「相転移」の利用で三次電池が高電圧化、IoT社会の電源へ 筑波大の研究

2020年2月7日 07:13

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相転移を活用した三次電池の昇温過程(左図)と放電過程(右図)。白丸と赤丸は、1回目と2回目のデータ。放電過程の下限電圧は80mVに設定している。(画像: 筑波大学の発表資料より)

相転移を活用した三次電池の昇温過程(左図)と放電過程(右図)。白丸と赤丸は、1回目と2回目のデータ。放電過程の下限電圧は80mVに設定している。(画像: 筑波大学の発表資料より)[写真拡大]

 「三次電池」は、どこにもあるような室温の熱によって充電される電池で、交換や管理が不要な電源として大きな期待を集めている。しかし、これまで研究されてきた三次電池は起電力があまりにも小さく実用化には遠いとされてきた。

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 筑波大学の研究グループは6日、相転移と呼ばれる現象を利用した高電圧の三次電池の開発に成功したと発表した。これまでの三次電池の起電力が39ミリボルトであったのが、120ミリボルトまで起電力を上げることができた。

 三次電池は周囲の温度変化によって自立的に電力を貯め、設置場所も選ばないという特徴を有している。そのため、これからのIoT社会において求められるセンサーの電源として期待を集めてきた。

 筑波大学の研究グループがこれまで作製に成功した三次電池の起電力は、39ミリボルトであった。そのため、単独でセンサーなどの機器を作動させるためにはあまりにも起電力が低く、実用化は現実的とは言えなかった。

 そこで研究グループは、室温で相転移を起こす材料を三次電池の材料に使用することを考案した。相転移とは、例えば水と水蒸気のように、同じ物質が温度の変化によって大きく性質を変える現象のことである。相転移によって酸化還元電位も変化するため、三次電池に応用することで起電力が大幅に増大するのではないかと考えたのだ。

 その結果、これまでの3倍となる120ミリボルト程度の起電力を得ることに成功した。用いられたのはコバルトプルシャンブルーと呼ばれる無機物質である。コバルトペルシャンブルーは組成によって相転移の有無が変わるため、細かい制御が必要な材料である。今回の成果は、原子レベルの物質の性質理解なしには成しえなかったものである。

 このように、相転移を三次電池に活用することで大きな起電力を得ることができ、実用化に近づいたといえる。さらに最適な組成や構造の相転移材料を設計、開発することによって三次電池が社会実装されることも期待される。

 今回の研究成果は4日付のScientific Reports誌オンライン版にて掲載されている。

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