米国の対ロシア制裁法が成立、ロシア産原油への依存を強めるインドに最大100%の追加関税リスク
2026年9月22日 17:01
米国で「2026年リンゼー・O・グラハム対ロシア・イラン制裁法」が成立した。ロシア産原油や天然ガスを大量に購入する国からの輸入品に、最大100%の追加関税を課す仕組みを盛り込んでおり、ロシア産原油への依存を強めるインドは対象国となる可能性がある。
追加関税が直ちに最大税率で適用されるわけではない。対象国は米通商代表部などの判定を経て決まり、大統領には国家利益などを理由とする適用免除の権限もある。一方、条件を満たす国に対しては、成立から30日以内に税率を引き上げるよう大統領に求めており、インドにとっては対米輸出全体に波及し得る新たな通商リスクとなる。
■インドのロシア産原油比率が50%超に
2026年7月、ロシア産原油はインドの原油輸入量の50.83%を占め、過去最高となった。輸入量は日量247万バレルで、前年同月を62.4%上回った。ただし、日量260万バレルに達した同年6月からは4.8%減少している。
インドの製油会社は2026年1月、米国による関税強化を避けるためロシア産原油の調達を減らし始めた。しかし、中東からの供給がイランをめぐる戦争によって混乱したため、ロシア産原油の購入を継続した。
2026年4~7月の4カ月間では、ロシア産原油がインドの輸入量の43.25%を占め、日量平均は200万バレルを超えた。前年同期の比率は約37%だった。一方、中東産原油の比率は前年同期の43%から約30%へ低下し、中南米産は3.5%から12.7%へ上昇した。
インドは原油需要の90%超を輸入で賄っており、国際的な供給の混乱に影響されやすい。ロシアは4~7月もインド最大の原油供給国で、アラブ首長国連邦がイラクを抜いて2位となった。
■成立した米制裁法の仕組み
米下院は2026年9月16日、同法案を262対159で可決した。ドナルド・トランプ大統領が9月18日に署名し、連邦法として成立した。法律は、ロシア政府関係者や金融機関、エネルギー部門に対する制裁を拡大するとともに、イランに関する既存の制裁法を延長する。
インドへの影響で重要なのが第113条である。法律成立後30日を過ぎてもロシア産原油または天然ガスを新たに購入し、成立前の12カ月間に輸入量で上位5カ国に入った国などを追加関税の対象とする。
対象国から米国に輸入されるすべての物品について、既存の関税などに上乗せする形で、0%を超えて最大100%の追加関税を設定できる。原油や天然ガスだけでなく、医薬品、繊維製品、電子機器など、対象国から米国へ輸出される幅広い商品に影響が及ぶ可能性がある。
米通商代表部は、国務長官およびエネルギー長官と協議し、ロシア産原油と天然ガスの上位輸入国を180日ごとに判定する。法律自体は国名を列挙していないため、インドが対象になるかどうかは、正式な判定と実施措置を待つ必要がある。
■税率には裁量、免除制度も
同法は単に追加関税を課す権限を与えるだけではなく、条件を満たす国について、成立から30日以内に関税を引き上げるよう大統領に求めている。一方、具体的な税率は最大100%の範囲で決められ、最初から100%を課すことを義務付けてはいない。
関税を新設または変更する場合、大統領または米通商代表部は、原則として実施の10日前までに、税率の根拠や算定方法を議会へ提出しなければならない。対象国がロシア産エネルギーの輸入を大幅に増減させた場合には、税率を調整する仕組みも設けられている。
ロシア産天然ガスについては、輸入量がロシアの年間輸出量の15%未満で、購入削減に向けて実質的な措置を講じた国に対する例外がある。さらに大統領は、米国の国家利益にかなうと判断した場合、制裁や関税の適用を免除できる。
ロシアに関する制裁・関税規定は成立から5年で失効する。したがって追加関税の適用や税率は今後の判断に左右されるものの、インドのエネルギー政策と米国向け輸出を結び付ける法的な枠組みは最長5年間存続する。
■「影の船団」と金融取引も規制対象に
法律は、ロシアが原油輸出に利用する、いわゆる「影の船団」に関わる人物や企業への制裁も拡大する。影の船団とは、所有関係や運航実態が不透明で、十分な海上保険を持たないことがあるタンカーなどを利用し、西側諸国の制裁や原油価格上限措置を回避する輸送網を指す。
ロシアは2022年12月にG7などが原油価格上限措置を導入した後、西側の保険や海運サービスに依存しない輸送体制を拡大してきた。新法は、ロシア産原油の輸送や制裁回避に関わる船舶だけでなく、それを支援する企業や金融取引も制裁対象に含める。
また、ロシア政府と関係する金融機関への制裁、ロシアへのエネルギー関連製品の輸出や投資、ロシア国債の購入なども規制する。ロシアから米国へ輸入される商品については、最大500%の追加関税を設定する別の規定もある。
■インドはエネルギー安全保障を強調
インド外務省は法案の議会通過後、米国の立法動向を注視していると表明した。インドのエネルギー安全保障、国際エネルギー市場、米印関係全体に及ぼし得る影響について、米政権の高官にすでに伝えたとしている。
インド政府は、14億人のエネルギー需要を満たすことを国家的な要請と位置付け、供給先の多様化と市場動向に基づいて調達を続ける方針を示した。また、通商・経済上の利益を守るため、国内の業界団体とも連携するとしている。
インドにとってロシア産原油は、供給量を確保するうえで重要な位置を占めている。しかし、輸入量が全体の半分を超える状況では、ロシア産原油を短期間に他国産へ置き換えることは容易ではない。
一方、新法の追加関税はエネルギー取引そのものではなく、対象国から米国へ輸出される幅広い商品に適用され得る。インド政府は国内のエネルギー供給を確保しながら、米国市場に依存する輸出産業への影響も抑える必要がある。
■戦略的自律に加わる通商上の制約
インドは、米国やロシアを含む複数の大国と関係を維持しながら、特定の陣営に全面的に依存しない「戦略的自律」を外交原則としてきた。ロシアから兵器やエネルギーを調達する一方、米国との防衛協力を深め、日米豪印4カ国の協力枠組みであるクアッドにも参加している。
新法はインドによるロシア産原油の購入を直接禁止するものではない。しかし、その購入を継続する国から米国への輸出品に追加関税を課す仕組みにより、エネルギー調達と米国市場へのアクセスを結び付けた。
追加関税が最大税率で発動されるか、免除や低い税率が適用されるかは、米政権による対象国の判定と今後の外交交渉に左右される。それでも、ロシア産原油の比率が過去最高となったインドにとって、エネルギー安全保障と対米通商を同時に管理する必要性は一段と高まった。
元記事: Graham Act Gives Trump Five-Year Tariff Power Over India as Russian Oil Hits Record