米国債買い戻しは「価格操作」か? ベッセント米財務長官、師ドラッケンミラー氏と応酬
2026年9月1日 07:49
米財務省が長期国債の買い戻し規模を9月から少なくとも倍増させる方針を巡り、スコット・ベッセント財務長官は31日、米国債市場は堅調だとして決定を擁護した。かつて投資の師だった著名投資家スタンリー・ドラッケンミラー氏は、買い戻しによる金利抑制では米国の財政問題を解決できないと批判している。
ベッセント長官は、20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が開かれた米ノースカロライナ州アシュビルでCNBCのインタビューに応じ、「スタンは優れた投資家だ。しかし、米国債市場は大統領就任以降、世界で最も好調な市場だ」と述べた。
世界的に国債利回りが上昇しているとの指摘に対しては、「米国ではそうではない。大統領就任以降、横ばいだ」と反論した。ただ、CNBCは、ドナルド・トランプ大統領の就任以降、米国債利回りは小幅に上昇したと指摘している。FRBの統計に基づく米10年国債利回りは8月28日時点で4.73%だった。
デュケイン・ファミリー・オフィスの創業者であるドラッケンミラー氏は、8月24日付の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルへの寄稿で、米財務省による国債買い戻し拡大を「誤り」と批判した。借り入れコストを押し上げているのは財政状況の悪化であり、政府による国債購入で利回りを抑えようとしても根本的な解決にはならないとの見方を示した。
米財務省は8月19日、残存期間10~20年と20~30年の長期国債を対象とする流動性支援目的の買い戻しについて、1回当たりの上限を従来の20億ドルから少なくとも40億ドルへ引き上げると発表した。拡大後の買い戻しは9月9日に始まり、11月4日まで実施する。財務省は、長期国債について市場参加者から質の高い売却提案が継続的に寄せられているため、流動性支援を強化すると説明した。
ベッセント長官はこれまで、1回当たりの買い戻し額が発表済みの40億ドルを上回る可能性もあると説明している。
財務省の事情に詳しい関係者はCNBCに対し、追加の買い戻しに約9350億ドルの財務省一般勘定(TGA)を活用する可能性があると語った。TGAは連邦政府の歳出などに使われる主要な資金口座で、CNBCは「財務省の小切手口座」に相当すると説明している。
長期国債利回りは買い戻し拡大の発表を受けていったん低下したものの、その後は反発した。ドラッケンミラー氏ら批判派は、米政府が大規模な債券発行を続けるなか、買い戻しによる利回り低下が持続するか疑問視している。
米財務省の公表データによると、連邦政府の債務残高は8月20日時点で40兆300億ドルに達し、初めて40兆ドルを超えた。2025年末時点では37兆6400億ドルだった。ここでいう債務残高は、投資家などが保有する「公衆保有債務」だけでなく、政府機関間の債務も含む連邦政府の総債務である。
2026会計年度の財政赤字は7月までの10カ月間で約1兆8000億ドルとなった。米議会予算局(CBO)は8月の月次財政報告で、同年度通年の財政赤字が2兆1000億ドルに達するとの見通しを示しており、2月時点の予測である1兆9000億ドルから2000億ドル上方修正した。
ドラッケンミラー氏は、高い国債利回りは市場機能の不全ではなく、こうした財政の基礎的条件に対して投資家がより高い利回りを求めている結果だと主張した。
同氏は寄稿で、「30年債が消化されるために5.5%の利回りが必要なら、それは危機ではない。請求書だ」と述べた。そのうえで、「長期金利を持続的に低下させる唯一のこと、つまり基礎的財政収支の赤字への対処に取り組むべきだ」と訴えた。
ドラッケンミラー氏とベッセント長官はいずれも、著名投資家ジョージ・ソロス氏の下で運用に携わった。両氏は1990年代初め、英ポンドの下落を見込んだ取引にも参加した。ドラッケンミラー氏は当時、ベッセント氏の投資の師に当たる立場だった。
ドラッケンミラー氏は今回、政府が非公式な利回り上限を設定しようとしていると投資家に受け止められれば、財務省の信頼性が損なわれる恐れがあると警告した。
同氏は「人為的な利回り抑制は、わずか1ベーシスポイントでも、問題の先送りに対する補助金となる」と指摘した。「市場が財務省は特定の価格を防衛していると考えるようになれば、利回りが上昇するたびに当局の決意が試される。試練を乗り切るには、買い戻しを拡大し続けなければならなくなる」と論じた。
さらに、「経済の基礎的条件に逆らって価格を防衛する政府は、必ず敗れる。違いがあるとすれば、断念するまでにいくら費やすかだけだ」と述べた。
一方、ベッセント長官は、財務省の役割について「市場が経済の基礎的条件を見ていることを確認し、市場に政策を決めさせないようにすることだ」と説明した。買い戻し拡大後の実際の市場への影響は、9月9日の開始以降に改めて問われることになる。