アンソロピック、シンガポール政府とAI安全性で覚書 モデル評価や人材育成で協力

2026年10月17日 11:39

アンソロピックは2026年10月13日、シンガポールのデジタル開発・情報省(MDDI)と人工知能(AI)に関する覚書を締結した。翌14日には同国のオフィス開設を発表した。覚書はAIの安全性やモデル評価に加え、官民での責任ある導入や、AI利用の影響に関する調査も対象とする。

■モデル評価から人材育成まで協力

覚書はシンガポール国際サイバーウィークの会期中に署名された。MDDIのチョン・カイフォン事務次官とアンソロピック共同創業者のベン・マン氏が署名し、ジョセフィン・テオ・デジタル開発・情報相らが立ち会った。第11回ASEANサイバーセキュリティ閣僚会議は翌14日に開かれた。

アンソロピックの発表によると、同社はシンガポールのAI安全性・セキュリティ関連機関と、モデル評価、試験基準、インシデント対応について技術交流を進める。中小企業による責任あるAI導入、公務員のAI活用能力の向上も支援する方針だ。AIの利用状況を分析する「Anthropic Economic Index」の研究・データを政府と共有し、制度づくりにも技術・政策面の知見を提供する計画としている。

マン氏は、シンガポールにはモデルの試験・評価に投資してきた実績があると述べた。チョン氏は、企業や働く人々、市民が安心してAIを使うには信頼が重要だとし、責任ある導入を広げる考えを示した。

■シンガポールのAI安全性評価の実績

シンガポールのAI安全性研究所(AISI)は、南洋理工大学のデジタル・トラスト・センターを基盤とする。同センターには設立時、シンガポール情報通信メディア開発庁から5,000万シンガポールドル(約61億8000万円)の資金が充てられた。AISIは日本などの機関も加わる国際的な評価ネットワークに参加している。

2025年にはシンガポール、日本、英国のAISIが主導する共同演習で、シンガポール側が10言語のモデル評価を実施した。言語によって安全対策の働き方や評価結果がどう変わるかを調べ、英国の評価ツール「Inspect」を用いるサイバーセキュリティ評価にも取り組んだ。

韓国のAISIとの共同研究では、ツールを使って複数の手順を実行するAIエージェントを、顧客対応など12の現実的なタスクで評価した。研究報告は、作業を完了できた場合でも機微な情報の扱いに問題が生じ得るとして、タスクの達成とデータ管理を分けて評価する必要性を示している。こうした実績は、今回の覚書が掲げる評価手法の技術交流を理解する背景となる。

■政府機関や企業で進むClaudeの利用

アンソロピックの2026年10月の発表によると、同社の利用状況調査で、シンガポールは人口規模を考慮したClaude.aiの利用が121カ国中2位だった。人口規模だけから予測される水準の約6倍に当たるという。

同社によれば、シンガポール政府技術庁では1,500人超のエンジニアや技術職員がClaude Codeを採用し、政府システムの開発・保守に使っている。同国のサイバーセキュリティ庁も、サイバー防衛にClaudeをどう活用できるか検討している。

金融分野では、DBSがシンガポールでのソフトウェア開発や日常業務にClaudeを利用し、政府系投資会社GICも投資部門などへの展開を進める。AWSによると、Amazon Bedrockではシンガポールのリージョン内でClaude Sonnet 5の推論を処理できる。データの処理場所に要件がある組織にとって、利用方法の選択肢となる。

アンソロピックの発表では、Grabの営業支援ツール「BriX」はClaudeを使い、営業チームの作業時間を四半期当たり約4万時間削減している。Seaは傘下のShopeeの顧客対応チャットボットや従業員のコーディングにClaudeを活用し、SupabaseもClaude Codeを用いた開発を進めている。

■エージェント型AIを巡る安全対策

エージェント型AIは、目標に応じて手順を組み立て、外部ツールやデータを使いながら作業を進める。シンガポールのサイバーセキュリティ庁は2026年6月、こうしたシステムの安全対策に関する指針の追補を公表した。開発から運用までのリスクを調べ、アクセス権限や人による監督などの対策を講じるための資料である。

AISIによるAIエージェントの評価も、機微な情報の漏えいや不適切な行動に目を向けている。一方、アンソロピックとの覚書で公表された技術交流の対象は、モデル評価、試験基準、インシデント対応である。シンガポール政府は2026年10月の議会答弁で、開発企業との協力を通じてモデルに関する情報やアクセスを必要に応じて得る方針を示した。

サイバーセキュリティ分野では、アンソロピックが限定的なパートナーに提供した「Mythos Preview」を、脆弱性の発見に活用するProject Glasswingを進めている。同社によると、このモデルは主要なOSやブラウザでも脆弱性を発見した。シャンムガム上級相は10月13日、主要な技術企業に対し、問題発生時の迅速な情報共有と透明性を求めた。

■他社との協力とシンガポール拠点

シンガポール政府は2026年5月、OpenAIとも覚書を締結した。OpenAIによる3億シンガポールドル(約371億円)超の投資を伴い、米国外で初の応用AI研究拠点と、今後数年間で200人超の技術職を設ける計画だ。6月にはシンガポール情報通信メディア開発庁とマイクロソフトが、エージェント型AIの共同研究や評価手法の開発などで覚書を交わした。

アンソロピックは14日、ラッフルズ・プレイスにアジア太平洋地域で5拠点目となるオフィスを開設した。ASEAN担当ゼネラルマネジャーのデール・フィンレー氏は、現地チームを置くことで、信頼性やセキュリティを重視する顧客と緊密に連携できると述べた。同日に開かれた同社の開発者向けイベントには300人超が参加し、週の前半の地域交流会にも700人超が集まったという。

アンソロピックは2023年、シンガポールの生成AI評価事業に参加し、その後、英語、中国語、マレー語、タミル語による安全性の検証でも協力した。GICは2026年2月、同社の300億米ドル(約4兆7,400億円)のシリーズG資金調達を主導し、調達後の企業評価額は3,800億米ドル(約60兆400億円)となった。5月のシリーズHにもGICとテマセクが参加している。

元記事: Anthropic MoU Brings Claude Into Singapore Agentic AI Test Framework at SICW

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