Googleが「Deep Review」を一般公開、論文の事前点検を支援 AMIEの臨床研究も報告
2026年10月16日 11:46
Googleは10月14日、米カリフォルニア州マウンテンビューで開いたResearch@ 2026で、文書検証AI「Deep Review」を一般公開した。論文投稿前の点検に使われてきた技術を、設計書や契約書などにも広げる。同じ発表では、対話型医療AI「AMIE」を実際の診療前に使った研究も紹介した。
■論文投稿前の点検から一般公開へ
Googleによると、Deep Reviewの前身は「Paper Assistant Tool(PAT)」である。STOC 2026、ICML 2026、NeurIPS 2026、ICLR 2027の著者向けに、計1万6000本超の原稿について非公開のフィードバックを提供した。著者が任意で利用する仕組みで、学会の正式な査読とは切り離されていた。
Googleが示した集計では、ICLR、NeurIPS、ICMLの投稿数は2023年の約2万3000本から2026年には7万4000本超に増えた。投稿の増加は、各論文を精査する研究者や査読者の負担にも関わる。一方、AIによる執筆が投稿増加にどの程度寄与したかは、この集計だけでは測れない。
ICML 2026の運営委員会は、査読での大規模言語モデル利用に関する規則に違反した査読者を確認し、そのうち投稿論文を持つ398人に対応する497本を不採択にしたと公表した。問題とされたのは、各査読者が同意した利用規則への違反である。論文作成だけでなく、査読でのAI利用をどう管理するかも課題になっている。
PATの試験利用後、ICML 2026の参加著者からは869件のアンケート回答が寄せられた。会議運営委員会とGoogleの報告によると、理論を含む論文の著者のうち35.4%が、修正に1時間超を要する重要な理論上の問題をPATが指摘したと回答した。実験結果を含む論文の著者では31%が、指摘を受けて新たな実験を行ったと答えた。
Googleの研究報告では、STOCの回答者124人のうち11.6%が、修正に1時間超を要する理論上の問題を指摘されたと回答した。フィードバックを「非常に有用」または「おおむね有用」とした割合は92.7%で、85.1%は論文の明確さや読みやすさが改善したと答えた。これらは試験利用者への調査結果であり、投稿論文全体における誤りの発生率を表す数値ではない。
■Deep Reviewは文書を分けて検討する
Deep Reviewは、長い文書を一度に評価する代わりに、4段階で検討する。まず文書を方法、実験、関連研究などの論理的な部分に分け、内容の複雑さに応じて各部分へ推論のための計算量を配分する。数学的な証明など、精査に時間がかかる箇所へ処理を集中させる設計だ。
次に複数の推論エージェントが担当部分を並行して調べる。各エージェントは文書全体も参照できるため、別の節にある前提や結果との関係を確認できる。最後に統合エージェントが指摘をまとめ、節をまたぐ整合性や外部情報との照合を行う。
Googleは、この仕組みを論理上の問題や数学的記述の確認、根拠の点検、改善案の提示に使うとしている。現行版にはGemini 4 Argonのサポートが加わった。一般公開に伴い、利用者は週2件まで無料で文書レビューを受けられ、Gemini APIキーを接続すると利用上限の引き上げやAPIからの利用が可能になる。
公開時点の入力形式はPDFとプレーンテキストで、複数ファイルへの対応は今後の予定だ。Googleは設計仕様書、プレゼンテーション、財務文書、法的文書も利用例に挙げる。アップロードした文書はモデルの学習や改良に使わず、画面表示のために1年間保存すると説明している。
■AMIE、医師の監督下で診療前の対話を実施
Googleと米ベス・イスラエル・ディーコネス医療センター(BIDMC)の研究者によるAMIEの前向き研究は、10月8日に医学誌「The Lancet」に掲載された。AMIEは患者の症状や病歴をテキスト対話で聞き取り、考えられる診断や医師向けの要約を作る研究用システムである。
研究は2025年4~11月にBIDMCの一つの外来診療所で行われ、114人が登録された。このうち98人がAMIEとの対話と、その後の医師の診察を完了した。患者は予約した診察の前に自宅から対話し、すべての対話を内科医がリアルタイムで監督した。
BIDMCによると、完了した98件の対話では、事前に定めた基準に基づく安全上の中断はなかった。監督医は誤った生成を1件確認し、5件では臨床情報を補足した。AMIEが挙げた鑑別診断に医師の最終診断が含まれた割合は、Googleの発表では約90%だった。
診察前にAMIEの記録または要約を読めた44件では、担当医の75%が診察の準備に役立ったと答え、57%が診療上の進め方に影響した可能性があると回答した。一方、1件では、AMIEが可能性のある診断にリンパ腫を含めたことで患者が不安を感じたかもしれないと、担当医が評価した。
この研究は単一施設で実施した対照群のない実行可能性研究である。GoogleはIncluded Healthと、オンライン診療におけるAIの全国規模の無作為化研究にも着手したとしている。AMIEについては、映像と音声を使うリアルタイムの診療対話に向けた研究も進めている。
■地理空間分析と洪水予測も拡張
GoogleはGoogle Earth AIについて、Google Earth内での高度な地理空間分析、リスク評価やシナリオ予測を行うエンジン、開発者向けの地理空間推論エージェントという3つの実験的な利用方法を紹介した。衛星画像の解析、経路探索、人口に関する情報などを組み合わせ、地域ごとの課題を調べる構想だ。
Googleによると、基盤には衛星観測向けのRemote Sensing Foundation Modelや、人口動態に関するPopulation Dynamics Foundation Modelなど、70超の地理空間ツールがある。1億件超の公開データセットを検索できるGoogle Dataset Searchと、時系列予測モデルTimesFMの統合も発表した。Google.orgは防災や公衆衛生に取り組む団体へ1000万ドル(約15億8000万円、1ドル=158円換算)を提供し、うち200万ドル(約3億1600万円)をインフラ分析のためMilken Instituteに充てる。
洪水分野では、公開ニュースから過去の災害情報を整理する手法「Groundsource」を紹介した。GoogleはGeminiを使い、260万件超の洪水記録を含む公開データセットを作成したとしている。このデータを用いた都市部の急な洪水の予測モデルは、最大24時間先の発生可能性を推定する。
Googleは別の河川洪水予測システムについて、150カ国超の20億人超が暮らす地域を対象に、最大7日先まで予測を提供すると説明する。このシステムの基礎となる水文モデルの研究は「Nature」に掲載されている。
■数値予測、医療、教育の研究ツール
時系列データ向けのTimesFMと表形式データ向けのTabFMは、GoogleによるとGoogle CloudのBigQuery利用者が使える。事前に学習したモデルを個別のデータで追加訓練せずに予測へ使う方式で、両モデルをGemini for Businessへ統合する計画も示した。TimesFM-3は、販売予測に予定済みの販促日程などを織り込める。
医療AIの基盤モデル「MedGemma」について、Googleは開発者6万5000人超によるダウンロードが1000万回を超えたと発表した。救急時の患者の優先順位付けや眼疾患、子宮頸がんの検査支援などに応用されているという。利用可能な診療記録を参照する機能や、マンモグラフィー、超音波、心電図などへの対応も研究している。
教育向けの「Learning Interactives」では、教員が授業内容に合わせて理科や数学の対話型シミュレーションを作る実験を紹介した。中学・高校向けの見本は30件超あり、教員による確認を受けている。学校はGoogle for Education Pilot Programを通じて試用に参加できる。
共同制作ツール「Play with Putty」は、自然言語の指示から画面の試作品を生成し、複数人で同時に編集できる。Googleの研究チーム向けに作られ、Google Labsで利用希望者の登録を受け付けている。
■研究手法の再利用と宇宙での計算
Googleは、既存の研究手法を再現して別の課題へ応用するマルチエージェント型の研究支援ツールも示した。実演では流体力学の逆設計手法を尿道カテーテルの形状設計に応用し、細菌感染の防止についてシミュレーション上で良好な形状を見いだしたという。これは患者での感染率を測定した結果ではない。
研究用ソフトウェアの作成を支援するEmpirical Research Assistance(ERA)は、インフルエンザによる入院の予測モデルにも使われた。Googleによると、米疾病対策センターの2025~26年シーズンのFluSight評価では、対象となった39モデルのうち同社のモデルが最も高い予測成績を収めた。Google DeepMindと共同開発したCo-Scientistは、スタンフォード大学の研究者による肝線維症の治療薬候補の探索にも使われている。
衛星上のAI計算を探る「Project Suncatcher」では、GoogleとPlanetが開発した試作衛星が10月1日、SpaceXのTransporter-18で軌道に投入された。Googleは衛星との通信を確立し、機器が想定どおり動いていると発表した。搭載したTPUが放射線や温度変化を含む宇宙環境でどう動くか、今後データを集める。
Googleの長期構想は、太陽光で動く衛星群を光通信でつなぎ、機械学習の計算に使うものだ。同社は、2030年代半ばの打ち上げ費用を一定の条件で見積もった場合、軌道上の計算設備が地上設備の電力費と競争可能になるとの分析を示している。今回の衛星は、その構想に必要な機器の動作を調べる初期段階に当たる。
Research@ 2026で示された取り組みは、論文の点検、診療前の情報収集、災害予測、研究手法の探索など対象が幅広い。Deep Reviewの試験結果は利用した著者の報告に基づき、AMIEの臨床結果は医師が監督する一施設で得られた。今後の利用範囲を考えるうえでは、公開後の運用実績や規模を広げた研究が材料になる。
元記事: Google Deep Review Caught Errors in 35% of ML Papers; Diagnostic AI AMIE Lands in Lancet