ベンヌの微小鉱物に希土類元素が濃集 リュウグウとの比較で探る水の履歴
2026年11月1日 13:38
NASAの探査機OSIRIS-RExが持ち帰った小惑星ベンヌの試料で、希土類元素を高濃度に含む微小な燐灰石が詳しく分析された。5個の岩石片に含まれる34粒子の測定から、粒子ごとの濃度差と、母天体で水と岩石が反応した環境の多様さが浮かび上がった。
研究はゲーテ大学フランクフルトのB. J. Tkalcec氏らによるもので、2026年10月29日に学術誌「Meteoritics & Planetary Science」で公開された。リュウグウの試料との比較からは、組成の似た炭素質小惑星でも、水による変質の過程に違いがあった可能性が示されている。
■燐灰石が記録する流体の化学
燐灰石はアパタイトとも呼ばれるリン酸カルシウムを主成分とする鉱物群で、その一種である水酸燐灰石は骨や歯の主要な無機成分でもある。一般式はCa₁₀(PO₄)₆(OH,F,Cl)₂で表され、結晶構造にはセリウム、ユウロピウム、サマリウムなどの希土類元素を取り込める。
希土類元素は結晶中でカルシウムの一部を置き換えるなどして保持される。その取り込まれ方には、流体の温度、酸性度、酸化還元状態、溶存成分に加え、結晶構造への収まりやすさも関わる。このため燐灰石は、地球の熱水性鉱床や火成岩体の形成過程を調べる指標としても使われてきた。
Tkalcec氏らは、燐灰石がコンドライト隕石の中で最も希土類元素に富む鉱物である場合が多いと説明している。小惑星の回収試料では、その濃度や元素間の比率を調べることで、母天体内部の流体と鉱物の反応を読み解ける。
ベンヌの燐灰石には、形成後に水と反応した痕跡もある。結晶の形状や内部の組成変化と元素分析を組み合わせることで、最初の沈殿から後の変質まで、複数の段階をたどる手掛かりになる。
■微小な34粒子を放射光で分析
今回測定した燐灰石は大きさが2〜11.5マイクロメートルで、最大のものでも髪の毛の太さのおよそ10分の1程度だ。こうした微小粒子の希土類元素を調べるため、研究チームは放射光蛍光X線分析(SXRF)を用いた。
この手法は、強いX線を試料に照射し、元素ごとに固有のエネルギーを持つ蛍光X線を検出するものだ。元素の分布を画像として示し、狙った粒子の濃度を測定できる。試料を溶かしたり削り取ったりせずに調べられる点も、貴重な回収試料に適している。
希土類元素の分析には、フランス・グルノーブルの欧州シンクロトロン放射光施設(ESRF)を使用した。ドイツ電子シンクロトロン研究所(DESY)でも、より原子番号の小さい元素を測定した。放射光分析には、試料位置で約0.5×0.5マイクロメートルに絞ったX線ビームが使われた。
NASAによると、OSIRIS-RExが2023年9月24日に地球へ届けたベンヌ試料は計121.6グラムで、宇宙で採取された小惑星試料として過去最大だった。2016年の打ち上げから7年をかけて回収された試料は、世界の研究者による分析と将来の研究のために管理されている。
研究チームは、JAXAの「はやぶさ2」が2020年12月に持ち帰ったリュウグウ試料でも、同じ放射光施設と分析手法を用いて燐灰石を調べてきた。測定方法をそろえることで、二つの小惑星の元素分布を比較しやすくしている。
■濃度差と粒子の集まりが示す局所環境
34粒子のうち29粒子では、希土類元素の濃度がバルク、すなわち試料全体としてのCIコンドライト組成の40〜900倍だった。別の1粒子は1000〜1900倍という特に高い濃集を示し、マンガンに富む残りの4粒子は15〜65倍だった。
CIコンドライトは炭素質隕石の一群で、多くの元素の相対存在度が太陽の組成とよく対応することから、太陽系物質の組成を比較する基準に使われる。今回の倍率は、燐灰石中の各希土類元素の濃度を、この基準組成に対して示したものだ。
燐灰石の分布も不均一だった。調べた5個の岩石片すべてで、3〜9粒が集まった集合が見つかり、分析した34粒子のうち19粒子がこうした集合に属していた。燐灰石の多い場所では、炭酸塩鉱物の苦灰石が多い例もあった。
研究チームは、結晶の形や分布から、燐灰石が流体の豊富な空隙などに沈殿した可能性を挙げている。リンやカルシウムを供給する鉱物の分布、流体の通り道、水と岩石が接触した時間などの違いが、局所的な濃度差につながったと考えている。
マンガンに富む4粒子は一つの集合に属し、ほかの粒子より希土類元素の濃度が低かった。研究チームは周囲の硫化鉄やセリウムの濃度パターンも踏まえ、局所的な流体組成の違いや、結晶成長中の酸化還元条件の変化を読み取っている。
■リュウグウとの違いを生んだ水と岩石の反応
ベンヌの燐灰石では、CIコンドライト組成で規格化すると、軽希土類元素から重希土類元素までの濃度パターンがおおむね平坦だった。軽希土類元素にはランタンやサマリウム、重希土類元素にはテルビウムやルテチウムなどが含まれる。リュウグウの燐灰石では、これに対して重希土類元素が相対的に多く取り込まれていた。
流体中では、希土類元素がフッ化物イオンや水酸化物イオンなどと錯体をつくる。錯体の安定性や鉱物への取り込まれ方は、温度、pH、塩分濃度などによって変わる。この性質が、元素間の比率に違いを生む。
Tkalcec氏らは、ベンヌの比較的平坦なパターンについて、流体の変化に伴う段階的な取り込みを仮説として示した。初期には軽希土類元素が燐灰石に取り込まれ、その後、アルカリ性や塩分濃度が高まった流体から重希土類元素が表面に吸着するなどして、全体の比率が均されたという説明だ。
NASAジョンソン宇宙センターのLaura B. Seifert氏らが2026年2月13日に公開した関連論文も、複数段階の水質変成を示唆している。研究では、溶解の痕跡がある単結晶と、不規則な形をした多結晶集合体を確認した。多結晶集合体の多孔質な構造は、溶解と再沈殿を繰り返した過程を反映する可能性がある。
結晶内部の累帯構造や縁部の発光の強まりも、微量元素の取り込みが成長中に変化した手掛かりになる。リュウグウとの違いについては、後期の流体反応の程度、周囲の炭酸塩の分布、流体の初期組成など、複数の要因が候補に挙がっている。
■氷から始まった母天体の化学進化
現在のベンヌは、より大きな母天体が破壊された後、その破片が再び集まってできた天体と考えられている。NASAが紹介する関連研究では、母天体は太陽系外側の低温領域で氷と岩石質の物質を集め、その氷が溶けて水と岩石の反応が進んだとされる。アルミニウム26など短寿命放射性核種の崩壊熱は、こうした小天体内部を温める熱源の候補だ。
ベンヌ試料には、層状ケイ酸塩、硫化物、磁鉄鉱、炭酸塩、リン酸塩に加え、塩水の蒸発に伴って形成された鉱物が含まれる。初期分析では、層状ケイ酸塩が体積のおよそ80%を占めると報告されており、水と岩石の反応が広く進んだことを示している。
アリゾナ大学のThomas J. Zega氏らによる2025年の研究は、鉱物の組み合わせから母天体の熱水変質を調べた。また、Timothy J. McCoy氏らの蒸発鉱物に関する研究では、水の蒸発に伴ってナトリウム濃度が上がり、マグネシウム・ナトリウムを含むリン酸塩が沈殿した過程が示されている。
Seifert氏らが調べたベンヌの燐灰石は、フッ素が少なく、塩素もほとんど含まない、水酸燐灰石に整合する組成だった。こうした鉱物の組成に希土類元素の分布や結晶構造を重ねることで、流体の変化をより詳しく検討できる。
■元素の分配を探る回収試料研究
希土類元素は、電気自動車や風力発電機に使う永久磁石、LEDやディスプレーの蛍光体、防衛・電子機器などを支える材料でもある。米国地質調査所(USGS)の2026年版統計によると、2025年の中国の鉱山生産量は酸化物換算で推定27万トンで、世界の推定39万トンのおよそ69%を占める。
国際エネルギー機関(IEA)によると、磁石用希土類元素の精製では、2024年の中国の世界シェアは91%だった。米国や欧州連合(EU)は希土類元素を重要な鉱物・原材料に位置付け、供給源の多様化を進めている。
惑星科学では、同じ元素が初期太陽系の物質中でどの鉱物に取り込まれ、水との反応でどう移動したかが研究対象になる。ベンヌでは燐灰石が希土類元素を高濃度に保持し、苦灰石などの炭酸塩にも、より低い濃度で含まれる。こうした分配を調べることは、惑星の材料となった物質の化学進化を理解する基礎になる。
ベンヌ試料の研究は、同位体組成、有機化合物、太陽系形成以前に生まれた粒子、蒸発鉱物、無水ケイ酸塩などへ広がっている。硫化鉄鉱物のマッキナワイトを通して初期の水質変成を調べる研究や、有機化合物の分布から岩石ごとの変質履歴の違いを探る研究も公表されている。
放射光による微小鉱物の分析は、こうした成果を結び付ける手段の一つだ。燐灰石の元素分布を、周囲の鉱物や内部構造と合わせて調べることで、母天体内部で流体が通った場所と、反応が重なった過程をさらに詳しく描ける。
元記事: Bennu Asteroid Apatite Minerals Lock Rare Earths at 900 Times Cosmic Level, OSIRIS-REx Finds