大腸菌が外部情報を活用するメカニズムが明らかに

2015年7月5日 20:04

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大腸菌のシグナル伝達の模式図。餌となる化学物質からの入力情報が伝えられ、それが受容体のメチル化レベルにいったん記憶されたあと、フィードバックによる安定化が行われている。(東京工業大学の発表資料より)

大腸菌のシグナル伝達の模式図。餌となる化学物質からの入力情報が伝えられ、それが受容体のメチル化レベルにいったん記憶されたあと、フィードバックによる安定化が行われている。(東京工業大学の発表資料より)[写真拡大]

  • 大腸菌のシグナル伝達の情報熱力学的な効率のシミュレーション結果。入力信号に対して、情報熱力学的な効率を表す性能指数を示している。性能指数が1に近いほど、通常の熱効率と比べて情報熱力学的な効率が高くなる。(東京工業大学の発表資料より)

 東京大学の沙川貴大准教授と東京工業大学の伊藤創祐研究員は、大腸菌が餌に反応する際に生体内で情報が果たす役割を解明した。

 生体システムを維持するためには、絶えず変動する外界についての情報を取得し、それを活用することが不可欠である。例えば、大腸菌は細胞内で情報をうまく処理し、環境の変化に適応しながら餌を探すことが知られており、これを「走化性」と呼んでいる。

 今回の研究では、研究グループは、分子を一つ一つ観測してその情報を使ってフィードバック制御をする存在「マクスウェルのデーモン」と、大腸菌の走化性におけるシグナル伝達の類似性に着目し、情報熱力学によって生体内の情報伝達のメカニズムを解明した。

 その結果、大腸菌の細胞内を流れる情報量が、大腸菌の適応行動が外界からのノイズに対してどのくらい安定であるかを決めていることが分かった。また、大腸菌の適応のメカニズムは、通常の熱機関としては非効率(散逸的)だが、情報熱機関としては効率的であることを明らかにした。

 研究チームは今回の成果について、「生体内でも定量化可能な物理量を用いて生体内の情報処理メカニズムを解明するための、新しいアプローチの第一歩になる」としている。また、今後は、生体内の「デーモン」のメカニズムを人工的な情報処理に応用できる可能性があるという。

 なお、この内容は「Nature Communications」に掲載された。

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