階層型世界モデル「HWM」、ロボットのカップ配置に70%成功 論文が実機実験を報告
2026年10月17日 12:51
階層型世界モデルを使う計画手法「HWM」の研究チームは、ロボットアームにカップをつかんで指定位置へ運ばせる実験で、成功率70%を報告した。同じ条件で階層を持たない計画手法の成功率は0%だった。結果は研究室内の実験によるもので、複数の操作をどう計画するかに焦点を当てている。
■カップの配置は70%、箱の配置は60%
HWMの論文では、自由度7のFranka Emika Pandaアームと2本指のグリッパーを使用した。現在の状態と最終的な配置を示す画像を与え、カップと箱をそれぞれ移動させた。研究チームによると、カップは50回中35回の70%、箱は50回中30回の60%で成功した。
比較対象の単一階層のV-JEPA 2-AC計画器は、カップと箱のどちらも成功率0%だった。HWMと比較対象の下位世界モデルは、同じ構成と学習データを使っている。論文では、引き出しの開閉課題でもHWMが70%、単一階層の計画器が30%だったと報告している。
研究チームは、人が中間目標の画像を用意した条件も調べた。この条件では、単一階層の計画器もカップと箱の両方で80%に達した。HWMが示した成果は、最終目標の画像から作業の途中で目指す状態を自動的に定めた点にある。
■遠回りが必要な作業をどう計画するか
カップを指定位置へ置くには、ロボットはまずカップに近づき、つかんでから運ぶ。現在の画像を最終目標の画像へ一足飛びに近づけようとする計画では、この順序を見いだしにくい。世界モデルは、候補となる行動の後にどのような状態になるかを予測し、行動選択に役立てる仕組みだ。
HWMは時間の尺度が異なる上位と下位の世界モデルを組み合わせる。上位モデルは複数の細かな動作をまとめた「マクロ行動」で先の状態を予測し、その予測を中間目標として下位モデルに渡す。下位モデルは短い時間幅で具体的な動作を探す。
両モデルは画像を共通の潜在表現に変換する。潜在表現とは、画像から取り出した特徴を数値で表したものだ。共通の表現を使うため、上位モデルが示す中間状態を下位モデルの目標として扱える。
ロボットは短い動作を実行した後、新しい観測を基に計画し直す。この反復により、最初に決めた長い動作列に頼らず、途中の状態を見ながら次の行動を選ぶ。論文では、上位モデル用のマクロ行動を細かな動作の列から学習している。
■学習データとV-JEPA 2の関係
HWMの実機実験で使った世界モデルは、論文によるとDROIDの約96時間分とRoboSetの約30時間分、合計約130時間のラベルなしロボット操作データで学習した。下位モデルには、MetaのV-JEPA 2-ACの学習方法を用いた。上位モデルとマクロ行動を扱う仕組みも学習している。
Metaが2025年に発表した先行研究のV-JEPA 2-ACは、62時間未満のDROIDのロボット動画で追加学習されていた。HWMの実機実験で報告された約130時間は、それとは別の学習条件だ。HWMの論文は2026年4月に公開され、10月に改訂された。
基盤となるJEPAは、画像の画素をそのまま再現する代わりに、画像から得た潜在表現を予測する自己教師あり学習の考え方に基づく。人手で作業名を付ける必要がない動画も学習に利用できる。一方、実機実験のデータには画像に加え、ロボットの手先の状態と動作の情報も含まれる。
■他の手法との比較で分かること
論文は視覚・言語・行動モデル(VLA)とも比較した。カップ配置の成功率はOctoが0%、π0-FAST-DROIDが52%、π0.5-DROIDが68%で、HWMは70%だった。箱配置ではそれぞれ0%、18%、36%に対し、HWMは60%だった。
研究チームによると、HWMのロボット操作用の学習データ量は比較対象のVLAより大幅に少ない。ただし、HWMとOctoは目標画像を使い、π系のモデルは言語指示を使う。数字は論文で設定した課題と入力条件における比較として読む必要がある。
シミュレーションでも、75ステップ離れた状態を目指すPush-T課題の成功率は、単一階層のDINO-WMの17%から、階層化した場合の61%になった。未見の地図を使う迷路課題では、最も長い距離の条件で44%から83%になった。論文は、長い時間幅の計画で計算量を最大約3分の1に抑えられたとも報告している。
これらの結果は、学習済みの世界モデルをどのように計画へ使うかが、作業の成否や計算負荷に影響することを示す。実機の評価は限られた物体と研究室環境で行われた。製造現場での利用を判断するには、物体や照明、遮蔽、安全条件が変わる環境での評価が次の課題となる。
■ソウルで進むフィジカルAIの議論
韓国科学技術情報通信部は2026年10月13~14日、ソウルのCOEXで「Physical AI Tech Week」を開催した。初日は官民の連携や2027年の事業計画を扱い、翌日の「Physical AI Tech Day」ではロボット基盤モデル、AI工場、デジタルツインなどが議題になった。韓国の報道によると、13日の催しには約400の企業・機関を含む約500人が参加した。
現地メディアNEXTMADEによると、AMI Labsは14日午後のデータ標準化を扱う技術セッションに名を連ねた。同社は世界モデルの研究を進める企業で、ヤン・ルカン氏が共同創業した。HWM論文にもルカン氏は著者として参加している。
■AMI Labsと関連研究の動き
AMI Labsは2026年3月、10億3000万ドル(約1627億円、1ドル=158円換算)の資金調達を発表した。調達前の企業価値は35億ドル(約5530億円)で、出資者にはNVIDIA、Samsung、Toyota Venturesが含まれる。同社は製造業、医療・生命科学、ロボティクスなどを世界モデルの応用先に挙げている。
日本語の公式発表では、Samsungは2030年までに世界の製造拠点を「AI-Driven Factories」へ移行する戦略を示している。工場でAIを使う構想が広がるなか、ロボットが複数段階の作業を安定して実行できるかは重要な評価点になる。
関連研究の「H-JEPA」は、階層ごとに異なる潜在表現を学習する手法だ。研究チームはシミュレーションのVisual AntMaze課題で、単一階層の18%に対し、3階層で73%の成功率を報告した。また、VLA-JEPAやJEPA-WAMの論文も、潜在表現を使った予測と言語指示に基づくロボット動作の接続をそれぞれ探っている。
元記事: AMI Labs’ Robot Planner Hit Seventy Percent Pick-and-Place With No Extra Training Data