MastercardとBVNK、法定通貨とステーブルコインを扱う「Global Money Platform」発表
2026年10月17日 12:51
MastercardとBVNKは2026年10月15日、銀行、フィンテック企業、一般企業向けに「Mastercard Global Money Platform」を発表した。法定通貨とステーブルコインの残高管理、交換、カード利用、現地銀行口座への送金を単一のAPIで扱う。BVNKを通じて提供を始めており、銀行口座への送金範囲は2027年に40超の通貨、200超の国・地域へ拡大する計画だ。
■口座、カード、送金を一つの基盤に
中核となるのは、法定通貨とステーブルコインを並べて保有し、必要に応じて交換できる複数通貨の口座だ。金融機関や企業は口座機能を自社サービスに組み込み、異なる通貨での入金や支払いを管理できる。MastercardとBVNKは、企業が必要な機能から導入し、後で追加できるモジュール型の設計だと説明している。
カード機能を使えば、顧客はステーブルコイン残高をMastercardの加盟店での支払いに充てられる。両社の発表では、カード発行は130超の国・地域で可能とされる。加盟店での支払いには既存のカード決済網を利用する仕組みだ。
銀行口座への送金には、170億超の送金先につながる資金移動サービス「Mastercard Move」を組み合わせる。ステーブルコイン残高を現地通貨での支払いに利用し、受取人の銀行口座へ届ける。送金先の国・地域や通貨によって利用できる範囲は異なるため、導入企業には個別の確認が必要になる。
例えば複数国の取引先に支払う企業では、通貨ごとに別の口座や事業者を使い分ける負担がある。今回の基盤は、入金管理から通貨交換、支払いまでを一つの接続で扱うことを狙う。Mastercardのデジタル資産担当幹部Raj Dhamodharan氏は、従来の決済基盤とBVNKのステーブルコイン機能を結び付ける取り組みだと説明した。
■BVNK買収でつながる決済網
Mastercardは2026年3月、BVNKを条件付きの支払い3億ドル(約474億円)を含む最大18億ドル(約2844億円、1ドル=158円換算)で買収する契約を発表し、8月3日に取引を完了した。Global Money Platformは、買収後に両社の機能を統合した最初の主要サービスとなる。
Mastercardは買収前から、ブロックチェーン上の取引に関わる「Multi-Token Network」や、デジタル資産の送受信に用いる認証基盤「Crypto Credential」を展開していた。BVNKは、ステーブルコインと法定通貨の間の交換や送金を支える技術を持つ。今回の基盤では、それらをMastercardの決済網と組み合わせる。
BVNKは2026年1月、自社が年間300億ドル(約4兆7400億円)超のステーブルコイン決済を処理していると公表した。9月のMarqetaとの提携発表では、年間換算の取扱額を390億ドル(約6兆1600億円)超としている。同社は2026年1月にリトアニア銀行の「CENTROlink」を通じた欧州の即時ユーロ送金への直接接続、2月にはマルタで暗号資産市場規制に基づくサービス提供者の認可取得も発表した。
BVNKの共同創業者兼最高事業責任者Chris Harmse氏は、Global Money Platformを多様な形態の資金を扱う基盤として位置付けた。単一の接続で口座、カード、送金を利用できることは、企業が決済の各工程を別々の事業者に接続する手間を減らす狙いにつながる。
■NuveiやMarqetaが初期の統合企業に
両社は初期の統合企業として、Nuvei、Marqeta、Ontop、Beem、Almond FinTechの5社を挙げた。決済事業者のNuveiとカード発行基盤を手掛けるMarqetaは、それぞれの顧客向けサービスに機能を組み込む予定だ。Nuveiの会長兼最高経営責任者Phil Fayer氏は、企業が資金を管理・移動する方法の選択肢を広げると述べた。
MarqetaとBVNKは今回の発表に先立つ9月9日、ステーブルコイン残高を使うカード機能の開発で提携を発表していた。Marqetaの顧客にはCash App、Uber、DoorDashなどがある。両社の連携は、ウォレットやカードにステーブルコイン関連の機能を組み込む用途を想定する。
BVNKとYouGovによる2026年の調査では、調査対象となった暗号資産の保有者らの77%が、銀行やフィンテック企業のアプリで提供されればステーブルコインのウォレットを開設したいと回答した。調査は15カ国の成人4658人を対象に実施された。こうした利用意向は、金融アプリに残高管理とカード利用を組み込む取り組みの背景となる。
■企業間決済の需要と、Visaの取り組み
ステーブルコインの取引額と、商品・サービスの支払いに使われた額は区別して見る必要がある。Artemisのデータを引用したCircleによると、2026年2月のステーブルコインの月間移転額は7兆2000億ドル(約1140兆円)で、米国の銀行間決済網ACHの6兆8000億ドル(約1070兆円)を上回った。一方、この移転額には取引所での売買や資金の移し替えなども含まれる。
McKinseyとArtemisは、2025年に実際の支払いに使われたステーブルコインの額を約3900億ドル(約61兆6000億円)と推計した。このうち企業間決済は約2260億ドル(約35兆7000億円)で、前年比733%増だった。ただし、推計対象は国境をまたぐ決済だけに限らない。企業間の国際送金は、今回の基盤が対象とする用途の一つだ。
Mastercardは2026年6月、カード取引の決済で利用できるステーブルコインを拡充する計画を発表した。対象にはUSDC、PYUSD、USDG、USDP、RLUSD、SoFiUSDが含まれ、対応するブロックチェーンとしてArbitrum、Base、Ethereum、Solana、XRP Ledgerなどを挙げた。これはカード取引の決済に関する計画であり、Global Money Platformで利用できる銘柄や送金先は個別に確認する必要がある。
競合のVisaは7月16日、金融機関などがステーブルコインを保有・移転・償還するための「Visa Stablecoin Platform」を発表した。Open Standardが導入した「Open USD」から対応を始め、一部の顧客向けにベータ提供している。Visaが2025年の年次報告書で示したネットワーク規模は、約1万4500の金融機関と1億7500万超の加盟店だ。
MastercardとVisaは、American Express、Stripe、Coinbase、BlackRockなどとともにOpen Standardにも参加している。両社は共通のステーブルコイン構想に加わりながら、それぞれ企業向けの決済基盤を整えている。Global Money Platformは口座、カード、銀行口座への送金を一つの接続で提供し、Visaの基盤は金融機関などがステーブルコインを発行・管理する環境を中心に据える。
■将来の機能と導入時の確認点
MastercardとBVNKは、将来の対応分野としてAIエージェントが関わる商取引とトークン化預金を挙げた。トークン化預金は、銀行預金をデジタルのトークンとして表す仕組みだ。Mastercardは6月、ソフトウェア同士による高頻度・少額の支払いを想定した「Agent Pay for Machines」も発表している。
企業が導入を検討する際には、対象となる送金先、通貨、利用条件を確認する必要がある。現地通貨への交換、銀行口座への入金、取引の確認に要する時間は、送金経路ごとに異なる。ブロックチェーン上での移転が速くても、受取人の口座への入金まで同じ時間で完了するとは限らない。
BVNKはマルタで暗号資産関連の認可を取得しているが、企業が顧客向けサービスを提供する際の確認事項は事業内容と地域によって変わる。GlobalDataのアナリストMurthy Grandhi氏は、ステーブルコインを使う決済では、現地通貨への交換に加え、顧客対応や取引上の問題を処理する仕組みが必要になると指摘している。導入企業にとっては、利用する送金経路と顧客対応の条件を確かめることが実務上の焦点となる。
元記事: Mastercard Launches Global Money Platform: Single API Pays Bank Accounts in 200 Countries