バウティスタ、57歳でクレイトス役へ 『ゴッド・オブ・ウォー』と筋肉の記憶を考える

2026年11月4日 15:06

Prime Videoの実写ドラマ『God of War』でクレイトスを演じるデイヴ・バウティスタが、役作りに向けたトレーニングの成果を披露した。57歳の俳優による肉体づくりは、過去の運動経験を筋肉がどう保持するかという「筋肉の記憶」を考える入り口になる。

原作ゲーム『ゴッド・オブ・ウォー』には、怒りを制御する父親、異なる世界を結ぶ大樹、炎と氷を操る武器が登場する。こうした表現に現実の研究との共通点を探すと、キャラクターや世界観を味わうための興味深い補助線が見えてくる。

■57歳のバウティスタが挑むクレイトスの肉体

米CinemaBlendは2026年11月2日、バウティスタの鍛えられた姿を映した動画を紹介した。動画は11月1日にSNSへ転載されたもので、バウティスタがInstagramストーリーで公開したトレーニングの近況として報じられている。

準備の経過は、9月にも本人が発信していた。GamesRadar+が紹介した9月3日のInstagram投稿で、バウティスタはウエイトトレーニングの再開から3週目で、目標とする状態まであと2カ月と説明し、感覚を取り戻す様子を自転車に乗ることになぞらえた。

バウティスタは、WWEで世界王座を通算6度獲得した元プロレスラーだ。長年のトレーニングで培った身体を使いながら、俳優として『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』などにも出演してきた。今回担うのは、強大な戦士であると同時に、息子との関係に戸惑う父親でもあるクレイトスだ。

■「筋肉の記憶」は何を記憶するのか

加齢と筋肉の関係には、筋量、筋力、身体機能という異なる側面がある。日本サルコペニア・フレイル学会は、高齢期にみられる骨格筋量の低下と、筋力または身体機能の低下によってサルコペニアを定義している。加齢に加え、活動不足、疾患、栄養不良も危険因子となる。

国立長寿医療研究センターは、その背景として成長ホルモンや性ホルモンの異常など、複数の要因が関係すると説明している。インスリン様成長因子1(IGF-1)などの変化も研究対象だ。一方、学会の診療ガイドラインでは、運動介入による筋量、筋力、身体機能の改善が報告されている。

そこで注目されるのが、過去のトレーニング経験が再開後の適応に影響する「筋肉の記憶」である。筋線維には複数の細胞核があり、筋核と呼ばれる。筋核が担う細胞質の範囲に着目する筋核ドメインという考え方や、運動経験によって生じる遺伝子の働き方の変化が、その仕組みの候補として研究されている。

2024年に学術誌「The Journal of Physiology」で発表されたカミングらの研究では、筋力トレーニング経験のない男女12人が、片腕を10週間鍛えた。その後16週間の休止を挟むと、筋線維が細くなっても、トレーニングで増えた筋核は維持されていた。研究チームは、遺伝子発現の違いとともに、細胞レベルの記憶を支える可能性に注目している。

こうした研究は、長年鍛えてきた人の再トレーニングを考える手掛かりになる。バウティスタの役作りでは、年齢に加え、それまでの運動歴や現在のトレーニングが重なり合っている。画面に映る身体の変化の背後には、筋肉が刺激に応じて作り替えられる過程がある。

■スパルタン・レイジと感情を扱う力

クレイトスの戦闘能力「スパルタン・レイジ」は、怒りを強烈な身体表現へ変えるゲームシステムだ。2018年の『ゴッド・オブ・ウォー』と2022年の『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』では、怒りとの付き合い方が、息子アトレウスと生きるクレイトスの人物像にも重なっている。

現実のストレス反応では、交感神経―副腎髄質系がアドレナリンなどの働きに関わり、視床下部―下垂体―副腎皮質系(HPA軸)がコルチゾールの分泌を調節する。危険への反応が心拍やエネルギー動員などを変えるという構造は、感情が戦闘時の身体を変える演出に通じる。

ストレスによって痛みの感じ方が変わる現象も研究されている。ストレス誘発性鎮痛には、中脳水道周囲灰白質などの神経回路や、内因性オピオイド、内因性カンナビノイド系が関わる。危機に際して感覚や行動の優先順位が変わることは、激しい戦闘場面を読み解く一つの視点になる。

父親としてのクレイトスを考えるうえでは、感情調整の研究がさらに興味深い。出来事の意味を捉え直す「認知的再評価」について、ビュールらが48件の脳画像研究を分析したところ、認知制御に関係する領域の活動と、扁桃体の反応の調節が認められた。怒りにどう反応するかを学ぶというテーマは、力の使い方を選び、息子と向き合う物語に重ねて読める。

北欧の戦士ベルセルクも、激怒する戦士の文化的な背景となる。『ユングリング家のサガ』などには、獣のように荒々しく戦う姿が描かれる。民族植物学者カルステン・ファトゥルは、ベニテングタケなどをめぐる従来の仮説を検討し、別の植物による説明も提案している。ここでは、戦士の変貌を描く神話や伝承の豊かさが、ゲームの表現を楽しむ手掛かりになる。

■九界と宇宙論に見いだせる発想

北欧神話編の舞台は、世界樹ユグドラシルに結び付いた九界だ。ミズガルズやアースガルズをはじめ、異なる環境を持つ世界が広がり、ユグドラシルやビフレストは世界をまたぐ旅に関わる。場所を移動することが、そのまま異なる秩序や歴史に触れることになる。

この構図から連想できる理論物理の研究に、ブレーン宇宙論がある。高次元空間の中に膜状の宇宙を置く考え方で、11次元を扱うM理論などとともに、高次元を用いた宇宙の記述が研究されてきた。私たちが暮らす空間を、より大きな構造の一部として捉える発想だ。

リサ・ランドールとラマン・サンドラムが1999年に発表した模型では、追加の空間次元や、その幾何学的な構造が重要な役割を果たす。一方の論文は、余剰次元のゆがみを利用して、重力と他の相互作用の強さの隔たりを説明する可能性を示した。九界にイメージを重ねるなら、見慣れた空間の外側に別の構造を考える点が共通する。

終末と再生というラグナロクの構図からは、「ビッグバウンス」という研究テーマも連想できる。アバイ・アシュテカールらのループ量子宇宙論では、一定の条件を置いた宇宙モデルで、量子効果により収縮から膨張へ転じる過程が研究されている。世界の終わりの先に新たな始まりを見る神話と、宇宙の収縮と膨張を考える理論には、変化の境界を越えて何が続くかという共通の問いがある。

■神の血から考える生体の色と光

ギリシャ神話の神々の身体を考える題材としては、神の血とされるイコルがある。ホメロスの『イリアス』第5歌では、傷ついたアフロディテからイコルが流れる。神の身体にも傷と痛みを描くことで、戦闘の切迫感を伝える表現だ。

現実の生物でも、酸素を運ぶタンパク質の違いが体液の色に表れる。ヒトのヘモグロビンは鉄を含むヘムを使う一方、タコやカニなどのヘモシアニンは銅を使い、酸素と結び付くと青色になる。ホシムシ類のPhascolopsis gouldiiには、ヘムを使わず二つの鉄を含むヘムエリスリンがある。金属とタンパク質の組み合わせが、生体の働きと色を生み出す。

金属を含む化合物の医療利用には、金化合物のオーラノフィンを関節リウマチの治療に用いる例もある。酸素運搬、色、医薬品としての作用という異なる切り口から、生物と金属の関わりを考えられる。

光を放つ生体の表現からは、ホタルなどの生物発光を連想できる。ホタルでは、酵素ルシフェラーゼがルシフェリンの反応を助け、光が生まれる。東京大学などの研究グループは、測定条件下で発光の量子収率を41.0±7.4%と報告した。化学反応を光へ変える仕組みは、幻想的な発光表現を楽しむための身近な科学の入り口になる。

■炎の双剣と氷の斧が映す素材の個性

クレイトスの代表的な武器は、炎を操る鎖付きの双剣「ブレイズ・オブ・カオス」と、氷の力を持つ斧「リヴァイアサン」だ。リヴァイアサンは投げて敵を攻撃し、手元へ呼び戻せる。炎と氷、振り回す鎖と投げる斧という違いが、戦闘の手触りを分けている。

こうした武器に材料科学の視点を重ねるなら、硬さ、衝撃への強さ、耐熱性、接合部の強度が考える手掛かりになる。炭化タングステン(WC)は硬質材料で、物性資料には2785℃という融点が記載されている。硬さに加えて、割れにくさや高温での性質をどう組み合わせるかは、実際の材料設計でも重要な課題だ。

高温用材料では、レニウムをイリジウムで被覆したロケット燃焼室の研究がある。NASAは、被覆と基材の間の拡散や酸化を、寿命を左右する要因として調べてきた。またNASAによると、個々のカーボンナノチューブは鋼のおよそ100倍の強度を持ち、その特性を利用する高強度の糸や複合材の製造が研究されている。

武器の映像に目を向けると、刃そのものに加え、鎖のしなりや、投げた斧が戻る軌道にもキャラクターの力強さが表れる。素材の研究は、硬い刃と柔軟な鎖という異なる役割の組み合わせを考える補助線になる。実写版でも、こうした動きはクレイトスの身体表現と結び付く要素となるだろう。

■ギリシャと北欧をつなぐ神話の背景

『ゴッド・オブ・ウォー』は、ギリシャ神話を背景に持つクレイトスを北欧神話の世界へ移した。この組み合わせには、異文化の出会いとしての面白さとともに、比較神話学から見えてくる共通性がある。

マーティン・L・ウェストは2007年の著書『Indo-European Poetry and Myth』で、インド・ヨーロッパ諸語を話す人々に伝わる神話や詩を比較し、共通の遺産を検討した。空や雷の神、英雄、詩によって名声を残すという主題などが研究対象となる。ゼウスと北欧のテュールの名も、同じインド・ヨーロッパ祖語の語根にさかのぼる。

ジョルジュ・デュメジルは、主権・祭祀、戦い、生産という三つの機能に着目して、神話の構造を比較した。こうした研究は、離れた地域の神々や英雄が、似た役割や物語を持つ理由を考える視点を与える。神々の系譜を横断するゲームの旅にも、その重なりを探す楽しみがある。

作品は、北欧の伝承にある人名も物語へ取り込んでいる。クレイトスの妻フェイの名はラウフェイで、北欧神話でロキの母とされる人物と同名だ。2018年作品で明かされるアトレウスとロキの結び付きは、既存の神話を知ると人物の配置を違った角度から見直せる仕掛けになっている。

■「フィンブルの冬」と気候史

『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』の幕開けを覆うのは、厳しい「フィンブルの冬」だ。『スノッリのエッダ』には、夏を挟まず三度続く冬が描かれる。季節の秩序が崩れることが、世界の危機を感じさせる。

現実の気候史では、西暦536年と540年の大規模噴火に伴う寒冷化が研究されている。トゥーイーらが2016年に発表した気候モデル研究では、北半球の平均気温の偏差は最大でマイナス2℃を超え、スカンディナヴィアで数年にわたり農作物の生産が落ち込む可能性が示された。

同年にビュントゲンらが発表した年輪研究も、6世紀半ばからの長期的な寒冷化を報告した。夏が失われるような経験と社会の不安を並べて考えると、神話が季節の異変をどれほど切実な出来事として描いているかが伝わる。物語の冬を、食料や暮らしを支える環境の変化として読む視点だ。

ラグナロクの後には、大地が再び現れ、生き残った神々と人間が生きる世界が描かれる。崩壊だけでなく、その後をどう生きるかまでを含む点は、過去を背負って息子を育てるクレイトスの物語にも響き合う。

■実写版の制作と父子の物語

Amazonの公式案内によると、実写版は2シーズンの制作が決まり、ロナルド・D・ムーアがショーランナー、脚本、製作総指揮を担当する。最初の2話を監督するのは、フレデリック・E・O・トイだ。Amazon MGMスタジオとソニー・ピクチャーズ テレビジョンが、PlayStation ProductionsおよびTall Ship Productionsと共同で制作する。

出演者には、クレイトス役のバウティスタ、アトレウス役のカラム・ヴィンソン、オーディン役のマンディ・パティンキン、シフ役のテリーサ・パーマーが名を連ねる。Varietyは、当初クレイトス役だったライアン・ハーストが2026年6月に撮影現場で負傷したと報じた。Game Informerは8月21日、バウティスタの起用が決まり、ハーストの撮影済み場面を撮り直す予定だと伝えている。

物語の中心は、亡き妻であり母であるフェイの遺灰をまくために旅するクレイトスとアトレウスだ。神として生きることを息子に教えようとする父と、父に人間らしさを教えていく息子。その関係は、壮大な神話を身近な感情につなぐ軸となる。

2026年11月3日時点で、配信開始日は未発表だ。GamesRadar+は2028年半ばと予想している。『GALACTICA/ギャラクティカ』や『フォー・オール・マンカインド』に携わったムーアが、クレイトスの過去、怒り、父親としての変化をどう描くか。バウティスタの肉体づくりとともに、実写化で注目したい点である。

元記事: Dave Bautista Reveals Kratos Build at 57; Muscle Memory Biology Explains Prime Video Casting

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