広島大など、黒リンで電子のたたき上げ現象を観測 超高速通信デバイスに期待

2018年6月18日 11:34

印刷

時間・角度分解光電子分光の模式図。(画像:広島大学発表資料より)

時間・角度分解光電子分光の模式図。(画像:広島大学発表資料より)[写真拡大]

 黒リンが次世代の超高速光通信デバイスのキーマテリアルの一つとなった。黒リンというのは窒素族の元素の一つであるが、これに近赤外光パルスを照射すると、「電子のたたき上げ」が起こり、それがナノ秒(10億分の1秒)近く持続することが世界で初めて明らかにされた。広島大学大学院理学研究科・創発的物性物理研究拠点ヌルママト・ムニサ研究員、木村昭夫教授、東京大学物性研究所極限コヒーレント光科学研究センター石田行章助教、辛埴教授、兵庫県立大学大学院物質理学研究科赤浜裕一教授らを中心とする研究グループによるものだ。

【こちらも】新たな二次元状物質、黒リンの大量生産に道

 近年の電子・光学デバイス材料として注目を浴びているのは、2次元単原子層結晶である。特に、炭素原子一層からなるグラフェンは、曲げやすくて壊れにくいこと、みかけの質量がゼロであるディラック電子を有する点などから有望と見られ、研究が進められている。

 グラフェンが優れているのは、不純物や欠陥をものともせずに動き回り続けるディラック電子の性質によるものである。故に室温付近でも高い電子移動度を示すので、次世代デバイスの最有力候補とされている。

 ただ、グラフェンには電子の伝導性を外部から制御して信号のオン・オフ比を大きくすることが難しい、という難点があった。

 これに比較して、黒リンはいくつかのグラフェンに対しての優位性を持っている。それは、ディラック電子の要素を持ちつつも、信号のオン・オフ比を高く取ることができるということ。そして、光通信で求められる光の波長にちょうど近い0.3電子ボルトの波長を持つことである。

 黒リンは古くから知られている物質ではあるが、以上のように、最近になって脚光を浴びるようになっていた。本研究は、黒リンが実際に光通信デバイスなどに実用化することができるかどうかの検証を行う研究であった。結果としては、期待感は高そうである。

 なお、研究の詳細は、Scientific Reportsに掲載されている。(記事:藤沢文太・記事一覧を見る

関連キーワード

関連記事