中国のアルミ・氷推進ロケット「氷焔飛梭」、高度5276mで公開記録を更新
2026年9月2日 00:24
中国の北京航空航天大学と宇宙企業の奔熠科技が共同開発したアルミ・氷推進の探空ロケット「氷焔飛梭」が、内モンゴル自治区で初飛行を実施し、高度5276メートルに到達した。開発チームによる公開資料の調査では、従来の最高値は2009年に米国で記録された約400メートルで、今回の飛行はアルミ・氷推進ロケットの公開飛行高度記録を13倍以上に引き上げた。
アルミニウムと水を主原料とするこの推進剤は、月面で得られる資源を利用して現地製造するという構想にもつながる。今回の試験は探空ロケットによる地球上での飛行実証だが、将来の月面資源利用に向けた推進技術の一つとして、実機での運用に必要な一連の技術を確かめたことに意味がある。
■高度5276メートル、公開飛行記録を更新
「氷焔飛梭」は、北京航空航天大学宇航学院の宇宙動力実験室と、北京の商業宇宙企業である奔熠科技が共同開発したアルミ・氷探空ロケットだ。2026年8月24日未明に内モンゴル自治区バヤンノールで初飛行を実施し、テレメトリーによる実測高度は5276メートルだった。
開発チームによると、公開資料で確認できるこれまでのアルミ・氷探空ロケットの飛行高度は、2009年に米パデュー大学などの研究チームがNASAと米空軍科学研究局の支援を受けて達成した約400メートルだけだった。今回の試験はアジアで初めて公表されたアルミ・氷ロケットの飛行実証であり、この技術方式における世界の公開飛行高度記録を更新したとしている。
米国の2009年の試験では、高さ約2.7メートルのロケットが約396メートルまで上昇し、最高速度は時速約330キロ、最大推力は約2.9キロニュートンに達した。この飛行は、ナノスケールのアルミニウム粉末と水を凍結した推進剤でロケットを飛ばせることを示す概念実証と位置付けられていた。
■アルミニウムと水を凍らせた推進剤
ALICEと呼ばれるアルミ・氷推進剤は、ナノスケールのアルミニウム粉末と水を混合し、凍結させた固体推進剤である。アルミニウムが水と反応すると、酸化アルミニウムと水素が生成され、同時に熱が放出される。高温になった生成物がノズルから噴出することで推力を得る。
アルミニウム粒子の表面には反応を妨げる酸化膜があるため、粒子が大きい状態では水との反応を持続させにくい。ナノスケールの粉末は、より大きな粒子よりも着火温度が低く、燃焼時間も短い。パデュー大学の研究チームは、平均粒径がおよそ80ナノメートルのアルミニウム粉末を使用し、小型ロケットモーターによる燃焼試験と飛行実証を行っている。
混合直後の推進剤はペースト状で、型に充填した後に凍結して固体の推進剤とする。米国での研究では、凍結した混合物が静電気放電や衝撃などに対して鈍感であることも確認された。一方で、当時の研究は最適化された実用推進剤の完成ではなく、単純なアルミニウムと水の混合物がロケット推進に利用できるかを検証する段階にあった。
■2年以上かけて飛行システムを開発
中国の共同研究チームは2024年にアルミ・氷推進技術の研究を開始した。2年以上にわたり、推進剤の配合設計、成形と製造、点火・燃焼制御、エンジン構造などの開発を進め、複数回の地上燃焼試験と飛行状態を想定したエンジン試験を経て、ロケット全体の初飛行に移行した。
「氷焔飛梭」は、奔熠科技が月面資源利用を長期目標として進める「月極計画」の最初の飛行実証機に位置付けられている。今回確認されたのは、推進剤を製造し、ロケットエンジン内で点火・燃焼させ、飛行用の機体に組み込んで実際に上昇させるまでの一連の工程である。
開発チームは今後、アルミ・氷推進技術の工学的な応用に向けた検証を継続する方針だ。今回の到達高度はロケットの総合的な飛行結果であり、推進剤単体の効率や大型エンジンへの適用性については、今後の試験で評価を積み重ねる必要がある。
■月面資源利用につながる発想
アルミ・氷推進が注目される理由の一つは、原料となるアルミニウムと水を月面資源から得る構想にある。月の岩石や表土にはアルミニウムを含む鉱物が存在し、極域の永久影などでは水氷の存在が観測によって確認されている。
地球から必要な物資をすべて運ぶのではなく、探査先で得られる物質から燃料や建材などを製造する考え方は、現地資源利用(ISRU)と呼ばれる。現地で推進剤を生産できれば、地球から輸送する物資の一部を減らせる可能性があり、長期的な月面活動を支える技術の候補となる。
中国国家航天局は、2029年ごろの打ち上げを予定する月探査機「嫦娥8号」で、月の南極域における科学探査と現地資源利用の実験を計画している。アルミ・氷推進剤の飛行試験と嫦娥8号の実験は別の取り組みだが、いずれも月面で利用可能な資源を将来の探査活動に生かすという方向性を共有している。
■月面での製造には資源処理技術が必要
月面でアルミ・氷推進剤を製造するには、水氷を採取して精製するだけでなく、月の岩石や表土に含まれる化合物からアルミニウムを取り出し、反応性の高い微細な粉末へ加工する必要がある。地球上で材料を準備してロケットを飛ばす今回の試験とは異なり、月面では採掘、精製、粉末製造、混合、成形、温度管理までを現地の設備で行うことになる。
燃焼によって固体の酸化アルミニウムが生じることも、エンジン設計上の検討課題となる。固体生成物が燃焼室やノズルに蓄積すれば性能に影響するため、大型化や長時間運転に向けては、燃焼状態と生成物の排出を適切に制御する技術が求められる。
ALICEを用いた従来の研究でも、燃焼効率、燃焼速度、固体生成物の蓄積、モーターの大型化などが検討されてきた。こうした研究と今回の飛行実証は、アルミニウムと水という原料の組み合わせを、制御可能な推進システムへ変換するための技術開発という点でつながっている。
「氷焔飛梭」が示したのは、アルミ・氷推進剤を用いたロケットを製造し、実際の飛行環境で高度5276メートルまで上昇させられるという段階的な成果だ。今後は推進性能や再現性、大型化に加え、月面で原料を得て推進剤に加工する工程をどこまで構築できるかが、この技術を月面資源利用へ結び付ける焦点となる。
元記事: Aluminum-Ice Rocket Breaks 17-Year Record: China Flies 13 Times Higher