欧州・日本・韓国、国際AI標準化の新枠組み「AIPP」を検討 3GPPをモデルに

2026年11月4日 17:01

欧州電気通信標準化機構(ETSI)、日本の情報通信技術委員会(TTC)、韓国情報通信技術協会(TTA)は2026年11月2日、業界主導の国際AI標準化プロジェクト「AI Partnership Project(AIPP)」の設立可能性を共同で検討する意向書に署名した。携帯通信の技術仕様を策定してきた3GPPの協調モデルを、AI分野に生かす構想だ。

署名はソウルで開催されたGlobal ICT Standards Conference(GISC 2026)に合わせて行われた。3団体は、国際的に整合したAI標準の策定に向け、新たな連携の選択肢を探る。

■通信標準化の経験をAIに生かす

3GPPは、企業の技術者が共通仕様をつくり、参加する標準化団体がそれを各地域の成果物として採用する仕組みを築いてきた。AIPP構想の出発点は、異なる市場の企業が共通の技術要件に取り組める場を、AIでも設けることにある。

ETSI理事会議長のマルクス・ミュック氏は、AIPPが産業界、学術界、研究機関の優先事項をそろえ、既存のAI標準化活動を補完する場になり得るとしている。信頼性、相互運用性、拡張性を備えたAIの普及を支えることが狙いだ。

国際的な共通仕様には、開発者や利用企業が技術上の要求を共有しやすくする利点がある。評価手順やインタフェースを共通化できれば、市場ごとに異なる実装を準備する負担の軽減にもつながり得る。

ノキアの標準化責任者ピーター・メルツ氏とAI専門家カリナ・パリュティナ氏も、2025年10月の同社の解説で、各国のAI統制の分断が相互運用性に影響する懸念を示した。国ごとに異なる電源プラグや電圧を例に挙げ、通信業界の国際協力の経験をAIに生かす意義を論じている。

■3GPPを支える共通仕様と地域での採用

3GPPの設立協定は1998年12月4日、日本の電波産業会(ARIB)とTTC、欧州のETSI、韓国のTTA、米国のT1の5団体によって締結された。その後、中国やインドの標準化団体も加わり、現在は7つの組織パートナー(OP)が支える体制となっている。

中国からは1999年に中国無線通信標準研究組(CWTS)が参加し、その役割を後に中国通信標準化協会(CCSA)が引き継いだ。現在のOPには米国のATISも含まれる。日本のTTCも公式の沿革で、1998年に3GPPの設立発起団体として参加したと記している。

3GPPでは、クアルコム、エリクソン、ファーウェイ、ノキア、サムスンなどの企業が、作業部会と技術仕様グループ(TSG)を通じて仕様を策定する。成果物は各OPが自らの手続きで採用し、国や地域の仕様・規格として発行する。

ETSIの成果物には、技術仕様(TS)や欧州標準(EN)など複数の種類がある。規格は実装や適合性評価の基準として使われ、法律上の位置付けは、それを参照する法令や制度によって決まる。共通仕様の策定と、各地域での規格発行・制度運用を分担することが、このモデルの特徴だ。

その基盤には、通信機器の開発、試験、商用導入をつなぐ長年の蓄積がある。GSMAが2026年に公表した資料によると、世界の携帯通信の実利用者数は58億人に達している。3GPPの仕様は、こうした大規模な通信基盤を支える技術の中核を担ってきた。

■AIに適した対象範囲と更新方法をどう設計するか

AIPPの設計で重要になるのは、どの技術課題を共通仕様として扱うかだ。AIモデルの特性や利用条件を示す文書、安全性評価の手順、リスク分類、データの来歴、AIシステム間の接続方法など、標準化の候補となる領域は広い。

業界側の要望を集める作業も進んでいる。TTAが2026年5月にETSIで発表した資料によると、4月30日にソウルで開いたAIPP向けの需要調査ワークショップには18社が参加し、6つの層にわたる47件の標準化ニーズが挙がった。対象範囲を絞るには、こうした利用現場の要求を具体的な作業項目に落とし込む必要がある。

仕様を更新する方法も検討課題となる。3GPPは、関連する仕様を「リリース」と呼ぶまとまりで管理し、機能間の整合を取りながら開発する。TSGの全体会合は年4回開かれ、承認された変更が仕様に反映される。

最初の5G仕様群であるリリース15は段階的に完成し、最後の追加分は2019年6月にプロトコル仕様が凍結された。5G Advancedの最初の仕様群に当たるリリース18は2024年に完成し、2026年11月時点ではリリース20で5G Advancedの拡張と6Gの検討が進む。最初の6G規範仕様はリリース21で扱う計画だ。

AIでは、モデルや周辺ソフトウェアの更新に応じて、評価方法や運用上の要求も見直す必要がある。安定した共通仕様を保つ仕組みと、技術の変化に対応する改訂手続きをどう組み合わせるかが、実装に役立つ枠組みをつくるうえで重要になる。

■既存のAI標準化と役割をつなぐ

AI分野では、2017年に設立されたISO/IEC JTC 1/SC 42をはじめ、国際電気通信連合(ITU)、IEEEなどが標準化を進めている。SC 42の成果物には用語、マネジメントシステム、リスク管理に加え、機械学習の性能評価、データ品質、ニューラルネットワークの頑健性評価、AIシステムの試験に関する文書もある。

ETSIにも、AIのセキュリティを扱う活動の蓄積がある。2019年に発足した業界仕様グループISG SAIの活動を受け、2023年にAIセキュリティ技術委員会(TC SAI)が設けられた。ミュック氏は2026年の論文でも、AIのライフサイクル全体にわたる設計原則を基礎としたサイバーセキュリティ要件の策定を紹介している。

具体例が、AIモデルとシステムの基本的なサイバーセキュリティ要件を定めるETSI EN 304 223だ。2025年12月版では、設計、開発、導入、保守、利用終了の5段階にわたり、13の原則を示す。ETSIは、AIサイバーセキュリティを対象とする、世界で適用可能な初の欧州標準と位置付けている。

この規格には、脅威の評価、データやモデルの文書化、試験、更新、監視などの要求が含まれる。AIPPが扱う作業を具体化する際にも、こうした既存の成果物との関係を整理し、企業が実装や評価に使える形でつなぐことが課題となる。

■EUの規制対応でも標準整備が進む

技術仕様と規制の関係を考えるうえで、EUのAI法は重要な背景となる。欧州委員会によると、高リスクAIのうち附属書IIIに該当する用途の主要な義務は2027年12月2日、規制対象製品に組み込まれる附属書Iの高リスクAIについては2028年8月2日から適用される。

採用や信用力評価などに使われるAIは、条件に応じて附属書IIIの高リスク分類の対象となる。医療機器などの製品に組み込まれるAIには、製品安全法制と関連した別の分類経路がある。事業者にとっては、用途に応じた技術文書、品質管理、適合性評価などの準備が必要となる。

欧州標準化委員会(CEN)と欧州電気標準化委員会(CENELEC)は、標準化要求M/593とその改訂M/613に基づき、AI法を支える規格を策定している。欧州委員会は2026年10月19日、最初の整合規格であるEN 18286:2026の参照がEU官報に掲載されたと発表した。

EN 18286は、AI法第17条の品質マネジメントシステムに関する要求を具体化する規格だ。適用する事業者は、この規格が対象とする要求について適合の推定を受けられる。共通仕様の実務上の価値は、こうした既存の規格や制度との接続によっても左右される。

AIPPの成果を規制対応に生かすには、対象となる要求、試験方法、既存規格との対応関係を明確にすることが重要だ。国際的に共通する技術要件を用意できれば、複数市場でAIを提供する企業にとって、設計や評価の作業を共有しやすくなる。

■日欧韓が持ち寄る標準化と検証の基盤

ETSIは、EUが認める3つの欧州標準化機関の一つであり、60カ国以上の900超の組織が加盟する。南フランスの本部には、3GPPの事務局・支援機能を担うMobile Competence Centreも置かれている。

2026年には、ネットワーク、エッジ、クラウド、AIを横断する技術委員会TC NETも新設した。10月7〜9日の初会合では作業計画と4つの作業部会を整え、3GPP、oneM2M、ITU、ISO/IECなどとの連携を通じて、相互運用可能なデジタル基盤の仕様づくりを進めるとしている。

TTCは日本の情報通信分野の標準化を担い、3GPP創設以来の協調の経験を持つ。日本政府も「人間中心のAI社会原則」を掲げ、その理念を国際的な議論に提供してきた。2026年の人工知能基本計画でも、人間中心の理念とイノベーション促進・リスク対応の両立を重視している。

韓国のDigital Todayによると、TTAは2026年1月、AI通信融合、AI基盤技術、AX・ソフトウェア、情報保護・安全の4研究所を軸とする体制に再編した。AI Communications Convergence Instituteは6GやオンデバイスAIなどの試験・検証を、AI Foundational Technology InstituteはAIのフルスタック検証やエージェント型AIなどの信頼性認証を担う。

AX and Software Instituteは産業・地域へのAI普及を支え、Information Protection and Safety Instituteは情報保護、本人認証、ブロックチェーンを活用した金融セキュリティなどを扱う。同紙によると、ソン・スンヒョン会長率いるTTAの再編は、世界のAI先導国3カ国入りを目指す韓国政府の目標を支援するものだ。

■参加の広がりと実務上の価値が焦点に

今回の意向書に署名したのはETSI、TTC、TTAの3団体だ。一方、韓国の電子新聞は、AIPPの検討では米国のATISとの協力も進められていると報じている。署名団体を核として、どの地域の標準化団体や企業に参加が広がるかが今後の焦点となる。

米国のOpenAI、Google、Anthropic、Meta、Microsoft、中国のBaidu、Alibaba、Huawei、DeepSeekなど、AIの開発・提供に関わる企業は多い。国際的な仕様の普及を考えるうえでは、こうした企業を含む開発者、機器メーカー、サービス提供者、利用企業が、共通の場で作業する利点を見いだせるかが重要になる。

ETSI総会議長のベティナ・フンク氏は、日韓との協力が、現場の需要に応える実用的な標準づくりに新たな視点をもたらすと期待する。エリクソンで12年間にわたり世界の標準化業務を率い、2024年にETSI事務局長となったヤン・エルスベルガー氏も、安全性、持続可能性、信頼性、相互運用性を重視し、世界のパートナーに協力を呼び掛けた。

ETSIの発表は、フォン・デア・ライエン欧州委員長がタリン・デジタル・サミットで述べた、信頼できるパートナーとの協力が欧州標準を世界へ広げるという考えにも言及した。AIPPの具体化には、対象範囲、意思決定、参加条件、既存組織との役割分担を詰める作業が必要となる。通信業界で培った共同仕様策定の経験を、AIの開発・評価・運用に役立つ仕組みへ結び付けられるかが問われる。

元記事: Europe, Japan, and South Korea Propose Global AI Standards Body Modeled on 5G, Without US or China

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