ブラッド・バード監督『Ray Gunn』予告編公開 レトロな未来都市を現実の工学から読み解く
2026年9月25日 16:54
Netflixは9月23日、ブラッド・バード監督の新作長編アニメ映画『レイ・ガン』の予告編を公開した。舞台となる巨大都市「メトロピア」には、アールデコ様式の超高層ビルや空飛ぶ車が登場し、1939年から見たもう一つの未来が描かれている。日本では12月18日からNetflixで独占配信される予定だ。
メトロピアの都市景観には、現実の建築技術や航空機、次世代エレベーターの研究と通じる発想がある。1930年代の未来像を現代の技術と重ねることで、バード監督が長年温めてきた世界設定を別の角度から楽しめる。
■1939年から見た未来都市メトロピア
『レイ・ガン』は、スカイダンス・アニメーションが製作するSFミステリー映画だ。人間とエイリアンが共存する巨大都市メトロピアを舞台に、私立探偵レイモンド・ガンが殺人事件やエイリアン、人気スターを巡る事件に巻き込まれていく。
メトロピアの特徴は、第二次世界大戦前の人々が思い描いた未来像を発展させた都市景観にある。高層ビルが立ち並ぶ空を飛行車両が行き交い、人々はジェットパックも移動手段として利用する。バード監督は、都市がさらに高層化し、流線形の建物や空飛ぶ車が発展していたらどうなるかという発想を、世界設計の出発点としている。
1939年のニューヨーク万国博覧会では、工業デザイナーのノーマン・ベル・ゲデスが設計した「フューチュラマ」が公開された。ゼネラルモーターズが出展したこの展示は、1960年の米国を想定し、高速道路で結ばれた都市や郊外、未来の交通システムを巨大な模型で表現したものだった。
展示された未来都市には、個人用飛行車両の発着を想定した屋上設備を備える建物もあった。自動車による大量輸送を中心とする構想だったが、地上と空中を組み合わせた都市交通という発想は、メトロピアの景観にも重ねられる。
■800階建ての超高層ビルと現実の建築技術
メトロピアの都市景観を特徴づけるのが、上空へと伸びる巨大な高層ビル群だ。2026年夏に公開された作品の先行映像では、登場人物が「スーパーエレベーター」に乗り、800階近くまで移動する場面が紹介された。
現実の超高層建築を代表するドバイのブルジュ・ハリファは、高さ828メートル、地上163階を持つ。サウジアラビアでは、高さ1キロメートルを超える計画のジェッダ・タワーも建設が進められている。
ブルジュ・ハリファの構造設計には、米国の建築設計事務所スキッドモア・オーウィングス・アンド・メリル(SOM)のビル・ベイカーらが開発した「バットレスド・コア構造」が採用された。建物中央の構造体を周囲の翼状の構造が支え、段階的に変化する外形によって風の影響を抑える仕組みだ。
仮に1階当たりの高さを4メートルとすれば、800階建ての建物は約3.2キロメートルに達する。高さを増すほど、建物自体の重量や風による揺れ、基礎の支持力などへの対応が難しくなる。メトロピアの超高層ビルは、現実の建築技術が取り組む構造設計上の課題を連想させる存在でもある。
■スーパーエレベーターに重なる次世代の移動技術
超高層ビルの内部では、人を高い階まで運ぶ垂直交通も重要になる。従来型のロープ式エレベーターでは、移動距離が長くなるほどロープ自体の重量が増し、設備の設計や運用に制約が生じる。
この課題に対する技術の一つが、ティッセンクルップが開発したロープレスエレベーター「MULTI」だ。リニアモーターを利用してかごを駆動する方式で、複数のかごを同じ昇降路で運行させることや、垂直方向と水平方向を組み合わせた移動を想定している。
MULTIはドイツのロットヴァイルにある試験塔で実証が進められてきた。ロープでかごをつり下げる方式とは異なる移動経路を設計できる点が、メトロピアのスーパーエレベーターを読み解く手掛かりになる。
作中では、エレベーターの移動中に乗客が横方向の加速度を受ける描写もある。高速で移動するかごが曲線状の経路を通る場合、進行方向の変化に伴って向心加速度が生じる。乗客の身体に加速度が伝わるという映像表現には、こうした運動の仕組みを重ねられる。
■空飛ぶ車と都市の空域管理
メトロピアの上空には、個人用から商用まで多様な飛行車両が登場する。高層ビルの間を複数の高度で乗り物が行き交う光景は、1930年代の未来都市のイメージを、現代の航空技術から考えるきっかけになる。
現実の航空分野では、電動垂直離着陸機(eVTOL)の開発が進んでいる。滑走路を使わずに離着陸できる機体を都市間や都市周辺の移動に活用する構想で、米国のジョビー・アビエーションなどが開発と実証を進めている。
ジョビーが開発する機体は、複数の電動プロペラを利用して垂直離着陸と前進飛行を行う。メトロピアに描かれる飛行車両とは異なる形状だが、人々の移動を地上の道路だけでなく空中にも広げるという発想には共通点がある。
電動航空機では、バッテリーのエネルギー密度や機体重量が航続距離に影響する。液体燃料を使用する航空機では燃料の持つエネルギーを利用できる一方、燃料消費や排出ガス、騒音への対応が求められる。メトロピアのジェットパックや飛行車両は、動力源の違いによって航空機の設計や運用が変わることを考える手掛かりにもなる。
もう一つの重要な要素が空域管理だ。多数の航空機が建物の間を飛行する都市では、各機の位置や飛行経路を把握し、衝突を防ぐ仕組みが必要になる。現実の都市型航空交通でも、航空機の安全な運航に加え、離着陸施設や騒音、既存の航空交通との調整が課題となっている。
■アールデコの造形に見る建築と空気の関係
メトロピアの建築には、1920~1930年代に発展したアールデコ様式の影響が見られる。高層ビルの上部を段階的に細くするセットバックや、幾何学的な外形は、当時の都市建築を特徴づけるデザインでもあった。
建築家でレンダリング作家のヒュー・フェリスは、1929年の著書『The Metropolis of Tomorrow』で、巨大な高層ビルが立ち並ぶ未来都市を描いた。彼の建築表現には、ニューヨークで1916年に制定された建築物の高さや形状に関する用途地域規制が影響している。
この規制は、建物の高さに応じて上層部を後退させることで、道路への採光などを確保するものだった。フェリスは、こうした規制から生まれる建物の形状を、巨大都市の印象的なシルエットへと発展させた。
一方、同時代の工業デザインでは、レイモンド・ローウィーらが流線形の造形を広めた。ローウィーが外観デザインに関わったペンシルバニア鉄道のGG1形電気機関車やS1形蒸気機関車には、滑らかな曲面を用いた当時のデザイン思想が表れている。
高層建築の外形を考える際にも、風の流れや風圧は重要な設計条件となる。建物の平面形状や高さ方向の変化は、風による力や揺れの特性に影響する。メトロピアの段状の高層ビルと流線形の乗り物には、建築と工業デザインがそれぞれ空気の流れを意識して発展してきた歴史を重ねられる。
■機械が捜査する都市と最後の人間探偵
『レイ・ガン』の物語では、都市の未来的な外観とは対照的に、古典的な探偵映画の世界が展開される。主人公レイモンド・ガンの声を担当するのはサム・ロックウェル。メトロピアでは小型の捜査ロボット「プライボット」が探偵の仕事の多くを担っており、レイと相棒は昔ながらの方法で事件を追う数少ない探偵となっている。
レイの相棒である一つ目のエイリアン、アイ・ラの声はトム・ウェイツが担当する。スカーレット・ヨハンソンが演じるヴィーナス・ノヴァは、メトロピアを代表する人気スターの一人だ。レイは彼女を取り巻く人々を調べるうちに、華やかな都市の裏側へと足を踏み入れていく。
人間の捜査と機械による情報処理という対比は、現実の人工知能(AI)の活用とも通じる。大量の情報から特徴や関連性を抽出する技術は、調査や分析を支援する一方、得られた情報の意味や信頼性を判断する過程も重要になる。
作品の探偵という設定は、情報を処理する機械と、事件の背景や関係者の行動を読み解く人間を対比させるものだ。バード監督は、探偵映画の古典『マルタの鷹』とSF冒険活劇『バック・ロジャース』を組み合わせるという発想から、本作の構想を始めたと説明している。
■30年以上を経て実現するブラッド・バード監督の構想
『レイ・ガン』は、バード監督がキャリアの初期から構想を温めてきた作品だ。1990年代にはターナー・フィーチャー・アニメーションで企画が進められたが、その後、長く製作に至らなかった。今回、スカイダンス・アニメーションとの協業によって長編CGアニメーションとして実現する。
脚本はバード監督とマシュー・ロビンズが共同執筆した。監督は、古典的なフィルム・ノワールの雰囲気とSFの冒険を組み合わせ、アニメーションで描ける物語の幅を広げたいという考えを示している。
映画は10月10日、英国のBFIロンドン映画祭でワールドプレミアを迎える予定だ。Netflixは12月4日から一部劇場での限定上映も予定しており、日本では12月18日から独占配信される。1930年代の未来像と古典的な探偵映画を組み合わせたメトロピアの世界が、長年の構想を経てスクリーンに登場する。
元記事: Ray Gunn Trailer: Metropia’s 800-Floor City Runs on Real Engineering, Not Sci-Fi Physics