ビル・ゲイツ氏、AI安全対策への関与拡大 「人間専用の仕事」やAI課税を提唱
2026年10月17日 12:40
マイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツ氏が、人工知能(AI)の安全対策への関与を大幅に強めようとしている。企業経営者らに働きかけ、自身の資金や影響力を投入することも検討しており、規制強化を訴える姿勢は、AI開発の加速と規制負担の抑制を重視するトランプ政権との隔たりを鮮明にしている。米ニュースサイトAxiosが15日、ゲイツ氏と協議した関係者の話として報じた。
ゲイツ氏はAI研究者や業界幹部、安全対策の専門家らと幅広く協議しており、アンスロピックのダリオ・アモデイ最高経営責任者(CEO)とも意見を交わした。高度なAIモデルの能力向上や相次ぐ安全上の問題、規制の不足に懸念を強めているという。
Axiosによると、ゲイツ氏はAI安全対策について相談した人物に対し、「あなたより私のほうがCEOたちに働きかけられる」と述べた。自身の企業経営者との人脈を活用する考えを示した発言である。
ゲイツ氏はAIリスクへの対応を、生涯で取り組む最重要課題の一つと位置付けるようになったという。一方、現時点で具体的な活動の枠組みや資金投入額などは明らかになっていない。
■AIで「多くの仕事が永久に消える」
ゲイツ氏は8月26日に自身のウェブサイト「Gates Notes」で公表した長文の寄稿でも、AIが社会にもたらすリスクに強い懸念を示した。
寄稿では、AI時代への移行に伴う大きなリスクとして、多くの雇用が永久に失われること、悪意ある人物の能力をAIが増幅すること、AIが子どもの発達を阻害し人間関係を代替する恐れがあることを挙げた。
AIは従来の技術革新とは異なり、人間の認知作業そのものを代替できると指摘。法律、顧客対応、医療、ソフトウエア、製造など幅広い分野に影響が及ぶと予想した。
特に影響を受けやすいのは初級・中級レベルの仕事だとしている。新たな仕事も生まれるものの、多くは習得に長期間を要する技能を必要とするため、適切な政策がなければ失われる仕事のほうが多くなるとの見方を示した。
■「人間専用」の仕事を設定
対策の一つとして、ゲイツ氏は一部の仕事を人間だけが担う「Human Reserved(人間専用)」の領域として残す構想を提案した。
AIやロボットが技術的には仕事をこなせるようになっても、雇用への影響や人間が担うこと自体の社会的価値を考慮し、一部の業務では導入を制限する考え方である。
医療分野では、治療不能な病気であることを患者に告知する仕事をロボットに任せるべきではないとの例を挙げた。教育やメンタルヘルスなどでは、人間が中心となりAIを補助的に活用する形も想定している。
ゲイツ氏はAIトークンやロボットへの課税も提案した。人間を雇用すれば給与に対して税負担が生じる一方、ロボットへの投資は事業経費として扱える場合があり、税制が機械への置き換えを促す方向に働いていると指摘した。
課税によって人間の労働からAIやロボットへの急速な移行を抑えるとともに、税収を失業者の再訓練や社会的なセーフティーネットの強化に充てる考えである。
■国内外にAI政策を統括する新組織
ゲイツ氏は既存の行政組織だけではAIへの対応が難しいとして、政府機関を横断して政策の優先順位を調整する新たな国内組織の設置も提唱した。
AIは国家安全保障だけでなく、雇用、教育、税制、エネルギー、選挙、公衆衛生、金融、法執行、交通など幅広い分野に影響するためである。
国境を越えるリスクに対応する国際組織も必要だとした。核を巡る査察制度や国際航空の規制、オゾン層保護のための国際協定などを、制度設計の参考例として挙げている。
一方、世界的にAI開発そのものを減速させることについては、信頼できる仕組みがあれば支持する可能性があるとしつつ、経済競争や地政学的な競争を考えれば実現する可能性は低いとの見方を示した。
■トランプ政権は自主的な枠組みを重視
ゲイツ氏が求める規制強化は、ドナルド・トランプ米政権のAI政策とは方向性に違いがある。
トランプ大統領は6月2日、「先進AIのイノベーションと安全保障の促進」に関する大統領令に署名した。米国のAI開発を促進しながら、サイバーセキュリティーや重要インフラの防御を強化することを狙ったものである。
大統領令は、対象となる最先端AIモデルについて、開発企業と連邦政府が協力する自主的な枠組みの構築を指示した。企業は一定の機密保持や知的財産保護などを前提に、モデルをほかの信頼できる提携先に提供する最大30日前から、連邦政府にアクセスを認めることができる。
一方、大統領令はAIモデルの開発、公表、公開、流通について、政府による強制的な免許制度や事前承認、許可制度を新設する権限を与えるものではないと明記している。
トランプ政権は過度な規制を避け、米国のAIイノベーションを加速させながら安全保障上のリスクに対応する方針を掲げている。
ゲイツ氏はこれに対し、AI企業だけに技術の統治方法を委ねるべきではないとの立場を取る。AIがサイバー攻撃や詐欺などの悪用を容易にする危険性にも警鐘を鳴らしている。
ゲイツ氏の姿勢は2023年当時から大きく変化した。同年7月には「AIのリスクは現実のものだが、管理可能だ」と題する寄稿で、パソコンやインターネットなど過去の技術革新を例に、社会はAIのリスクにも対応できるとの楽観的な見方を示していた。
AIの能力が急速に高まるなか、ゲイツ氏は今後、自身の時間や影響力を使ってAIと公平性を政策課題として前面に押し出し、各国の指導者やAI開発企業への働きかけを強める方針である。