社の特徴であるが、より小型に、よりレジデンスの比率が高くなる傾向にある。

含み益(鑑定ベース価格−簿価)は、2016年2月期の28,056百万円から2020年2月期の56,221百万円まで一貫して増加してきた。物件の売買により中身が回転するなかで、この数字から確認できる点としては、不動産マーケットが活況を呈するなかで継続的に資産を取得できていること、同社が“高値掴み”をしていないこと、また心築により物件の価値を高めていることなどである。また、期中売却物件の含み益が約6,100百万円に対して、実際の売上総利益が17,158百万円という結果から、鑑定評価額以上の価格で効果的な売却ができており含み益を超えた売却益を享受できていることが確認できる。

3. クリーンエネルギー事業:特徴とトピック
クリーンエネルギー事業は2012年に開始され、全国64ヶ所の太陽光、風力発電所プロジェクトをグループで開発及び運営するまでに成長した。2020年2月時点で同社が保有する発電所のうち売電開始済が45ヶ所、136.28MW(うち、いちごグリーンインフラ投資法人は15発電所、29.43MW)、開発中の発電所が18ヶ所、48.56MWである。2020年2月期は5発電所、23.21MWが稼働開始した。

同社のクリーンエネルギー事業の特徴は、1)遊休地の不動産の有効活用を図ること、2)北海道から九州・沖縄まで全国に分散していること、3)固定買取価格制度の下20年間の安定した収益が保証されており、36円以上の買取価格が過半であること、4)2MW以下のものから関東最大級の43MW(いちご昭和村生越ECO発電所)まであること、などである。2016年2月期決算で黒字転換して以来、安定収益を生んでいる。今後も発電所の開発を強化し、3年後の2023年2月期には176.9MW(2020年2月期の1.66倍)にする開発計画がある。今後は太陽光発電以外に風力発電の発電所などを含めて電力源の多様化を行われる点も注目だ。

2020年2月期は、2019年7月から8月にかけて例年より日照不足が続いたものの、2019年2月期に竣工した発電所の売電収入が寄与したことなどによりセグメント売上高は3,796百万円(前期比4.0%増)となった。発電所の減価償却費の増加などにより、セグメント利益は1,272百万円(同6.7%減)となった。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田秀夫)《EY》

関連記事