ESAの木星探査機JUICE、9月28日に地球へ最接近 重力アシストで加速
2026年9月25日 15:23
欧州宇宙機関(ESA)の木星氷衛星探査機JUICEは、9月28日に地球へ最接近し、重力アシストによって速度と進行方向を変える。最接近は中央ヨーロッパ夏時間(CEST)13時45分(日本時間20時45分)で、2031年7月の木星到着に向けた重要な軌道変更となる。接近前後には地球や月、地球磁気圏の観測も実施し、木星周辺での本格的な科学調査に備える。
■地球の公転運動を利用して加速
質量約6トンのJUICEは9月28日、インド洋上空で地表から8640kmまで接近する予定だ。ESAによると、今回のフライバイでは速度が約3.5km/s増加し、進行方向が約20度変わる。地球の重力を利用することで、探査機自身の推進剤をほとんど消費せずに軌道を変更できる。
重力アシストは、惑星の重力と公転運動を利用して探査機の速度や進行方向を変える航法だ。探査機が地球に接近して重力によって軌道を曲げる際、地球と探査機の位置関係や進入方向に応じて、太陽を基準とした探査機の速度が変化する。
地球を基準に見ると、理想的な重力アシストでは探査機の接近前後の速さはほぼ等しく、主に進行方向が変わる。一方、太陽を基準にすると、地球の公転運動を利用したエネルギーの受け渡しによって、探査機は加速することも減速することもできる。今回のJUICEは、この仕組みを利用して木星へ向かう軌道を調整する。
地球から木星へ直接向かう場合、探査機を十分な速度まで加速するための強力なロケットに加え、木星到着時の減速にも大量の推進剤が必要となる。JUICEは地球、月、金星への接近を組み合わせることで、打ち上げ時の推進剤搭載量を抑えながら木星を目指す。ESAの欧州宇宙運用センター(ESOC、ドイツ・ダルムシュタット)が、その軌道制御を担当している。
■月・地球・金星を経た飛行
JUICEは2023年4月14日、フランス領ギアナのクールーにある欧州宇宙港から、アリアン5ロケットで打ち上げられた。2024年8月には、月と地球を連続して通過する世界初の月・地球ダブルフライバイを実施した。
JUICEは同年8月19日に月の表面から約750kmまで接近し、翌20日には地球の地表から約6840kmを通過した。今回の加速とは異なり、この操作では太陽に対する探査機の速度を落とし、進行方向を約100度変えて金星へ向かう軌道に移行した。ESAによると、この航法によって約100~150kgの推進剤を節約できる見込みだ。
月・地球ダブルフライバイでは、科学機器の試験も行われた。MAJIS撮像分光計とSWIサブミリ波観測装置は、地球大気の成分などを測定し、生命が存在できる環境を調べるための観測能力を確認した。RIME氷透過レーダーは月面の起伏を示すレーダー画像を取得し、アポロ8号が撮影した地球の出の写真に写る月面領域との比較も行われた。
続く2025年8月31日には金星をフライバイし、その重力を利用して軌道を再び地球へ向けた。金星接近に先立つ同年7月16日には、機内ソフトウェアの不具合によって地上局との通信が一時途絶するトラブルが発生した。ESOCと探査機の製造元であるエアバスのチームは約20時間にわたる復旧作業で通信を回復させ、金星フライバイは予定通り実施された。
今回の地球フライバイについて、JUICEのプロジェクト・サイエンティストであるクレア・ヴァラ氏は、月への接近に続いて翌日には地球へ接近した2024年の飛行と比べ、運用面で大幅に単純になると説明している。探査機の向きをより自由に変えられるため、地球や月のさまざまな領域に科学機器を向けて観測できるという。
■接近角度の調整と地球の影での運用
重力アシストでは、目的の軌道に移るために接近時の位置、角度、速度を正確に制御する必要がある。ESAは8月17日に航法キャンペーンを開始し、最接近までに6回の軌道修正機会を設定した。
ESAが9月21日に公表した情報によると、実際に必要となった軌道修正は、最接近の約4週間前に実施した1回だけだった。JUICEの宇宙機運用責任者アンゲラ・ディーツ氏は、比較的小規模な修正でありながら効果は大きく、探査機をフライバイに適した位置へ導くことができたと説明している。
ESAは9月28日CEST午前8時(日本時間15時)に、重大な航法誤差や他の人工衛星との衝突リスクに対応するための最終的な緊急軌道修正機会を設けている。飛行が計画通りに進めば、この修正は不要となる見込みだ。
今回の飛行では、JUICEが長時間にわたって地球の影に入ることも運用上の課題となる。9月27日CEST21時24分から翌28日6時3分まで、日本時間では9月28日4時24分から13時3分までの約8時間39分間、太陽電池パネルに日光が届かなくなる。この間、JUICEはバッテリーの電力だけで運用する。
JUICEには、展開時の幅が約27m、総面積が約85平方メートルに達する大型の太陽電池アレイが搭載されている。太陽光が地球付近より弱い木星周辺でも発電できるよう設計されているが、地球の影では発電できない。このため運用チームは、バッテリーの残量を確保しながら、優先度の高い科学観測を実施する計画だ。
最接近の15~30分前には、JUICEがオーストラリアの北東側から北西側へ向かって移動する。ESAによると、適切な双眼鏡や望遠鏡を用いれば、オーストラリアから探査機を移動する光点として観測できる可能性がある。観測には、ESAが公開する軌道データが利用できる。
■地球磁気圏の観測と光学航法の試験
JUICEは9月23日から10月3日にかけて、搭載する10基の科学機器を稼働させ、地球と月を観測する。よく知られた天体や周辺環境を観測対象とすることで、各機器の較正やデータ解析手法の確認を進める。得られた知見は、2031年以降の木星や氷衛星の観測に活用される。
今回の接近では、地球の磁気圏尾部を数日間にわたって通過する予定だ。磁気圏尾部は、太陽風の影響によって地球の夜側に長く伸びた磁気圏の領域で、磁場や荷電粒子の複雑な変動が生じる。JUICEは搭載するJ-MAG磁力計などを使って、この領域の観測を行う。
ESAは、JUICEによる磁気圏尾部の観測データを、欧州と中国が共同で進める地球磁気圏観測ミッションSMILEのデータと組み合わせることも想定している。異なる探査機による観測を照合することで、磁気圏の構造や変動を調べるための情報が得られる可能性がある。
また、JUICEの航法カメラは月の縁を撮影し、画像を利用して探査機の位置を求める光学航法の新たな手法を試験する。月の輪郭を宇宙空間の暗い背景から識別し、位置決定の精度向上に役立てるものだ。
木星付近では地球との通信に時間がかかるため、地上からの指示だけに依存せず、搭載カメラによる観測を航法に活用することが重要になる。今回の試験は、将来の木星や氷衛星への接近に向けて、光学観測による位置決定能力を確認する機会となる。
JUICEに搭載された2基の監視カメラも、地球フライバイの間に地球と月を撮影する。ESAによると、今回の接近に関連する最後の画像は9月29日に撮影される予定で、取得した画像はESAのウェブサイトやSNSを通じて公開される。
■木星への道中で恒星間彗星も観測
JUICEは木星へ向かう途中、太陽系外から飛来した恒星間彗星3I/ATLASの観測も行っている。2025年11月には、科学カメラJANUSをはじめとする5基の科学機器を使い、彗星の姿や成分を調べた。
JANUSは120枚を超える画像を撮影し、彗星の核を取り巻くガスや塵の広がりであるコマや、太陽とは反対方向に伸びる尾などを捉えた。異なる波長の観測画像からは、ガスや塵による2本の尾も確認されている。
観測データの本格的な地球への送信は2026年2月に行われた。JUICEは太陽に近い領域を航行していたため、主アンテナを熱から機体を守るために使用しており、大量の科学データを送信する時期が制限されていた。木星到着前の観測によって、機器の性能確認と恒星間彗星の科学調査を進めている。
■2031年の木星到着、その先のガニメデ周回へ
9月28日の地球フライバイ後、JUICEは再び太陽の周りを航行し、2029年1月に最後の地球重力アシストを実施する。この接近で木星へ向かう最終的な遷移軌道に入り、2031年7月に木星へ到着する計画だ。
木星到着後は木星を周回しながら、ガニメデ、カリスト、エウロパという3つの大型衛星を計35回フライバイする。その後、2034年12月にガニメデの周回軌道へ移行する予定だ。実現すれば、他の惑星を回る衛星の周回軌道に入る初の探査機となる。
JUICEの主要な科学目標の一つは、木星の氷衛星が生命の存在に適した環境を備えているかを調べることだ。ガニメデ、カリスト、エウロパの3衛星には、氷に覆われた表面の下に液体の水からなる地下海が存在すると考えられている。地下海の形成や維持には、潮汐加熱や衛星内部の放射性元素の崩壊によって生じる熱などが関わっていると考えられる。
これらの地下海に存在する水の総量は、地球表面の海水の総量を大きく上回る可能性がある。一方、地下海の厚さや成分、内部構造などには未解明の点が多い。JUICEは氷衛星の表面と内部、周辺の磁場や粒子環境を詳しく調べ、地下海の性質や生命が存在できる条件の解明を目指す。
探査機には、地下構造を調べるRIME氷透過レーダー、地形や表面の変形を測定するGALAレーザー高度計、磁場を測定するJ-MAG磁力計など、計10基の科学機器が搭載されている。ミッションはESAが主導し、米航空宇宙局(NASA)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、イスラエル宇宙庁も参加している。日本は複数の観測機器の開発や科学観測に貢献している。
元記事: Earth Flyby Sunday Gives ESA JUICE Probe Free Speed Boost on Long Road to Jupiter