TSMCの2nmプロセス「N2」、iPhone 18 Proの分解解析で構造が明らかに

2026年9月25日 11:44

半導体調査会社TechInsightsが、AppleのiPhone 18 Proに搭載されたA20 Proプロセッサの技術解析結果を公表した。TSMCの2nmプロセス「N2」で製造されたチップについて、ゲート・オール・アラウンド(GAA)方式のナノシート・トランジスタや、プロセッサとメモリを横並びに配置する新たな実装構造を確認した。

A20 Proは、先端半導体の製造技術が実際のスマートフォンでどのように採用されているかを示す事例となる。TechInsightsは、トランジスタの寸法や回路密度、メモリ構成などの詳細な分析も進めている。

■TSMCの2nmプロセスを実チップから解析

TechInsightsは2026年9月22日、A20 Proの技術解析結果を公開した。同社によると、A20 ProはTSMCのN2プロセスを採用したApple初のアプリケーションプロセッサで、iPhone向けチップとして初めてGAAトランジスタを導入した。

TSMCは、2025年第4四半期にN2の本格量産を開始したと公表している。N2では、従来の3nm世代まで使用してきたFinFETに代わり、ナノシートを用いたGAA構造を採用した。

TSMCの公表値では、N2は従来のN3Eプロセスと比較して、同一消費電力で最大15%の速度向上、または同一速度で最大30%の消費電力削減を実現する。ロジック回路の密度も向上する。これらはTSMCによるプロセス技術の性能評価値であり、A20 Pro自体の性能向上率を示すものではない。

TechInsightsは、製品から取り出したチップの構造を解析することで、N2が量産製品にどのように実装されているかを調べている。分析対象にはトランジスタの寸法、ロジックセルの微細化、SRAMの密度、回路配置、メモリ実装などが含まれる。

■FinFETからGAAナノシートへの構造転換

GAAトランジスタの特徴は、電流が流れるチャネルをゲート電極が取り囲む構造にある。従来のFinFETでは、垂直に立てたフィン状のチャネルをゲートが3方向から覆うのに対し、GAAナノシートでは、水平に積み重ねた薄いシリコンのチャネルをゲートが四方から取り囲む。

この構造では、ゲートによるチャネルの静電的な制御を強められる。半導体の微細化に伴って問題となる短チャネル効果や、トランジスタがオフの状態でも流れる漏れ電流を抑えるうえで重要な技術だ。

ナノシートには、チャネルの幅を調整できるという設計上の利点もある。TSMCの「NanoFlex」は、異なるナノシート幅の標準セルを組み合わせ、回路の用途に応じて性能や消費電力、面積を最適化できる設計技術である。

高い駆動電流を必要とする回路には幅の広いナノシートを用い、消費電力や面積を重視する回路には別の構成を選択できる。FinFETでフィンの本数を整数単位で増減させる方式に比べ、チャネル幅を柔軟に調整できる。

TechInsightsは、TSMCのナノシート構造にインナースペーサーが組み込まれていることも確認した。インナースペーサーは、積層されたチャネルの間でゲートとソース/ドレイン領域を電気的に分離する絶縁構造で、寄生容量や漏れ電流の制御に関係する。同社はSamsungのGAA実装との構造上の違いとして、この部分に注目している。

■「2nm」の意味と今後の製造技術

半導体製造における「2nm」はプロセスの世代を示す名称であり、トランジスタのゲート長や配線幅など、特定の部分が実際に2ナノメートルであることを意味しない。各社のプロセスを比較するには、性能や消費電力だけでなく、回路密度や製造技術なども確認する必要がある。

GAAナノシートの製造では、シリコンとシリコンゲルマニウムを交互に積層し、シリコンゲルマニウムを選択的に除去して、シリコンのチャネルを形成する。その周囲にゲート材料を配置することで、チャネルを取り囲む構造を作り出す。

TSMCはN2の改良版であるN2Pについて、N3E比で同一電力時に18%の速度向上、または同一速度時に36%の消費電力削減を見込んでいる。N2からN2Pへの移行では、約5%の性能向上を図るとしており、量産開始は2026年後半を予定している。

さらにTSMCは、GAAナノシートと裏面電力供給技術「Super Power Rail」を組み合わせるA16も開発している。A16は、チップ表面側の配線資源を信号伝送に振り向けることで、電力供給の効率や回路密度の向上を目指す技術だ。

■ダイ面積を維持し、GPUとAI処理機能を拡張

TechInsightsの予備解析によると、A20 Proの演算用ダイは約8.0mm×12.3mmで、推定面積は98.2平方mmとなる。前世代のA19 Proとほぼ同じ面積だが、GPUコア数が増え、ニューラル処理に割り当てられる領域も拡大したという。

CPUは高性能コア2基と高効率コア4基の計6コアで構成される。TechInsightsの解析では、高性能コアにはそれぞれ専用のL2キャッシュがあり、高効率コアは複数のバンクに分かれたキャッシュを共有するとみられる。

GPUは前世代から1基増えて7コアとなった。Appleによると、グラフィックス処理性能はA19 Pro比で最大40%向上している。

AI処理に関しては、16コアのNeural Engineを2基搭載し、合計32コアとした。さらにCPUにはNeural Acceleratorを統合している。Appleは、A19 Proと比較してAI処理能力が2倍になったと説明している。

TechInsightsのフロアプラン解析でも、ニューラル処理領域の拡大が確認された。ほぼ同じダイ面積を維持しながら演算機能を増やした構成は、N2による微細化と回路設計の変化を調べるうえで重要な手掛かりとなる。

■メモリを横並びに配置する新たなパッケージ構造

A20 Proでは、プロセッサとDRAMの配置も変更された。従来のiPhone向けプロセッサでは、パッケージ・オン・パッケージ方式によってメモリをプロセッサの上部に積層していたが、A20 Proでは両者を横並びに配置している。

TechInsightsによると、新しい構造はウェハーレベルのマルチチップモジュール(WMCM)方式を採用している。予備解析では、LPDDR5Xメモリを使用し、メモリインターフェースの幅は96ビットとみられる。

プロセッサとメモリを横並びに配置することで、メモリをプロセッサの上に重ねる構造から解放され、熱の伝達経路や信号配線の設計に新たな選択肢が生まれる。TechInsightsは、この実装方式が熱特性や信号配線、メモリ統合に与える影響についても解析を進めている。

Appleは、新しいパッケージ構造によってプロセッサをベイパーチャンバーに直接接触させられるようになったと説明している。ベイパーチャンバーは、内部の作動液の蒸発と凝縮を利用して熱を広げる冷却部品だ。

iPhone 18 Proのベイパーチャンバーは、Appleによると前世代の3倍の表面積を持つ。新たな実装構造と冷却システムの組み合わせによって、高負荷時の持続性能を前世代比で最大40%高めたとしている。

また、AppleはA20 Proのメモリ帯域幅がA19 Pro比で50%増加したと公表している。メモリとプロセッサの配置変更は、GPUやオンデバイスAIの処理能力を高めるための設計上の重要な要素となっている。

■Samsung、Intelの2nm級プロセスとの違い

2nm級プロセスでは、TSMC以外にもSamsungやIntelがGAAトランジスタを採用している。Samsungは2022年に3nm世代のプロセスでGAAを商用化し、その後、2nm世代のSF2へ展開した。

一方、Intelの18Aプロセスは、GAAトランジスタ「RibbonFET」と裏面電力供給技術「PowerVia」を組み合わせている。Intelによると、18Aは2025年に生産を開始した。

TSMCのN2とSamsungのSF2が従来型の表面側からの電力供給を採用するのに対し、Intel 18Aでは電力供給用の配線をシリコン基板の裏面側に配置する。信号配線と電力供給の経路を分離することで、電圧降下の抑制や回路配置の高密度化を図る構造だ。

TechInsightsは、TSMCのN2とSamsungのGAA実装について、インナースペーサーを含むトランジスタ構造の違いにも注目している。こうした構造の相違は、漏れ電流、性能、回路密度、製造工程の複雑さなどを比較するうえで重要となる。

TSMCは、N2の後継技術であるA16に裏面電力供給を導入する計画だ。各社のプロセスにはトランジスタ構造や電力供給方式に違いがあり、TechInsightsによる実チップの解析は、それぞれの製造技術を具体的に比較するための資料となる。

■10月14日のウェビナーで詳細を紹介

TechInsightsは2026年10月14日午前11時(米東部時間、日本時間では10月15日午前0時)から、iPhone 18 ProおよびPro Maxの分解解析を紹介する無料ウェビナーを開催する予定だ。アジア太平洋地域向けには、日本時間10月15日午前10時からの回も用意されている。

ウェビナーでは、A20 Proの構造やメモリ実装、カメラ、通信システム、部品供給企業、製造コストなどを取り上げる。登録は無料で、後日オンデマンドでも視聴できる予定だ。

TechInsightsは9月18日、iPhone 18 Pro Maxの予備的な分解解析も公開した。解析対象の端末では、A20 ProとLPDDR5Xメモリに加え、QualcommのSnapdragon X80モデムとAppleのN1ワイヤレスモジュールなどが確認されている。

AppleはiPhone 18 Proシリーズで自社開発のC2モデムを採用したと発表しているが、TechInsightsが調査した端末ではQualcomm製モデムが見つかった。同社は、地域別の仕様や複数のモデム構成が存在する可能性を挙げており、搭載状況の詳細は今後の解析対象となる。

A20 Proのパッケージ、ダイ構造、回路配置、製造プロセスなどを扱う詳細な分析レポートは、TechInsights Platformの登録利用者向けに提供されている。トランジスタの臨界寸法やSRAMの微細化、競合プロセスとの比較などについても、追加の解析結果が示される見通しだ。

元記事: TechInsights Teardown Confirms TSMC 2nm Nanosheet Transistors Now Inside iPhone 18 Pro

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