『デューン 砂の惑星 PART3』新曲配信 シャラメの声が戦いの合唱へ

2026年10月22日 23:47

WaterTower Musicは2026年10月20日、映画『デューン 砂の惑星 PART3』のサウンドトラックから、初のシングル「Desert Chant」を配信した。ハンス・ジマーが作曲し、主演のティモシー・シャラメが歌唱する楽曲で、映画は12月18日に日米同時公開される。

■静かなハミングから戦いの歌へ

Apple Musicの掲載情報では、「Desert Chant」の長さは2分33秒。WaterTower Musicの発表によると、シャラメの静かなハミングで始まり、壮大な戦いの歌へと展開する。主人公ポール・アトレイデスを演じる俳優自身の声が、映画の音楽を構成する素材になっている。

予告編のフレメンの歌声について、ジマーは2026年3月にInstagramで、ヴィルヌーヴ監督と協力して制作し、シャラメが歌ったと説明していた。米ComingSoonは当時の投稿を紹介し、ジマーが監督との協働を通じて、その映像世界を音で表現していると伝えた。

個人の小さな声が集団の歌へ膨らむ構成は、ポールの物語を考えるうえでも印象的だ。近くで一人に語り掛けるような親密さが、共同体全体の意志を感じさせる響きへ変わっていく。そこには、個人への信頼が人々に共有され、政治的・宗教的な力へ広がる物語のイメージを重ねられる。

映画の公式紹介によると、第3作はポールが帝国の支配権を握ってから20年近く後を舞台に、皇帝となった彼が統治の帰結に向き合う姿を描く。フランク・ハーバートの『デューン 砂漠の救世主』に着想を得た作品であり、新曲の静けさと集団的な力の対比は、その主題を聴覚から読み解く入口になる。

■声を合わせる研究が示す、集団とのつながり

現実の研究にも、声や動作のタイミングをそろえることで、人々の関係が変化するというテーマがある。共通するのは、他者の発声を聞き、次のタイミングを予測し、自分の声を合わせるという構造だ。この知覚と行動の循環が、集団の歌を考える補助線になる。

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの研究者が2016年に発表した実験では、大学生215人が23~34人の集団に分かれ、単語の一覧を声に出して読んだ。全員でタイミングをそろえる条件と、異なる位置から読み始めてタイミングがずれる条件を設け、その後の記憶や集団への親近感、共同作業中の行動を比較した。

研究チームによると、声をそろえた参加者は、単語の記憶成績と集団への親近感が高かった。共同で操作するゲームでも、参加者の反応がよりそろう傾向が見られた。共通の発声を経験することが、その後の集団への感じ方や行動の合わせ方に関係するという結果だ。

音のリズムに対応して脳活動が周期的に変化する「引き込み現象」も研究されている。シルヴィー・ノザラダンらが2011年に発表した研究では、拍や拍子に対応する周期的な反応を脳波で捉えた。外部のリズムを受け取り、時間的なまとまりをつくる脳の働きは、反復する歌が注意を引き付ける仕組みを考える手掛かりになる。

ボンド大学などの研究者による2025年の系統的レビューは、唱和や真言、反復的な祈りを扱った24件の脳計測研究を整理した。そこでは、前頭前野を含む注意や感情調節に関わる領域の活動と、自分自身についての思考に関わる領域の活動低下などが報告されている。研究ごとに参加者や課題、計測方法が異なるため、結果はそれぞれの実験条件に沿って読む必要がある。

身体的な変化を調べた研究もある。オックスフォード大学などの研究チームは、20~80人の合唱団と232人の合同合唱で、90分間の歌唱後に社会的なつながりの自己評価と痛みへの耐性が高まったと報告した。ボンド大学などによる別の研究では、「オーム」を12分間、集団で発声または心の中で反復した後、唾液中のコルチゾールと自己申告の不安が低下した。

■ジマーが築いてきた、多彩な声の世界

『デューン』の音楽では、2021年の第1作から人間の声が重要な役割を担ってきた。ジマーは歌手ロワール・コトラーらと協働し、声の音色や発声方法を通じて、登場人物や集団の精神性を表現している。

キングス・カレッジ・ロンドンのフィリップ・カービーによる音楽分析は、コトラーが参照した伝統として、ユダヤ教の言葉を伴わない歌「ニグン」、南インドの声による打楽器表現、ケルトの哀歌、トゥバの倍音唱法を挙げる。異なる地域の声の表現が、映画の音楽を形づくる背景にある。

南インドのコナッコルは、音節を発声してリズムを表す技法だ。声は旋律を歌うだけでなく、打楽器のように時間を刻むこともできる。言葉の意味とともに、発音の鋭さや反復の配置そのものが音楽を動かす。

トゥバの喉歌「ホーメイ」は、倍音を際立たせる唱法として知られる。基になる低い声に、別の高い音が重なるように聞こえるのが特徴だ。バークリー音楽大学が紹介したコトラー本人の説明では、彼女はベネ・ゲセリットの人物像に合わせ、かすれた声や鋭い声、低い喉歌などを使い分けた。

コトラーは同大学の取材で、瞑想や儀礼、リズミカルな呼吸から表現を始め、登場人物の勇気や力を声に反映させたと説明している。こうした制作過程から見えてくるのは、歌唱技法を人物の感情や身体性へ結び付ける仕事だ。声は、アラキスの風景と同時に、そこで生きる人々の内面を伝えている。

『デューン 砂の惑星 PART2』でも、この方針は続いた。米映画業界団体MPAの媒体The Creditsのインタビューで、ジマーは打楽器に加え、聞き手が判別できる楽器として人間の声を強調した。RogerEbert.comの批評家ブライアン・タレリコは、ハルコンネンの金属的な響きと、フレメンの熱を感じさせる音楽との対比を評価している。

■ハカや〈声〉を通して考える、発声の働き

集団で声と動きを合わせる実践の一つが、ニュージーランドのマオリに伝わるハカだ。2016年のロンドン大学の発声実験も、導入でハカを取り上げ、対外的に力を示す表現と、集団内部の結び付きという二つの側面に注目している。

この観点を「Desert Chant」に重ねると、声をそろえることが、共同体の姿を音で示す表現として聞こえてくる。一つの発声を他者が受け取り、同じ型を共有するという構造には、個人を集団へつなぐ働きがある。歌の反復は、誰がその場に属し、何を共有しているのかを感じさせる。

『デューン』では、ベネ・ゲセリットの〈声〉も、発声と権力を結ぶ重要な設定だ。相手に合わせた声の使い方で命令に従わせる技術として描かれる。ここでは、声の高さや抑揚、強さが、聞き手による話者の受け止め方を変えるという発想に注目できる。

音声学では、こうした高さや長さ、強さなどの特徴を「韻律」と呼ぶ。ルイーズ・グピルらが2021年にNature Communicationsで発表した研究では、音声の韻律を操作することで、聞き手が話者の確信や誠実さをどう判断するかが変わった。声の内容と伝え方を組み合わせて人物の権威を描く表現に、興味深い補助線を提供する研究だ。

〈声〉が一対一の働き掛けを印象付ける一方、「Desert Chant」は一人の声が集団に共有される過程を前面に出す。この対比は、ポール個人の能力と、その人物を中心に形成される共同体の力を考える手掛かりになる。主人公の声が音楽へ入ることで、人物の身体と集団の響きがつながる。

■カリスマと共同体を読み解く

集団が指導者をどう受け止め、その権威をどう継承するかという問題には、社会学者マックス・ウェーバーの議論も重なる。死後の1922年に刊行された『経済と社会』で示された支配の類型は、伝統的支配、合法的支配、カリスマ的支配の三つだ。

カリスマ的支配は、指導者に特別な資質があると信じる人々の帰依に基づく。北海道大学の橋本努による講義資料は、その関係が持続する過程で、伝統化や合理化が進む「カリスマの日常化」を説明している。個人への信頼が、継続的な組織や規則、慣行へ形を変えるという視点だ。

『デューン 砂漠の救世主』では、ポールの名の下に広がった聖戦について、彼自身が死者を610億人と数える。皇帝であると同時に宗教的な象徴となった主人公は、自らを取り巻く信仰と権力の重さを背負う。フレメンの共同体や宗教的な儀礼に目を向けると、指導者と集団が互いを形づくる物語として読める。

小説で、ストーンバーナーによって視力を失った後も、予知に沿って行動するポールの姿は、未来を見通すことと自由に選ぶことの緊張を際立たせる。自分の名に結び付いた歴史の中で、一人の人間がどこまで主体的に動けるのか。その問いは、個人の声から集団の歌へ移る楽曲の構成とも響き合う。

「Desert Chant」をこの文脈で聴くと、独唱から合唱への変化は、個人の内面が公的な象徴へ変わる過程を連想させる。親密さと巨大さが同じ声から立ち上がる点に、この楽曲の面白さがある。ポールを演じるシャラメの歌唱が、その二つの距離を縮めている。

■小説への愛着から続く協働

WaterTower Musicの発表でジマーは、10代の頃に同じ小説に心を動かされた自分とヴィルヌーヴが、後に「創造的な兄弟」になったという趣旨を語った。若い頃の想像力に立ち返り、映画制作で培った技術によって、そのイメージを形にする協働だと説明している。

ジマーはアカデミー賞を2度、グラミー賞を5度受賞している。2025年のグラミー賞では『デューン 砂の惑星 PART2』が映像メディア向けスコア・サウンドトラック部門を受賞した。米Colliderが2025年3月に伝えた質疑応答では、第3作について「非常に複雑な作品」と表現していた。

ジマーは、Bleeding FingersとともにHBOのドラマ版『ハリー・ポッター』の音楽も担当する。作品公式サイトによると、同シリーズは2026年のクリスマスにHBOで開始予定だ。日本テレビは、日本では12月下旬にHuluで配信すると発表している。

「Desert Chant」はApple Musicなどの主要デジタル音楽サービスで配信中だ。『デューン 砂の惑星 PART3』はドゥニ・ヴィルヌーヴ監督による3部作の完結編となり、北米では2026年12月18日に劇場とIMAXで公開される。

元記事: War Chant Neuroscience: Desert Chant Reveals Dune Jihad’s Neural Entrainment Mechanism

関連記事

最新記事