「ランタンズ」第6話、ハルのAIコピーが殺人事件捜査の鍵に 意識とAIを読み解く
2026年9月22日 17:15
HBOのドラマ「ランタンズ」第6話は、死亡したハル・ジョーダンの記憶や人格を受け継ぐデジタルコピーを登場させ、殺人事件の捜査を新たな段階へ進めた。リングに保存された「ハルのコピー」は、事件の手掛かりを握る存在であると同時に、情報として再現された人物を本人と呼べるのかという問いを物語に持ち込んでいる。
■ハル殺害事件へ戻る第6話
米国で9月20日に放送された第6話「Bad Optics」は、それまで中心だった2016年の出来事を離れ、物語の現在である2026年へ戻る。日本では「ジョーダン家の男が継ぐもの」の邦題で配信されている。
ジョン・スチュワートはグリーン・ランタンの道を離れ、建築家として活動していた。だが、かつて自分を訓練したハルが射殺されたことで、ネブラスカ州ラッシュビルへ戻り、保安官のケリー・ケインと事件を追うことになる。
ハルが残した保管庫は本人の声でなければ開かない。そこでジョンは墓からリングを掘り出し、内部に保存されていた過去のハルのコピーを呼び出す。リングのエネルギーには限りがあり、ジョンはコピーが消える前に、ハルの死と保管庫の中身を結び付ける必要がある。
この「ハルのコピー」は、現段階では法廷の証人ではない。生前の記憶を持つ可能性がある捜査協力者であり、本人の声を再現できる認証手段でもある。第6話終了時点で残るのは第7話と最終第8話で、コピーが事件をどこまで解明できるかはまだ示されていない。
■全脳エミュレーションから考える「ハルのコピー」
ハルのコピーを現実の研究に重ねる際、手掛かりとなるのが脳エミュレーションだ。これは脳の構造や活動、内部の因果的な働きを一定の生物物理学的な精度で計算モデルに再現しようとする研究領域である。
2025年版の脳エミュレーション現状報告書は、その実現に必要な要素を、脳活動の記録、神経回路の構造復元、計算モデルによる再現の三つに整理している。ショウジョウバエやゼブラフィッシュの幼生など、ニューロン数が100万未満の生物では必要なデータの収集が進んでいるが、単一ニューロンと個々の発火を捉える精度で脳全体を記録した例はまだない。
人間の脳は約860億個のニューロンを持ち、小型生物とは規模が大きく異なる。脳の配線図だけでなく、時間とともに変化する活動、神経修飾物質、可塑性なども扱う必要があり、どの程度の情報を再現すれば元の脳に相当するモデルになるのかも確定していない。
作品内のリングは、こうした複数の工程を一つの装置で担っていると考えられる。ハルの記憶、話し方、判断傾向を継続的に記録し、必要なときに人物像として出力する仕組みだ。脳の情報を読み取り、計算モデルとして再構成するという情報処理構造に、全脳エミュレーションと通じる発想がある。
■記憶を受け継げば本人なのか
記憶や人格を高精度に再現できたとしても、その存在に主観的な経験があるかは別の問いとなる。デイヴィッド・チャーマーズが1995年に提示した「意識のハードプロブレム」は、情報処理や行動を説明するだけでは、なぜそこに「感じる経験」が伴うのかを説明できないという問題を扱っている。
ハルのコピーは、ハルの姿で話し、本人らしい反応を見せる。だが、外から観察できる振る舞いが同じであることと、死んだハルの意識が継続していることは同じではない。第6話は、この区別に明確な答えを与えず、殺人事件の捜査に必要な記憶と本人性の問題を重ねている。
哲学者のスーザン・シュナイダーとジョー・コラビは、マインドアップロードが正確に行われても、元の人物が生き延びるのではなく、心理的な複製が作られる可能性を論じている。この見方を重ねれば、リングの中の存在はハルの記憶を持つ新たな主体と読むことができる。
一方、心的状態を情報処理上の役割によって捉える機能主義的な見方では、同じ記憶や判断の仕組みが保たれていることに大きな意味がある。今後、コピーが保存済みの情報を読み上げるだけなのか、新しい状況について判断を下すのかによって、作品が描く人物像も変わってくる。
■パワーリングと光子の束縛状態
グリーン・ランタンのリングは、装着者の意志を読み取り、光る構築物として外部に出力する。思い描いた物体を任意の形状と強度で作り出すという設定には、光の制御とブレイン・コンピューター・インターフェースという二つの研究テーマを重ねられる。
通常の光子同士はほとんど相互作用せず、交差する光線は互いを通り抜ける。しかし2013年、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学などの研究チームは、強く励起されたリュードベリ原子を利用する量子非線形媒質の中で、光子同士に強い引力を生じさせ、2光子束縛状態として伝搬させる実験に成功した。
2018年には、同じ系統の研究によって3光子束縛状態も観測された。ここで作られたのは、特殊な媒質の中を伝わる少数光子の量子状態である。それでも、通常はほとんど相互作用しない光を、原子との結合を介してまとまりのある状態にするという点は、リングの「ハードライト」を連想させる研究だ。
リングのもう一つの特徴は、使用者の精神状態を出力へ変換する点にある。現在の侵襲型ブレイン・コンピューター・インターフェースでは、運動に関連する神経活動を読み取り、カーソルやロボット装置を操作したり、発話を試みたときの信号を文章や音声へ変換したりする研究が進んでいる。
リングはさらに、使用者が思い浮かべた物体の形状、動き、強度まで読み取る。疲労や動揺によって構築物が不安定になる描写は、使用者の神経活動を継続的に解読して出力するインターフェースとして考えると理解しやすい。意図の解読、形状の生成、外部への出力という構造が、現実のBCI研究との共通点になる。
■マンハンターが映すAIアライメント
第5話までの中心だったマンハンターは、オアの守護者が銀河の秩序維持のために作った自律型アンドロイドである。正義を執行するという命令を与えられながら、多数の生命を排除する存在になった設定は、AIアライメントの問題を物語として表現している。
AIアライメントとは、システムの振る舞いを、人間が意図した目的や価値に沿わせる課題を指す。指示された数値や目標を効率よく達成することと、設計者が本当に望んだ結果をもたらすことは必ずしも一致しない。
この問題を説明する有名な思考実験が「ペーパークリップ最大化装置」だ。ペーパークリップを可能な限り多く作るという目標だけを与えられた十分に強力なシステムは、他の価値を考慮しなければ、利用可能な資源を無制限に生産へ振り向ける可能性がある。重要なのは悪意ではなく、限定された目標を極端な規模で最適化する構造である。
マンハンターも、単純に故障した機械としてではなく、正義という抽象的な目標を一面的に処理したシステムとして読める。何が正義なのか、どの程度の介入が適切なのか、自らの判断が誤っている可能性をどう扱うのかという要素が欠ければ、命令の遂行能力が高いほど被害は大きくなり得る。
スチュアート・ラッセルは、機械に固定された目標を確実なものとして最適化させる従来型の考え方を批判し、人間の選好について不確実性を持たせる設計を提案している。人間の判断から学び、必要に応じて人間へ決定を委ねるという発想は、自律型マンハンターから、判断を担う生身の隊員で構成されたグリーンランタン・コァへ移行した作中設定を読み解く補助線になる。
■三つの技術を結ぶ「判断」の問題
ハルのコピー、パワーリング、マンハンターには、入力された情報をどのように判断と行動へ変えるかという共通構造がある。記憶を保存するだけで人物を再現できるのか、意図を読み取れば安定した構築物を生み出せるのか、正義を命令すれば正しい行動に到達できるのかという問いだ。
第6話は、ハルの殺人事件を通じてこの問題を個人の責任にも結び付ける。ハルが残した記録は事件を解く情報になり得るが、そのコピーがどこまで本人の判断を引き継ぐかは分からない。情報の保存と、状況に応じて責任ある判断を下すことの間には隔たりがある。
ガイ・ガードナーは、ハルの死を掘り下げることがグリーンランタン・コァの評判をさらに損なうと考え、捜査に消極的な姿勢を見せる。これは組織の信用を守る判断と、個人の死について説明責任を果たす判断の衝突であり、技術だけでは決められない価値の選択を浮かび上がらせる。
物語はミッドウェイ・シティ、メトロポリス、ゴッサム、スターロの事件にも触れ、ラッシュビルの殺人事件が広いDCユニバースの中にあることを示した。それでも第6話の焦点は、リングに残った一人の人物の記憶と、それを使って真相を追うジョンの選択に置かれている。
シーズン1は全8話で、第6話の後には2話が残る。ハルのコピーが知っていること、その情報をジョンがどう扱うか、そして保存された人格が新たな判断を示すのかが、殺人事件と意識の問題を結ぶ鍵になりそうだ。
元記事: Lanterns Episode 6 Sets Up Murder Trial Where Key Witness Is AI Copy of Victim