AIエージェントの隔離実行基盤「Sandboxes」の利用拡大 米モーダルの年換算売上3億ドル規模に

2026年10月18日 14:35

AIインフラ企業米モーダル(Modal)は2026年10月14日、隔離コード実行環境「Sandboxes」の年換算売上規模が3億ドル(約474億円)に達したと発表した。同社全体の年換算売上規模は10億ドル(約1580億円)を超え、シリーズDで7億5000万ドル(約1190億円)を調達した。AIエージェントが生成したコードを実行する環境が、同社の主要事業の一つに育っている。

■5カ月で利用量が3倍、評価額は約3.4倍に

Modalの発表によると、今回の調達後の評価額は157億5000万ドル(約2兆4900億円)となった。2026年5月21日に発表したシリーズCの46億5000万ドル(約7350億円)と比べ、約5カ月で約3.4倍に上昇した。

シリーズCでは3億5500万ドル(約561億円)を調達し、年換算売上高が3億ドル(約474億円)を超えたと公表していた。CEOのErik Bernhardsson氏によると、その後に利用量は3倍となり、事業は前年同期比で15倍超に成長した。今回示した年換算売上規模は、直近の事業規模を年間ベースに換算した指標である。

シリーズDはAccelが主導し、Kleiner Perkinsが新たに参加した。既存投資家のMenlo Ventures、General Catalyst、Redpoint、Lux Capital、Amplify Partners、Bain Capital Venturesなども参加した。過去の公表調達額と今回の調達額を合計すると、累計は約12億ドルとなる。

■隔離コード実行を支えるSandboxes

Modalは2023年、大規模言語モデル(LLM)で生成したコードを実行する需要を受けてSandboxesを投入した。同社によると、2026年10月14日時点で累計起動数は約30億件に達し、最大100万件の同時実行に拡張できる。年換算3億ドル(約474億円)という事業規模は、全社の10億ドル(約1580億円)超と比較しておよそ3割に相当する。

Sandboxesは、信頼できないコードやAIが生成したコードを隔離して実行するための環境だ。標準の実行基盤にはgVisorを使い、仮想マシンを使う「VM Sandboxes」も選択できる。VM版は10月1日に一般提供が発表され、独自のLinuxカーネルを備える環境でDockerなどを動かせるようになった。

顧客の用途には、バックグラウンドで動くエージェント、AIによるアプリ開発、強化学習などがある。Modalが公開する導入事例では、Rampがコーディングエージェント「Inspect」にSandboxesを利用している。Cognitionも、強化学習向けの実行環境と本番推論にModalを使っている。

コードを書き、実行結果を確認し、修正を重ねるエージェントでは、実行環境も処理の一部になる。処理ごとに環境を分けて並列に動かせる仕組みは、多数の利用者から届く要求や、一度に発生する大量のジョブを扱ううえで役立つ。

強化学習でも、モデルが環境とやり取りして試行する過程を多数並行して実行する用途がある。Modalは7月の技術解説で、数千からさらに大規模な実行環境を並列に扱う需要を説明していた。エージェントの本番運用とモデル学習の双方に、隔離実行基盤の用途が広がっている。

■Pythonから使うサーバーレス基盤

2021年設立でニューヨークに本社を置くModalは、開発者に代わって計算資源の割り当てや拡張を管理する。AIモデルの学習、LLM推論、バッチ処理、エージェントの処理基盤などを対象とする。

同社は、Rustで構築した独自のコンテナ基盤に加え、ファイルシステム、イメージビルダー、スケジューラーなどを開発してきた。公式文書ではAWS、Google Cloud、Oracle Cloud Infrastructure上でコンテナを実行すると説明している。The Next Webによると、計算資源の調達先は20超のクラウドプロバイダーに及ぶ。

同社によると、コンテナは1秒未満で起動し、GPUの割り当てをゼロから1000基規模へ、数分、条件によっては数秒で拡張できる。起動時に必要なデータを優先して読み込む仕組みなどを通じ、処理開始までの待ち時間を短縮している。

中核機能の「Functions」では、通常のPython関数に「@app.function()」というデコレーターを付け、「.remote()」でクラウド側の実行を呼び出す。GPUを指定するなど、必要な計算資源もコードで設定する。開発者が個別のサーバーやKubernetesクラスターを管理する負担を減らす設計だ。

用途には、拡散モデルによる画像生成、音楽生成、vLLMやSGLangを用いたLLM推論、モデル学習がある。Modalによると、AI音楽サービスのSunoは、楽曲生成の負荷に合わせて数千基のGPUまで拡張し、需要が減ればほぼゼロまで縮小する形で同社基盤を利用している。

■創業者の経験と組織の拡大

Modalを共同創業したのは、CEOのBernhardsson氏とCTOのAkshat Bubna氏だ。Bernhardsson氏はスウェーデン出身で、ストックホルムのKTH王立工科大学で物理学を学んだ。2008年からSpotifyで働き、本人のインタビューによると2009年初めにフルタイム勤務を始めた。

Spotifyでは約6年間、音楽推薦システムの開発などに携わった。本人の経歴紹介では、Related Artists、Radio、Discover Weeklyを支える推薦技術の初期版を開発したと説明している。ワークフローエンジン「Luigi」と、近似最近傍探索ライブラリ「Annoy」のオープンソース化も手掛けた。

同氏の経歴紹介によると、LuigiはGitHubで1万超のスターを獲得している。その後はオンライン住宅ローン企業Better.comのCTOとして、約300人の技術組織を率いた。Bubna氏はModal創業前、Scale AIでエンジニアとして勤務していた。

Modalによると、2026年10月時点のチームは200人を超え、ニューヨーク、サンフランシスコ、ストックホルムに展開している。9月2日にはロンドン拠点の開設も発表した。Tech.euは8月、この拠点についてマーブル・アーチ地区に位置し、最大40人を収容できると報じていた。

■強化学習・事後学習と推論機能を拡充

Modalは、強化学習や事後学習に関する製品を投入する方針を示している。事後学習は、事前学習を終えたモデルを特定の用途や望ましい応答に合わせて調整する工程で、ファインチューニングや強化学習などが用いられる。

複数の計算ノードを連携させるマルチノード学習基盤は、すでに提供を始めている。同社によると、単一のデコレーターでRDMA接続されたクラスターを利用でき、あらかじめ計算資源の利用を確約する契約も不要だ。学習、推論、隔離実行環境を組み合わせ、モデルの改善から運用までを支える狙いがある。

推論分野では、HTTPサーバー向けの「Modal Servers」を展開している。10月12日には「Endpoint Candidates」の一般提供も発表した。本番リクエストの一部を別の構成にも複製し、品質、遅延、処理量、コストを評価したうえで、本番構成へ切り替えられる機能だ。

MetaやMistralなどがモデルの重みを公開し、企業がモデルを自社用途に合わせて調整する選択肢は広がっている。独自データによる追加学習、報酬モデルの構築、継続的な改善では、学習と評価を繰り返すための計算基盤が重要になる。需要に応じて資源を増減し、多数の処理を並列に動かすModalの設計は、こうした用途にも対応する。

■大型調達が続くAIインフラ市場

近い領域の企業でも、大型調達が続いている。Basetenは2026年6月22日、シリーズFで15億ドル(約2370億円)を調達し、評価額が130億ドル(約2兆500億円)に達したと発表した。

Fireworks AIは7月15日、シリーズDで15億500万ドル(約2380億円)を調達し、評価額が175億ドル(約2兆7700億円)となったと発表した。両社とも推論基盤に加え、顧客に合わせたモデルの調整や事後学習を事業領域に含めている。

Modalは、サーバーレス計算、隔離コード実行、モデル学習を共通の基盤で扱える点を打ち出す。Pythonを中心に計算資源や処理を定義できる開発体験と、複数のクラウドから集めた資源の管理を組み合わせる構想だ。

Sandboxesが単体で年換算3億ドル(約474億円)規模に育ったことは、AIモデルを動かす計算資源に加え、モデルが生成したコードを実行する場所にも大きな需要があることを示している。学習、推論、エージェント実行をつなぐ機能の拡充が、Modalの次の成長を左右する。

元記事: Modal Labs Sandboxes Hits $300M Run Rate: Isolated Code Execution Becomes Its Own Market

関連記事

最新記事