【柔道】グランドスラムエカテリンブルク総括 世界選手権に向けて弾み

2017年5月24日 08:01

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 柔道のグランドスラム(GDS)エカテリングルク大会が20、21日に行われ、日本からは男女各5階級に合計10選手が出場。男女各3階級、計6階級で優勝を飾った。

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 今大会が世界選手権の前哨戦の位置づけとなった選手がいれば、来年以降の世界選手権、東京五輪に向けてアピールする機会を与えられた選手もおり、立ち位置は違うものの、それぞれの戦いが見られた。

 ここでは、全体と個々の総括を行っていく。

■9階級のうち6階級で優勝


 派遣された10選手のうち、世界選手権100キロ級代表のウルフ・アロン(東海大)が右胸鎖関節亜脱臼により欠場したため、男子4階級4名、女子は5階級5名の計9選手が出場。

 男子は90キロ級の長澤憲大(パーク24)、73キロ級の橋本荘市(パーク24)、60キロ級の永山竜樹(東海大)の3名が優勝。女子は78キロ超級の朝比奈沙羅(東海大)、78キロ級の梅木真美(ALSOK)、48キロ級の近藤亜美(三井住友海上)の3名が優勝した。

■世界選手権優勝に向け弾みがつく勝利


 8月末~9月にかけて行われる世界柔道選手権(ハンガリー・ブダペスト)に出場する選手は、欠場したウルフを除いて5名。代表組は全員優勝し、世界選手権に向けて弾みをつけた。

 特に内容が良かったのは橋本と永山の2人。橋本は初戦こそゴールデンスコアの指導による優勢勝ちだったものの、決勝までは得意技の袖釣込腰を温存して勝ち上がってきた。

 決勝では、袖釣込腰で一本勝ち。これまではリオ五輪金の大野将平(旭化成)の影に隠れていたが、大野の欠場によって世界選手権のチャンスを掴んだ。東海大学時代はなかなか結果を出せなかったものの、社会人になって頭角を現した遅咲きの選手。

 今大会の勝利でIJF世界ランクも1位に上昇。東京五輪を目指し、世界選手権でも大暴れする。

 永山は初めての国際大会となった2月のGDSパリでは2回戦敗退に終わり、今大会は雪辱を期しての試合。初戦から好調で投技に切れ味を見せて、5試合のうち4試合で一本勝ちを収めた。

 身長は158センチと60キロ級の中でも小柄な部類に入る。しかし、腕力が強く潜り込むようにして掛ける一本背負投や内股に一発の威力を秘める好選手。

 昨年11月の講道館杯で優勝すると、12月のGDS東京では大学の先輩に当たる高藤直寿(パーク24)に内股で一本勝ち、4月の全日本選抜体重別でも小外刈で一本勝ちして存在感を示した。

 女子の朝比奈は国際大会でGDS東京、パリ、エカテリンブルクと3連勝を飾り、講道館杯以降外国人選手に対して負けなしで来ている。

 梅木も強敵との対戦こそないものの、いい内容で優勝を飾った。78キロ級は強敵も多く苦戦が予想されるが、初戦敗退に終わったリオ五輪の雪辱を期してもらいたい。

 近藤はリオ五輪後、渡名喜風南(帝京大学)に敗れるなど不安定な部分も見られたものの、ここに来て調子を取り戻している。この日の出来を見ると、14年世界選手権(チェリャビンスク)以来の優勝も期待できる。同じく代表に選ばれた渡名喜と切磋琢磨してもらいたい。

■明暗がわかれた2番手以降の選手


 今大会はトップを追いかける2番手の選手も参加していたが、こちらは明暗がわかれた。

 男子で層の薄さが指摘される81キロ級と90キロ級は、それぞれ1名が参加。90キロ級の長澤は優勝したものの、81キロ級の渡邉勇人(了徳寺学園職)は2回戦敗退に終わった。

 90キロ級はベイカー茉秋が右肩脱臼の手術のため出場を回避、世界選手権は派遣なしとなった。ベイカー以外は結果を残せない状況が続いていたものの、長澤が優勝を飾り2番手争いに名乗りを上げた。

 その他にも、向翔一郎(日本大学)など期待できる若手もいるので、彼らと切磋琢磨してぜひ追い上げてもらいたい。

 一方、永瀬貴規(旭化成)を追いかける渡邉は2回戦敗退と精彩を欠いた。もともと怪我の多い選手で、これまでも強行出場して負傷欠場を繰り返し、ようやく復調してきた。東京に向けてアピールしたいところだったが、不完全燃焼に終わった。

 この階級は、現在のところ長瀬と渡邉の争い。若手では佐藤正大(自衛隊体育学校)や小原拳哉(パーク24)、藤原崇太郎(日本体育大)がいるものの、彼らはまだまだ国際試合の経験が必要な段階。

 この階級も層が薄い階級なので、渡邉には奮起してもらいたい。

■じっくりと治療して世界に臨む


 今大会に派遣されたものの、負傷で欠場せざるを得なかったのが100キロ級のウルフ。世界選手権の前哨戦ともいえる大会だっただけに、ここで出場できなかったのは痛いところ。

 しかし負傷した右胸鎖関節亜脱臼は、幸いにも全治4週間。調整期間を含めても、世界選手権には十分に間に合う。

 井上康生監督も「疲れもあったのだろう。体を作り直すこともできるので、しっかりと準備していきたい」と語るなどウルフへの期待は変わっていない。(記事:夏目玲奈・記事一覧を見る

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