スバル国交省への報告書(5) スバルの言い分(4) 原因は「規範意識の欠如」

2018年5月10日 22:10

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(3)原因は、規範意識の欠如、教育不足、コミュニケーション不足などであった。
 スバルの報告書では、原因について常識的な項目を上げているが、それがどうして起きたのかの追及はしていない。例えば「規範意識の欠如」について認めているが、その原因は「教育、コミュニケーション不足など」となってしまい、論理が循環してしまう。原因究明になっていない。

【前回は】スバル国交省への報告書(4) スバルの言い分(3) 「実際の不良はなかった」

報告書P41
“上記完成検査業務の重要性に鑑み、当社としては、いかなる理由があれデータを変更してはいけないという規範意識を醸成する教育を燃費・排出ガス測定業務に関係する全ての者に対して繰り返し行うべきであった”
報告書P41
“このように教育が不足していたことが、測定担当者の燃費・排出ガス測定に関する知識が不十分となり、不適正な測定業務が行われることとなった原因の一つとなったと考えられる”

 真の原因を突き詰めるには、品質管理の行動上の手本である『なぜ?を5回繰り返せ』の鉄則の内、『なぜは?は1回しか繰り返されなかった』と言える状態で、とても「行動科学・品質管理の専門家」とは言えない。報告書は、スバルの契約弁護士の立場で書かれていると見える。これではむしろ、『スバルには品質管理の専門家はいないのか?』と疑問に感じてしまう。もし、「なぜ?」ともう一回繰り返していれば、「教育が不足し、コミュニケーション不足が、なぜ起きているのか?」となるはずだ。この問いに対して答えるには、管理職・経営者の責任に触れないわけにはいくまい。そうしなければ「再発防止もできない」ことが分かるはずだ。「何か?」そこにごまかしが存在している。それは法的立場が優先しているのであろう。

(4)再発防止策は、マニュアル整備、係長増員、教育充実などを通じて、コンプライアンス、ガバナンスを強化する。
 コンプライアンスについては、弁護士に対処を任せてしまうと、このように『ガバナンスの強化』としかならないことが起こりえる。この報告書が主張する再発防止策、ひいては品質保証体制で、数万人の企業での品質保証が成り立つとでも言うのであろうか。あまりにも自動車生産企業の経営者としては情けない。当然だが、弁護士は『組織作り・組織運用には疎い』のが通常だ。特に、組織運用について「概念」を持つ弁護士に私は出会っていない。彼らの専門外だ。これは致し方のないことであるが、『専門と大局を混同する』ことは、企業経営者には許されない。

報告書P45
“第5 再発防止策”をご覧ください。

 品質保証においては、『造る体制そのものを整えないと、不良は出始める』と考えることだ。まずは、経営陣の姿勢が「正しい」ことが基本だ。“正しい会社をつくる”と、この報告書でスバルは声高に宣言しているが、その『実行技術を持たない』ことが、今回のこの報告書からも明らかになっているのだ。それが最大の問題であり、この報告書だけから見れば、『無責任、無能』としか言いようがない。法廷闘争を演じる弁護士の役割からすればこれで良いと思われるが、企業経営者としてはすこぶる不満だ。

 再発防止には、『組織の改編・組織運用』が極めて重要だ。『ガバナンスの強化だけでは逆効果の場合』すらある。これには「品質管理」の専門家を社外から招いてでも立て直すべきだ。この作業には少なくとも数年が必要であろう。多くは、このような企業体質となっている場合には、経営者・管理者の入れ替えが必要になる。ハード・ソフトの改良は当然としても「注意・教育・話し合い」程度では解決できない。覚悟が必要な改善だ。現在の企業業績は大変良くても、長期的視野に立てば「トヨタと合併して品質保証の技術的指導を受けるぐらい」の覚悟は必要だ。これは比喩だが・・・

 次は、世界中で起きている社会の根本的危機、すなわち「品質低下は気にしない」を検証してみよう。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

続きは: スバル国交省への報告書(6) 品質低下は気にしないで開発速度を高めろ!?

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