アメックス、AIエージェントの購入意図を決済に引き継ぐ枠組みを公開
2026年10月17日 12:54
American Express(アメックス)は2026年10月13日、AIエージェントによる購入に利用者の指示を反映するための枠組み「Intent Intelligence」を公開した。加盟店や予算上限などの条件を利用者が確認し、決済用の認証情報に結び付ける設計だ。同社は、カード発行会社が購入前に承認済みの条件を把握し、取引の判断に使えるようにすることを目指している。
■購入の指示を決済まで引き継ぐ
AIエージェントを介した買い物では、利用者が指示を出してから、エージェントが商品を選び、加盟店で決済するまでに複数の段階がある。例えば、指定したブランドと異なる商品をエージェントが選ぶ可能性がある。アメックスの枠組みは、利用者が承認した条件を記録し、後の購入要求と照合するための情報として引き継ぐ。
一般的な決済トークンは、カード番号の代わりとなる値を使い、番号そのものを取引先に渡さずに決済できるようにする。購入条件の管理には、別途その情報を記録し、決済と関連付ける仕組みが要る。Intent Intelligenceは、その役割を担うサービスとして、同社の「Agentic Commerce Experiences(ACE)Developer Kit」に組み込まれている。
アメックスのAgentic Partnerships and Strategy担当バイスプレジデント、Hannah Bozian氏はTechCrunchに対し、利用者の意図を取引のより早い段階に取り込むことで、リスクの軽減につなげたいと説明した。同氏は、利用者がNikeの靴を指定したのにエージェントがAdidasの靴を購入しようとする例を挙げている。Bozian氏は10月13日、サンフランシスコで開かれたTechCrunch Disrupt 2026にも登壇した。
■購入意図を記録する4段階の設計
まず「Create Intent API」で、加盟店、予算上限、商品に関する希望などを含む購入指示を扱う。利用者はエージェントが捉えた内容を確認し、本人認証を経て承認する。アメックスは、意図を収集するAIモデルやサービスが異なっても使える設計としている。
承認後には、購入意図を識別する「Intent ID」と、条件の概要を表す「Proof of Intent Token」が発行される。アメックスの技術文書によると、後者はJSON Web Token形式だ。このトークンを使って、承認済みの条件に応じた決済用の認証情報を取得し、エージェントは利用者の実際のカード番号に代えて決済時に使う。
Intent IDとProof of Intent Tokenは、購入要求が承認内容に沿うかを確かめる際のほか、不正対策、決済承認、紛争対応にも利用する構想だ。技術文書では、利用者が意図を更新・取り消せるサービスも示されている。トークンには利用者が確認した期限を設定でき、条件に応じて、単一または複数の加盟店で使う決済用認証情報の発行に利用できる。
同文書は、購入金額や加盟店の希望に加え、購入期限、取引回数、商品間の条件なども扱う。例えば、ある商品を買えた場合だけ別の商品も購入する、といった指示を表現できる。継続的な注文や複数店舗での買い物では、こうした条件を取引ごとに参照することが重要になる。
■ACEの開発と利用者保護
ACE Developer Kitは2026年4月に発表された。アメックスによると、エージェントの登録、カード会員のアカウント有効化、Intent Intelligence、決済用認証情報、カート情報の共有という5つのサービスを含む。発表時点では一部が開発中で、利用できる機能は連携先や実装によって異なる。
同社は4月、登録済みAIエージェントの誤りによる請求から、条件を満たすカード会員を保護する「Amex Agent Purchase Protection」も発表した。対象や条件を伴う将来の提供方針として示したもので、購入意図を記録する仕組みは、その判断材料にもなる。アメックスは、AIエージェントに起因する紛争の増加はまだ確認していないとTechCrunchに説明している。
アメックスがTechCrunchに示したTrendex調査では、米国の回答者の66%が今後12カ月以内にAIエージェントを商品・サービスの最安値調査に使う可能性が高いと答え、61%が推薦に使う可能性が高いと答えた。同社は提携先との試験運用でAIを使った取引を数千件完了したとしている。調査で示された利用意向を背景に、購入条件を扱う基盤の整備を進めている。
■業界の共通仕様と各社の動き
アメックスは、カード発行、決済ネットワーク、加盟店との取引に関わる機能を持つクローズドループ型の事業構造を、意図に基づく承認や紛争対応に生かす方針だ。2026年の株主向け書簡では、会員サービスと自社ネットワークをAIを介した商取引の強みとして挙げた。2025年の売上高は722億ドル(約11兆4000億円)で前年比10%増、1ドル=158円で換算すると約11.4兆円となる。
同社は4月、AIを活用した経費管理を手がけるHypercardの買収契約締結も発表した。法人向けの経費管理機能を広げる取り組みとして位置付けている。買収の発表とIntent Intelligenceの公開は、いずれも同社がAIを介した取引や業務に投資する動きの一部だ。
決済仕様を策定するEMVCoは2026年10月9日、カードを使うエージェント決済に向けた仕様の枠組みの草案を公表した。草案には、利用者が承認した意図を取引の前後で登録・参照・管理する「Intent Services」の考え方が含まれる。アメックスもEMVCoでの協議に参加し、インターネット上の決済標準を扱うLinux Foundationのx402 Foundationを支援している。
■並行して進む決済・商取引の整備
Visaは2026年4月、AIエージェントを使う事業者向けに「Intelligent Commerce Connect」を発表した。Visaによると、単一の連携でVisa以外のカードにも対応する設計で、発表時点では一部の提携先と試験運用中だった。MastercardはAgent Payを展開し、2026年には企業のエージェント活用を支援するAgent Suiteや、加盟店向けのAgent Connectを発表している。
商取引の手順を扱う仕様も広がる。OpenAIは「Agentic Commerce Protocol」、Googleは「Universal Commerce Protocol」、Stripeは「Machine Payments Protocol」を公開した。不正対策を手がけるForterも、加盟店がエージェント経由の取引を扱うための機能を提供している。決済、商品情報の受け渡し、加盟店側の確認など、各社が整備する範囲はそれぞれ異なる。
家庭用品の補充や旅行予約、企業の調達のように、利用者が条件を指定してエージェントに任せる場面では、承認した内容を後の取引で参照する必要がある。アメックスが公開した枠組みは、利用者の指示を記録し、決済用認証情報や購入後の対応までつなぐための設計を示している。
元記事: AmEx Releases Agentic Payment Standard That Declines Rogue AI Purchases Pre-Checkout